捨て犬みたいな君
「あら〜!サクヤくんはまだ十六歳なの〜?青春ね〜」
「お母さん!僕のことはサクって呼んで下さい!」
「あら、サクちゃん?かわいい呼び名ね〜」
俺が風呂の用意をしていると、部屋で母さんとサクヤが楽しそうに談笑している声が聞こえてくる。
………はぁ…。これからどうしたものか……。
なんでか知らんが二人…意気投合してるし……。
そういえば母さんは昔から、捨てられている犬や猫を見ると放っておけなくて度々拾って来ては俺を困らせた。その度に『普通逆だろ!』とよく怒ったものだ。
そんな俺が今や、母さんが拾って来た犬猫なんて比じゃないくらい、とんでもないものを家に連れ帰って来てしまうなんて……。
……それはそうと、母さんのあんな楽しそうな声を聞いたのはいつ振りだろう。……って、いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
こんな逆境人生でも、どうにか平穏で静かな毎日を送ろうと、俺なりに努力してきたのに…。何でこんな事にーー
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「家に…連れて帰る……?誰を?」
「僕を」
「誰が?」
「お兄さんが」
「…………誰の?」
「お兄さんの家に決まってるじゃん」
「あ、あの……ちょっと言ってる意味が……」
「僕、帰るとこがないんだー。まぁ、いわゆる…家出少年ってやつ?」
「家出少年…。それ自分で言うか?」
「だ〜か〜ら〜、せめて今日一日だけでも!お願い!」
「駄目です。そもそも、未成年を家に連れて帰ったら、俺、捕まるからね?」
「僕が黙ってればいいでしょー?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
「君ね…。懲りてないの?さっき危ない目に合ったばかりだよね?」
「あ〜、さっきのおじさん?んー、でも基本、お客さんのほとんどはおじさんだからなぁ。…あ、ていうか、僕の名前、サクヤだから。サクヤ、でも、サク、でもサクちゃん、でも好きに呼んでいいよ!」
やっぱり俺が口出しする話ではなかったか……。俺がした事はこの子にとっては余計なお節介だったってことだ。
「まぁ…確かに?今まで危ない目にも色々あってきたけど…。お兄さんは大丈夫!」
「君、危機感なさすぎ。俺もさっきの男と同じ。君にとっては見ず知らずの人」
「だから、君、じゃなくてサクヤだってば。…こう見えていろいろ経験してきた僕には分かるんだよねぇ……。お兄さんは絶対良い人だって。それに…イケメンだし……」
そう言いながらサクヤが俺の髪に触れようとした。
「いい加減にしろ」
俺はその手を払い除けて歩き出した。
「…へー!いいんだぁー!僕がさっきみたいなおじさんと、あーんなことやこーんなことして」
俺の横を犬みたいに付きまといながら煽ってくる。
俺は構わず歩き続けた。
「お前さっき、相手はおっさんばっかりって言ってたろ」
サクヤの足がぴたっと止まる。
「……さっきのは冗談。ほんとは今日が初めてなんだ。あんなことしたの」
「えっ?」
「ほんとは…さっきもすごく怖かった……」
マジかよ……。それだと話が変わってくるじゃないか……いや!待て待て。家には母さんがいる。こんなの連れて帰ったら……い、いや!違う違う!そういう問題じゃない!未成年者を家に連れ帰ったなんて事が世間に知られたら……社会的に……抹殺される……。
だいたい、今日一日この子を家に泊めたところで根本的解決にはならない。この子が…サクヤが本当に家出少年ならこのまま見捨てて帰るわけにはいかない……。
「分かったよ……。じゃあこれから一緒に警察に行こう。そこで保護してもらってーー」
「……お兄さんは今まで、一度も家出したいって思ったことないの?」
「幸せな人生でいいね」
じゃあ、さよなら。サクヤはそう言って俺に背中を向け歩き出した。
あるよ。俺にだって。何度も何度も。数え切れないくらい。
俺の為に自分を犠牲にしてくれた母さんを捨てようとした日が。
なにもかも全部終わりにしようとした日が。
あるに決まってんだろ。誰が幸せだって?お前に俺の何が分かるんだよ。
「サクヤ!」
後先も考えず呼び止めてしまった。
もう、どうにでもなれ。
「一応、聞くけど、お前いくつ?」




