第一話
その少女は、青白い顔をして叫んでいた。
「___!」
僕は、ただ何かをすることもなく、闇に飲み込まれていった___。
「やあ、君は誰かな?」
突然頭上から声が聞こえてくる。
僕は顔を上げ、声の元をみる。
そこには、屈んだ自分を覗き込む、可愛らしい少女がいた。
「名乗るなら自分から、だよね。私はレット。ここら辺のモンスターを狩ってる者だよ。君は?」
そう言いながら僕に手を差し伸べてくれる。
僕はその手を掴みながら立ち上がった。
「僕は……。」
"わからない"
「わからない……?」
その言葉を声に出す。
突如として浮かんだ返事は、僕自身も驚く、想定外の言葉だった。
「?」
レットは不思議そうに首を傾げる。
僕だって、自分のことがわからないことに違和感を覚える。
なんでだろう……。
「もしかして、記憶喪失?ここがどこかわかる?」
"わからない"
「わからない……。」
さっきから出てくる言葉はずっと、"わからない"しかない。
辺りを見回すが、森の中ということしかわからない。
「ここはね、マラクデリアっていう地区だよ。このまま森を真っ直ぐ進んでいくと、街が見えてくる。そこまで行けば、とりあえず安全だよ。連れてってあげる。」
親切に説明をしてくれた。
街に行けば何か僕のことがわかるかもしれない。
そう思いながら、僕はレットの後をついていった。
途中、レットは森についての知識をたくさん教えてくれた。
このキノコと木の実を煮ながら混ぜると、薬ができる、とか。
この森の鹿は、羽が生えているけど実は飛べない、とか。
色々なことを話してくれて、僕は退屈しずに森をぬけることができた。
___できたと思っていた。
僕の視線がガクッと落ちる。
気がつくとそこには、紅い草花が広がっていたのが見えた。
「あ…れ……?」
瞬間、腹部から焼けるような痛みの信号が脳に送られてきた。
……無意識に動こうとしても、下半身が無い。
僕は今、どうなっている?
レットの方を見る。
「まさか、君が……。」
"___。"
そう言いながら彼女は、揺れた瞳で僕を見る。
彼女の手には、どこから出したのかわからない、血に染まった大剣が握られていた。
その表情は、怒りと悲しみを混ぜたような、そんな表情だった。
だんだんと視界が暗くなっていく。
「僕自身もわからないんだね。忘れてしまったんだね。」
ふと口から言葉が出てくる。
そこで意識は途絶えた。