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拉致

スマートフォンにて失礼します。

 繁華街のゲームセンターで適当に選んだリズムゲームを遊ぶ。既に今のプレイでこの難易度のハイスコアは更新してしまい、少しも張り合いが無いことにがっかりする。


 ──いつまでそうしてるんだ。


「………」


 リズムゲームから離れて今度は格闘ゲームの筐体に座り適当にCPUと対戦する。どれも戦っていてつまらなかったが、対戦を申し込まれたので少し気合いを入れて闘ったらあっさり勝ててしまった。続け様に申し込まれてそれでまた対戦してまた勝ち、また申し込まれて勝ち、そんなことを5回ほど繰り返したら誰も私に対戦を申し込まなくなった。


 ──いい加減覚悟を決めろ唐竹明日見。


「………」


 仕方が無いのでガンシューティングの大きな筐体で遊んだのだが、100円でエンディングまで行けてしまい少しお得な気分になった。壮大なストーリーを、これほどの安さで見させてくれてありがとう。


 ──そんなことは時間稼ぎにもなりゃしない。


「………」


 クレーンゲームはスルー。一日のバイト代が消し飛んで以来あれは私にとってのブラックホールだ。つまり近付いてはいけない。中にある縫いぐるみが如何に可愛くとも、アレに近付いてはならない。ならないったらならない。


 ──いつまでそうしてるんだ。

 ──いい加減覚悟を決めろ唐竹明日見。

 ──そんなことは時間稼ぎにもなりゃしない。


「………」


 私の理性は先程からこの言葉をずっと繰り返している。

 わかってるんだ。本当はわかってる。私のことを話すのに学校のことは関係ないだろ?だったら私の所感で話せばいいだろ。未来(みく)なら同情してくれる。お母さんも頭を撫でてくれる。お父さんだつて労いの言葉をくれる。


「………」


 なのに足が家に向かない。

 どうしてかは解ってる。やっぱり怖いんだ。今まで吐き続けた嘘を告白することが。お母さんは薄々感付いて居るみたいだけど見えないフリをしてくれてる。お父さんはひたすら話してくれるのを待ってる。未来もどこか賢いところがある。


「……っ」


 でも。だけど。やっぱり。それでも。

 心の中で言い訳をいくつも並べる。3ヶ月間吐き続けた嘘を話さない言い訳を。たった3ヶ月の嘘を話そうとするだけでこれだ。自分でもどうかと思う。それでも私は…。


 そんなことをぼんやり考えていたためだろうか。

 後ろから歩いてくる気配に気が付かなかった。


「──っ!?」


 後ろから手を回され口元に何か布を当てられていた。体格からして男だろう。気が付いたら周りに人気は無く、助けを呼ぶにも声が出せない。足をばたつかせて周囲の遊戯機器を蹴って音を鳴らしてみるも鈍い金属音が空しく響くだけで誰にも気付いて貰えなさそうだ。

 そうこうする内に私は薄暗い路地裏に連れ去られた。


 ◇ ◇ ◇


「おっ、来たな~」

「こらこら暴れんな!」

「そっち押さえろ!今日は大分生きが良い!」


 私を連れ去った男は仲間の下に連れて行くと、暴れる私を複数人係で押さえ込んでからガムテープで口を塞ぎ、手足をビニールテープで縛り路地の真ん中に転がした。


「…っ!(ガタガタ)」


 私は気丈に睨み返すも体は震えていた。今からされることに対する恐怖か、自分の不注意に対する怒りかは今の私には判断が付かない。


「いや~でもなんでこいつなんですかね?」

「千田のとこの考えなんか知るかよ、俺はあっちで見張ってくる」

「ここをこうしてっとぅ、スマホカメラセットか~んりょ~う」

「お、リョウちゃんナーイス!ンじゃあさっそく──」


 そう言って男の一人が私に手を伸ばしてくる。私は何とか動きにくい体を動かして彼から後ずさる。


「オイオイ逃げるなよ~ダイジョブダイジョブあまり痛くしないカラ~」

「──ンンンッー!」


 体に手が触れる。声を上げようにもテープで口を塞がれて呻き声にしかならない。


 ──いやだいやだ気持ち悪いキモチワルイ私に触るな!ヤダヤダヤダヤダヤダ!!


