生き残りを探して
あれから数日。
あたしたちは、町から街へ、はたまた村へと旅を続けていた。
その間に特に変わったことはない。
幸いにも茉麻はあれ以来暴走することはなくなった。人の死体を食べる度に涙を流すその姿は哀れでならないが、こればかりは我慢するしかないだろう。
彼女はどうやら、淳と同じ理性を保てるタイプらしかった。
でも、だからと言っていつ食欲を爆発させてもおかしくはないから、安心はできないのだけれど。
あたしたちが今探しているのは、食人鬼を救う方法。
そのためにも生きている人間と出会い、知恵を貸してもらう必要があった。
だがどれほど歩いても、あるのは死体と理性を失った食人鬼ばかり。
言葉の通じる相手には出会えていなかった。
「もしかして……もう、私たちだけなんじゃないですか?」
不安そうにそう問いかけてくる茉麻。
あたしは「わかんない」と首を振る。日に日に食人鬼が増え、人間は減少しているはずだ。確かにもう日本にはいないのかも知れなかった。
しかし淳は力強くかぶりを振る。
「日本だけでも人口が一億以上あるんだ。普通に考えてもみろ、まだ一ヶ月も経ってないんだから、全滅しているはずがない。ある程度は逃げ延びてるさ」
「うん。そう、だよね。きっと大丈夫だよね」
淳の言葉の通りであったならいいが。
不安を抱えつつも頷いて、あたしたちはさらに進んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして辿り着いたのは、とある街の高校だった。
近隣の市役所に忍び込んで、避難所に指定されている場所を探した結果がここだ。ちなみにその市役所だった場所は食人鬼と自殺者にまみれ、その機能をすでに果たしてはいなかったが。
「こ、この高校、なんだか不気味です……」
「茉麻ちゃん、大丈夫。しっかりあたしの手を握ってて」
あたしも怖いが、小さな女の子の手前、強がるしかなかった。
この中に生存者がいるのかはわからない。しかし確かめるため、中に入って行った。
「――――――」
校門を乗り越えて、校内へ足を踏み入れる。
そこは静かだった。太陽が南の空に輝いているというのに、まるで夜みたいだ。
だがそれは終末世界ではすっかり当たり前になってしまったことだ。今更不思議に思いはしない。
校門に人影はなかった。教室などにも灯りはついていない。人の気配も皆無だ。
「そういえば、あたしの高校ってどうなったんだろうな……」
そんな様子を見ながら、あたしはふと通っていた高校のことを思い出す。
運動部で一緒に笑い合ったあの子たちも、きっと今頃は死んでいるか食人鬼になって口から血を垂れ流しているんだろうと思うと悲しくなる。
「メソメソしてる場合じゃないだろ。……何か来るな」
校舎に入ってしばらくした時だった。
淳がそう言った瞬間、目の前に何かが現れたのだ。
「ガァ、ガァ、ハァ……」
それは、血を流して喘ぐ男だった。
スーツらしきものを着ているが、明らかに人間ではない。その目を見るに食人鬼で間違いないが、彼はすでに瀕死だ。
出血場所である肩には大きな穴が開いていた。
食人鬼はこちらを睨みつけ、呻くが、もはや襲って来る力すらないのだろう。
その場に倒れ、すぐに動かなくなった。
「……ひっ」
茉麻が悲鳴を漏らし、あたしは思わず目を覆う。
しかし淳は動じることなく死体へ駆け寄り、それを貪り始めた。茉麻もやがて同じように食べ始める。
新鮮な肉は彼らにとって大好物らしい。あたしはとてもじゃないがその光景は見ていられないけれど。
「ね、ねぇ。さっきの食人鬼、何なの……?」
二人が食べ終えると、あたしは震える声で訊いた。
「どうやら何かで殺られたらしいな。傷口から見て、飛び道具で狙われたんだと思う」
「飛び道具って……?」
と、その時だった。
静かな校内に突然、耳をつん裂くような轟音が響き渡ったのは。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして光と轟音が過ぎ去った後、目の前で、少年の体が横倒しになっていくのをあたしは見た。