宇宙旅行するなら、温泉ってプランに入ってますか?
西暦3023年。宇宙へ進出した人類が、惑星間航行技術を元に宇宙旅行を楽しむようになった時代。
宇宙にはまだ見ぬ景色がたくさんあり、夢のような星空が広がっている。
そんなうたい文句に感動して、私、檜山泉もこの春から宇宙旅行専門の旅行代理店で働き出したばかりだ。
――だけど、その1年後。私は採掘ロボ片手に宇宙へ飛び出していた。
理由は単純。ある人に、宇宙で温泉旅行がしたいと言われたからだ。
「酸素濃度、水質共に良好。ハビタブルゾーンギリギリの辺境惑星だけど、その分、恒星に近くて盛大なオーロラが見れるし、とってもいい場所だって思わない?」
「はぁ。ボクはあなたと一緒に地球を出た時、ただの採掘ロボだったはずなんですが……。なんでこうなったのか」
「そんな細かいこと気にするより、これからどうやってこの星にお客さんを呼ぶかを考えよう!」
「そうですね。あなたはそういう人でした」
諦めたような目でかぶりを振る青年型アンドロイドの肩を2、3回叩いてから、私は噴水の如く吹き上がる源泉に目を向けた。
「……まにあうかな」
「あなたが感傷に浸るなんて珍しい」
「そりゃあね。ただでさえ少なくなった日本人の、しかもお婆ちゃんだよ。急がないと約束に間に合わないじゃん」
「ああ、わざわざあなたを指名して宇宙で温泉旅行がしたいとか、無理難題を言っ……いたっ! なにするんですか!」
その気になれば、1000を超える敵性生命体や宇宙マフィアと単騎で渡り合える性能を持った最新鋭アンドロイドが、私のげんこつ一発で涙目になった。
「そいういうこと言わないの! お母さんに習わなかったの?」
「私は今でこそアンドロイドですが、その前は量産型採掘ロボなので、生憎と母は存在しません」
さらに言葉を重ねようとする元採掘ロボを、目をすがめて黙らせる。
「本題に入りましょ。管理者権限にて惑星管理機構へ温泉所有権と、観光施設開発の許可申請」
「了解。通信回線開きます。泉質データ、周辺地盤の調査結果、敵性生命体の排除記録添付」
しばらくして、惑星管理機構より申請の許可が下りた。すぐさま私は温泉施設の工事発注を指示する。
「どうしてそんなに急ぐんですか?」
そんな私を見て、元採掘ロボが不思議そうに私を見た。
「お婆ちゃんがね、旦那さんを湯治に連れ行ってあげたいって言ったんだ。今の地球にはそんな場所なんて無いし、私がやらなきゃって思ったの。だからさ、これからもよろしくね相棒!」