 渾身の力で暴れる。手元が少し緩んだ気がしたが拘束は外れない。


「あーもう!大人しくしろやオラッ!」

「ンンッ!?」


 背中を蹴られて転ばされる。痛くて怖くて気持ち悪くて頭がどうにかなりそうだ。でも諦めるわけにはいかない。


「あーーーー!」

「なんだどうしたリョウちゃん?」

「メモリが一杯でこれ以上撮影できなくなってる!」

「ハァー!?何やってんだよさっさと空けろ!」


 後ろでもめる声が聞こえる。今の内に拘束を外そうとまた暴れる。


「いやそれがどれもこれも──」

「チッこら大人しくしとけ!!」

「ンッ!」


 今度は腹を蹴られた。かなり力が強かったらしく1mくらい転がった。男はそれに目もくれず、もう一人の男の下へ向かった。また拘束を外そうと暴れる。


「あーこれはダメだな、これもダメこれもダメこれもこれもダメ」

「タカちゃん何でそんなにダメなん?」

「どれもこれも大事なお宝映像なんだよ、こいつらから巻き上げた金で俺たちは遊べてるの」

「普通にパソコンに入れンじゃダメなん?」

「あんな?一応これ立派な犯罪だかんなハンザイ、出来ればあまり記録は残したくないっつーか」

「おいあまり騒ぐなポリ公が来る」

「ゴメンゴメンシンちゃん」

「でもどーするよ?俺のスマホ使えないぜ?」

「アイツのスマホ使えそうか?」

「鞄見りゃ良いじゃん」

「オーキードーキー」


 男の一人が私の鞄を開け始める。アレ?確かあの中って。


「お!あったあった~へー最新機種使ってやがるぞこいつ」

「ロック外せそう?」

「番号式だから総当たりするぞ、取り敢えずなんか適当に…」

「あまり時間を掛けるな、人に見つかる」

「はいはい急かすなって」


 ──?どう言う事?彼らにはアレが()()()()()()って言うの?

 あともう少しで手首が外せそうだ。割と腕が細い方で何とかなりそう。


「あ!番号は外せたけど今度はフリックパズルだ面倒くせー」

「あれ?最新機種って事はさえーっとホラ!アレだよあれえーっと…」

「なんだどうした?こっちはまた総当たりをしてるってのに」

「あれー?何だったかな?もっと簡単に外せるはずなのに…」

「良いから黙るかこっち手伝え」


 ──よし!外れた!手が使えれば足も何とかなるよね?


「これもダメか、アイツはどうしてるかなっと?」

「──っ!!」


 ──まずい!

 男が徐に私の方を振り返った。

 とっさに後ろ手を隠して拘束されてるフリをする。


「…?気のせいか」


 何とか誤魔化せたようだ。それにしても、思った以上に適当に結ばれているが結ぶまでの手際はすごく良かったと思う。

 今までも同じような手口で餌食になった娘が居ると思うと、やるせない気分になると同時に今すぐその膨らませた股間を切り落としたくなる。


 男達と私の鞄はそれなりに距離がある。どうやらスマートフォンを取り出したところで鞄は投げ捨てたらしい。そのせいで中身が散乱しているが、おかげで目当ての物も直ぐに見つかった。


「タカちゃんまだ外せないのー?」

「うっせえ黙れ、あと少しなんだ」


 まだ苦戦しているらしい。私はもう足の拘束は外せた。これなら──!


「あ!思い出した!これ指紋認証とか使えンじゃね?」

「あ″?指紋認証ォ″?」

「そ、そんな怒らないでよぉタカちゃん…」


 ──まずい!早くしないと!

 私は横倒しの姿勢から勢いよく立ち上がり一点を目掛けてスタートダッシュを決めた。


「っ!アイツいつの間に!?」

「おい!早く押さえろ!」


 男達を振り切った私は()()をと拾い上げた。同時に男達も追い着く。


「いい加減にしろやこのクソアマ!」

「──っ!」


 男は私に向かって勢い良く拳を振り降ろした。それに合わせて身を守るつもりで私は手を伸ばしてしまった。すると。


「ギャアアアアーーーー!!?」


 私の持っていた短剣が男の手首より少し手前に刺さり、振り抜いた腕の動きに合わせてまっすぐ肘にかけて縦に裂けてしまった。

 私はそこに力も抵抗も感じず、飛んでくる豆腐を包丁で斬った様な感触があっただけだった。


「………は?」

「腕が…手は?動かねぇ?──なんで?──何で俺の?」

「──っ(ベリッ!)ハァーッ!」


 隙を見て口のガムテープを剥がし、新鮮な空気を口から取り込む。良かった、ちゃんと動けてる。まだ蹴られたりしたところが鈍く痛むが問題ない。


「おい!まずいことになった!」


 そう言ってもう一人が焦った様子で帰ってきた。全身から滝のような汗が流れている。


「こっちもまずいことになってんだよ!シンちゃん!タカちゃんが、タカちゃんの腕が!」

「それどころじゃねぇ!もう()()()()がこっちから来てるんだ!」

「ポリ公ならここは滅多に来ないはずだろ!それよりタカちゃんが!」


 男達が揉めている隙に私は彼等とは反対の路地へ走り出した。今私が何所を走っているかはもう解らない。それでも私は一刻も早くこの場から離れたかった。出口がどこかなんて知ったことでは無い。彼等から逃げるためだけにただ走った。

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