第三話
僕は恐る恐るレットの名を呼び歩き回る。
「レット?何処にいるの?」
……怖い。恐怖が身体を支配していく。
"もう死ぬのは嫌だ"
その言葉が頭の奥底でこだまする。
もうあんな痛みは受けたくないのだ。
「……オンド?」
不意に後ろから声が聞こえる。
「レット?」
振り向こうとしたが、何か違和感を感じ、躊躇った。
「オンド、どうしたの?こっち向きなよ」
……声が少し違う。
この声は元のレットの声より少し低いのだ。
何か変だ。
逃げないと。
そう本能が警報を鳴らしている。
冷や汗が止まらない、頭はもうすでに真っ白になってしまっている。
「オンド、はやくこっちをむ」
__ザシュッ!
何かが物体を切り裂いた。
何が何だかわからないが、今しか逃げられないと感じ、慌てて逃げる。
逃げようとした。
「オンド!こんなとこにいたの!?」
この声はレットのものだ、そう直感した。
「レッ、ト?」
途端に力が抜け、地面に座り込んでしまう。
情けないことに涙も出てきた。
「え、オンド!?どうしたの!?」
泣いてる僕を見て、レットは慌てたように手を動かす。正直今思えば、面白い動きだった。
「何でもないよ。ただ、安心しただけ」
グズッと鼻を鳴らしながらも何もないことを伝える。
「そう、よかった!」
レットは安心したように言った。
「それじゃあ、先に進もっか。霧も晴れてきたところだしね」
辺りを見渡すとさっきまで少し先が見えなかったほどの濃い霧がなくなっていることに気付く。
これで先に進めると思うと嬉しくなった。
「行こっ、オンド」
レットが僕に手を差し伸べてくれる。
「うん」
その手を握り立ち上がった。
レットが先頭を歩き、僕はしっかりと後ろについていく。
そういえばと、今さっき僕が立っていた場所を見るとそこには……
___何もなかった。
あれは何だったのだろうか?