大人の階段(二段飛ばし)
デザートを食べ終え、コース料理の余韻に包まれるなか、誰もが満ち足りた笑みを浮かべていた。
そんな穏やかな空気の中、チャットさんが手をポンッと叩き、皆の視線を集める。
「さて、今宵はもう一つ、とっておきのデザートがありますよ!」
「わーい! 大将のお団子待ってましたー‼」
テーブルの中央へ運ばれてきたのは、桃色・白・緑の三色団子が美しく盛られた一皿。丸くて可愛らしいその見た目に、歓声があがる。
桃色はバラ、緑色はよもぎで着色されている。よもぎは俺の発案で、バラはチャットさんの提案だった。
「おお〜! これが大将の手作り……すごいね、アテナお姉ちゃん!」
「なんて可愛らしい見た目なのかしら。まるで宝石みたい!」
「よしよし、じゃあまずは俺が——」
ガストンさんが勢いよく一口かじった瞬間、目を見開いた。
「んんっ⁉ ……これ、めちゃくちゃウマいぞ! このもちもち食感がたまらん……!」
むしゃむしゃと頬張るガストンさんの姿につられるように、皆の手が団子へと伸びていく。
「う~ん、美味しいですね、お父様! 見た目も味も最高ですわ!」
「ほほぉ、たしかに美味いのぉ。もちもちしとるのに、ちゃんと歯ごたえもある。不思議な食べ物じゃな、これは」
「おいひーれす。さすが大将れす! ララ、あと五個はいけまふ!」
団子を頬張ったまま喋るララを、レイラさんが眉をひそめてたしなめる。
「ララ様、食べながらお話するのはおやめくださいませ!」
「は、はいれす……」
そのやり取りに、また一段と笑いが広がった。
みんなが口々に団子を褒めてくれて、俺は少し照れながら「ありがとうございます」と頭を下げた。
そこへ、チャットさんが一本の大きな瓶を片手に立ち上がる。
「さて、団子も大成功だったことだし……今宵は、太郎の頑張りに乾杯といこうじゃないか! 僕の特製サングリア、みんなにも振る舞いますよ!」
「おっ、気が利くじゃねーか、チャット! ジャンジャン注いでくれや!」
杯に注がれた深紅の液体には果実がたっぷり漬け込まれていて、見るからに美味しそうだった。果実の芳醇な香りが鼻先をくすぐる。
ララ以外の杯にサングリアが注がれ、ガストンさんが乾杯の音頭を取ろうとした、その時——
「(ドンッ!)ちょっと待ったぁ~です!」
ララが机をドンッと叩きながら、威勢よく叫び出した。
どうやら自分だけサングリアを飲めないことに、納得がいかないらしい。
だが、そんなララの気持ちを見透かしたかのように、チャットさんがにこやかに笑いながらララの杯に琥珀色の液体を注ぐ。
「ララちゃんには、マンサナ(りんご)ジュースだよ。君にお酒を飲ませるわけにはいかないからねっ」
そう言って、軽くウインクする。
「あ……ありがと……です」
ララの頬が少し赤く染まった。
うん、わかる。わかるよ、ララ……その顔でウインクなんてされたら、そりゃそうなるよねぇ!
ガストンさんが咳払いし、仕切り直す。
「てことで、みんなグラス持ってるな! んじゃ、改めて。今後の我々の大いなる発展を願って——乾杯‼」
「かんぱ〜い‼」
「……か、乾杯……!」
俺もグラスを掲げ、恐る恐るサングリアを口に運んだ。
一口目——口の中に広がるほろ苦さと、果実の甘み……そして、ほんの少しピリッとした刺激が広がった。
あれ……? これ、普通に美味しいな。お酒って、こんな感じなんだ……。
もう一口……喉をぐいっと通った、その時だった——
カァァァァァッッ……!
顔、耳、頭の先まで、一気に熱が広がり出す。
……? なんか……フワフワ……する……。
ふらりと体が揺れた。グラスを持つ手が、ぷるぷると震える。
「お、おいおい太郎⁉ もう顔が真っ赤じゃないか⁉」
「大将⁉ ありゃりゃ~。おめめがとろーんってなってるです」
世界が、ゆらゆらと霞んでいく……。
ぼやけていく視界の中、チャットさんの顔が、すごく近くに見えた。
「あ、あぁ~、チャットさぁ〜ん……しゅき……」
「ちょ、太郎⁉ 大丈夫かよ、おい……」
そのまま俺は、チャットさんの肩にぽすんと頭を預けた。
「も、桃くん……ダメだこりゃ。完全に酔っちまってる」
「うふふ……だんご……まるい……やわらかい……チャットさんのほっぺも……ぷにぷにやわらかぁ……」
頬をぷにぷにとつねられ、苦笑いを浮かべるチャットさんの姿に、また一段と笑い声が弾けた。
こうして俺は、初めてのお酒に、完ッ全にやられてしまったのだった……。
サングリアのほろ苦さと、温かな笑い声を胸に残して——宴はゆっくりと幕を閉じた。
目が覚めると、俺は昨日と同じベッドの上にいた。いつの間にか広間から移動していたらしい。
隣のベッドに眠るララを起こそうと体を起こしたその瞬間、ズキッと頭に鈍い痛みが走る。これが……噂に聞く二日酔いってやつか。
人生初飲酒、そして初二日酔い。まるで、大人の階段を二段飛ばしで登ったような気分だ。
「おーい、ララ。もう朝だよ……って、もう朝じゃん‼」
「……ん、ゔ~ん、大将~。おはざいます~むにゃむにゃ……」
「ララ、大変だよ! もう朝だってば‼」
「なんですか~大将~。朝っぱらから、クソやかましいです~」
ク、クソやかましいって……。この子、もう少しレイラさんに調教しておいてもらおうかしら……。
「ほら起きて、ララ! アビフ様たちが集落に戻っちゃうじゃん!」
「何言ってるですかぁ~? アテナお姉ちゃんたちは、もう居ないですよ?」
「……えっ⁉ どゆこと……ですか?」
昨夜の出来事を、ララがぽつぽつと説明してくれた。
どうやら俺は完全に酔っ払ってしまい、チャットさんに——お姫様抱っこで(キャッ)——ここまで運ばれてきたらしい。
その後ぐっすり眠っている俺を置いて、コボルトの皆は夜遅くにテソーロを後にし、集落へと帰っていったそうだ。
ティガも、アビフ様の許しを得て、一緒に戻ったらしい。
見送りもできなかったなんて……何とも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あっちゃ~、やっちまったなぁ……」




