表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R. I. P.  作者: ギイル
1/1

【6 feet under】




――おめでとう。延命技術の進化の末に貴方達の寿命は延びました。よかったね。


 rip標準時よりおよそ6年と66日前。雨降るその日、仮想世界『R. I. P.(リップ)』の電光掲示板を賑わせたのは、淡白な、しかし人を小馬鹿にしたようなメッセージだった。






「仮想世界『R. I. P.(リップ)』へようこそ。当サービスでは理想の永眠を提供致します」

砂嵐を映し続けるモニター以外に何もない部屋に椅子が一つ置かれていた。

「当社の『R. I. P.(リップ)』に登録する際には必要事項に同意していただく必要がございます。まず初めに…」

電子音が書類の上の言葉をなぞる。

「当社の規定に則り身辺整理を行い、該当する財産に関係する物を処分しましたか」

「はい」

「当社の規定に則り個人情報の消去、該当する自身に関係する物を処分しましたか」

「はい」

「当社の規定に則り人間関係の整理、該当する間柄に関係する物を処分しましたか」

「はい」

当社の規定に則りその他エトセトラ――。

その後何度「はい」と口にしたかは憶えてはいない。

「最後に。18歳未満の場合は保護者の同意が必要となります」

これは『R. I. P.(リップ)』に登録する際の最後のひっかけ問題。

「両親はいません。また保護者に該当する者もいません」

一言一句丁寧に言葉にする。画面の向こうの声は暫く間をおいて「承認しました」と一言添えた。

また暫くして灰色の砂嵐だった画面が揺れた。

「仮想世界『R. I. P.(リップ)』へようこそ。当サービスでは理想の永眠を提供致します」

先程の砂嵐とは打って変わって、モニターには近未来的な建築群を基とした街並みが映し出されている。徹底的に現実が排除された街はどこか不気味だ。

(せい)(苗字)、(めい)(名前)、(あだな)(登録名)、(ごう)(呼称)を登録してください」

「姓と名は登録無し。字はナナシノで。号は無し」

「承認しました。姓無し、名無し、字名無(メイム)、号無しで宜しいですか」

「はい」

鏡に映したように画面の向こうの景色に自身の姿が生成される。軽く挙げた右手に呼応するように、画面の中の自分が手を振った。

「それではいってらっしゃいませ、名無(メイム)様」

「うん」

こうして姓無し、名無し、字名無(メイム)、号無しの誕生を最期に、仮想世界『R. I. P.(リップ)』のサービスは終了した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