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学校内の銃撃戦

「淳……?」


 倒れた彼を見て、頭が真っ白になる。

 血が出ている。赤い、真っ赤な花が咲いている。それはここ最近すっかり見慣れてしまったものだ。先ほどだって食人鬼の男が死んでいたところだった。


 でも、それとはわけが違う。だって彼はあたしを助けたくれた人で、大好きになってしまった人で――。


「伏せてくださいっ」


 混乱するあたしの脳内に、悲鳴のような声が届く。

 この声の主が茉麻だと気づくと同時に、あたしは地面へ押さえつけられる。


 一体何が。状況が呑み込めず、しかし顔を上げることも許されなかった。


 何回かドスン、ドスンと低い音がし、何かが頭上を通り過ぎていく。

 そしてあたしはようやく理解する。


 ――それが銃声に他ならないのだと。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 淳が何者かに撃たれた。

 さらに現在も、あたしたちはその人物に狙われ続けている。


 とにかく脱出しなくちゃ、と思った。

 でもどうやって? こちらの居場所はバレている。被弾するのも時間の問題だろう。

 けれど、そこまで考えている暇がなかった。バッと起き上がると、真麻の手を引っ掴み、淳の体を持ち上げて、無茶苦茶に走り出す。


「お、お姉さんっ!」


 茉麻が何か言っている。でもそれに答える余裕はなかった。


 ……ドスン。ドスンドスンドスン。

 繰り返し響く銃声と、高校の廊下を満たす鋭い光。

 銃口からは火花が出るとは聞いたことがあったがあれは本当だったのだ。まるで米国の映画みたい。


 その間にも発射は続く。

 銃弾が耳元を掠めて行った。その瞬間に右耳から血が溢れ出し、あまりの激痛に膝を折りそうになる。

 しかしここで死んだら終わりだ。だから死ねない。走る他なかった。


 こちらには武器がないのに、正体不明の相手には銃がある。

 こんな不利な状態でどうして生き延びることができるだろう。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 走って走って、ひたすら走って。

 腕の中で淳が冷たくなっていくのを感じて、でもそれを信じたくなくて、走り続ける。

 銃撃主はおそらくあたしたちを追いかけて来ている。なんとか追いつかれないよう、息が切れても足を止めなかった。


 高校の教室があった。二年一組と書いてある。あたしはそこへ一も二もなく飛び込み――後悔した。


 そこには拳銃をこちらへ向けて待ち構える女が立っていたのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 無防備にこんなところへ来なければ良かった。

 しかし悔やんでももう遅い。今にも銃口から火花が散り、あたしの命を呆気なく散らすだろうから。


 挟み撃ちにされていたのだ。背後の狙撃手が追い立て、ここへ誘い込む手口だったに違いない。あたしは誘導されるがままになったわけだ。

 でもその場合、一つだけ疑問が残る。もしかして……最初からあたしたち、否、あたしが人間であることに気づいていながら撃っているのではないか?


「撃たないで!」無駄だと知りつつ叫んだ。「お願いです。だから撃たないで」


 茉麻が震えている。あたしは彼女を胸に抱き込んだ。

 いざとなったら彼女だけでも。いいや、そんなことは無理に決まっている。どうせ撃たれるだけだ。

 どうしたらいい。どうしたら助けられるのだろう。


 しかし、今にも拳銃の引き金を引くところだった女は、あたしをじっと見つめてこう言ったのだ。


「――そこから動くな。あなたたちが食人鬼なのかどうなのか、今から私が見て判断する。ただし、一歩でも動けば殺す」


 しかしそれは何の救いにもならなかった。

 あたしはともかく、それでは淳と茉麻は殺されるということだ。

 どうすべきかと考える。悩んだ結果、出した答えは一つだった。


「わかった。わかったから助けてください」


「あなたたちは侵入者だから、簡単に助けるなどとは口にできないわ。でももし本当に人間であるのなら――」


 そう言って歩み寄ってくる女。

 二十代くらいだろうか。おっとりした喋り方なのに、その目に殺意すら込められているのが恐ろしい。

 そしてちょうどいい間合いになった、その瞬間。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 二人の体を地面に放り出し、全身の力を込めて地面を蹴る。

 あっと驚く女に飛びかかる。そのまま彼女に思い切り馬乗りになると、手から拳銃を奪った。


「な、何を!」


 叫ぶ女をよそに、あたしは拳銃を教室の窓へ投げつけた。

 ガシャン、と大きな音がし、窓が割れて拳銃がガラスの破片と共に外へ落ちていく。


「お願いだから話を聞いて。あたしたち、あなたたちに悪いことをする気は」


 しかしあたしの声は途中で遮られた。

 再び銃声がし、足に激痛が走ったからだ。


 ああ、もうダメ。

 そう思うが早いか、あたしは意識を手放してしまった。

 

 

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