そろそろお暇させていただきます。2
『自殺』に関する物語です。
思うところのある方は、読まないでください。
『順番にお繋ぎいたしますので、案内に従って、ご希望の番号を入力してください』
……新しくなってる。
システムが変わってる。
さすが、この何十年を無駄に相談受けてきたわけではないらしいわ。そりゃネットで検索して、呼んでもないのに自信満々に出てくるわけだ。
ちょっと「故障のときはこちらへ」の煙に巻くようなカスタマーセンターっぽいけど、とりあえず成長は認めるわ。
『希死念慮をお持ちの方は1を。それ以外の方は2を入力してください』
いや、ストレートすぎ。
てか、「それ以外」の人いるの?
とか言いながら奥さん、素直に1と入力する。
『学校や職場のことでお悩みの方は1を。家庭のことなら2を。金銭問題なら3を。万事詰んでいる方は4を入力してください』
いや、だったら『4・万事』でしょ、みんな。
家庭でも職場でも学校でも上手くいかないから金銭面も詰んで死にたくなるんでしょうよ。
学校でイジメにあってても勉強ができなくても、家族に大切にされてたらそれが救いになるし、
職場でモラハラにあっても仕事が出来なくてツラくても、家族が転職すれば?って言ってくれたら救いになるでしょ。
お金に余裕があれば転校もできるし、転職までの間食つなぐこともできる。経済面で憂いがなければ家庭も安定でしょうよ。
それが全部詰んでるからここに電話かけてるんでしょ。
番号選ぶ意味。
奥さん、迷いなく4を入力した。
『希死念慮を持ち始めて3か月未満の方は1を。半年前後の方は2を。1年以内の方は3を。10年以上だと言う方は4を入力してください』
幅。
3と4の幅。
しかも「10年以上の方」じゃなくて「10年以上だと言う方」って、なんかこっちがマウント取ってるみたいな言い方じゃない?ベテラン風吹かせやがってwって、ちょっとなんかバカにしてない?
いや、こっちだってさ、好きで10年以上も死ぬに死ねない人生送って来たわけじゃあないのよ。
いい?40年以上よ。こちとら小学生のときからずーっと死にたいと思って生きてきたんだからね。ちょっとやそっとの年季じゃないよ、希死念慮。
同級生には無視されるは、親に言ったら「そんな奴ら相手にするな、勉強で見返してやれ」って言われて、でも勉強ができないから「おまえがバカだからバカにされるんだよ!」って余計怒られるわ、先生には相手にされないわ、散々な小学校時代から始まったんだよ、人生。
あの頃どこで仕入れた知識か、徴兵逃れみたいな方法で死のうとしたもんだ。
ま、できるわけないんだけどね、子供のやることだから。
中学校・高校に上がるにつれ露骨ないじめはなくなったけど、陰湿な奴らはいっつも自分たちと違う誰かをクスクス笑ってたよ。でも、こっちもだんだん気配消す術を覚えて、クスクス笑ってる奴らを観察できるようになってきた。
そしてじっくり観察してわかる。
クスクス笑ってる奴らはそのまま大学生にもなるし、バイト先にでは同僚にもなるし、職場では先輩にも上司にもなる。
世界は自分以外の人間でできている。
いじめっ子でできているんだってね。
まあ、そんなことを言っても被害妄想が過ぎる、おまえはそれを指摘できるほど善人か?ってどこかの誰かに心の中で言われるんですけどね。
だったら、どこかの誰かにターゲットにされないように、自分も誰かをターゲットにしないように隠れて、引きこもって生きてりゃ、なんとか死なずに生きていけるもんだって気づきましたけどね。
というわけで奥さん、学生時代から年季の入った希死念慮。『10年以上』の4を入力した。