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小金井健太

スマートフォンにて失礼します

「誰だおめぇは?」


 驚いた私を見てその男子は再度私に尋ねた。


 その男子の身長は高校生にしてはやや低く、恐らく160cmにも満たないように見える。けれどその声が持つ力はそんなモノは関係ないと言う様な圧を感じる。


「わ、私?」

「それ以外に誰がいるのか?」


 なんか怖い。超怖い。圧が半端じゃ無い。この感じあれだ、あれ、えーとそう!ヤの付く慈善事業家の皆さんのそれだ。半グレ?とか言う物でも無さそうに見えるし。何でって?私の勘。


「か、唐竹明日見。き、今日で17歳」

「唐竹明日見、ね。唐竹明日見唐竹明日見」


 顔と名前を一致させる儀式なのか、私の顔と全身を見て名前を繰り返し呼んでいた。


「それで、貴方は?まさか私に自己紹介させてそれきりな訳ないでしょう?」

「あぁそうだな、その通りだ」


 うんうんと頷きながら彼は自己紹介を始めた。


小金井健太(こがねいけんた)、来月17歳。別に仲良くする必要は無いが、一応ヨロシクだ」

「あぁー、うん」


 中々に中々な紹介をしてきた。アレで格好いいと思ってるのだろうか?ウチには男の兄弟は居ないのでよく解らない。


「で、何見てたんだ?」

「何って?」


 その質問に少しドキリとして、とっさに聞き返していた。


「惚けんな、そこで寝ようとする前に何かを仕舞ってただろ」


 どうやら決定的なところは見られていないらしい。取りあえずシラを切ろう。


「別に何も、と言うかそれプライバシーの侵害じゃない?私が何していようと自由だと思うのだけど」

「そうだな、そりゃそうだ」


 小金井は最初から興味がなかったのか、あっさり引き下がる。


「そっちは?いつもこんな時間に居るの?」

「そもそも俺はあまりここには来ねぇ。最低限の出席日数で事足りる」


 不真面目か。なら今日私達が会ったのはただの偶然なのか。


「で?おめぇは?」

「私?」

「そりゃそうだ、今までここには来なかったからな。それがなぜこのタイミングでやって来るのか気になってな」

「このタイミング?」

「新学期が始まってもう直ぐ二週間。授業もとっくに始まり、クラス内もある程度のコミュニティは出来上がってる。それに『あの噂』のこともあるしな」

「……っ」


 やっぱり他のクラスにも及んでいたのか。


「…本気であんなのを信じてるの?」

「は?んな訳ねぇだろ、寧ろどうしてそんな風に広まったと笑いながら聞いてたぜ」


 そう言って彼は笑った。それは私を気遣ってと言うよりは、本当におかしくて堪らないと言った笑い声だ。


「で、だ。今更ここに来た理由は?」


 先程の質問が聞き返される。別にそこまで深い理由はないので話す。


「別に何も、ただ区切りが良かっただけ。ほら私今日誕生日だし」

「ほーん誕生日ねぇ」

「なによ、悪い?」

「いや、悪かねぇよ。成る程な、確かに良い区切りだ」


 どうやら納得してくれたみたいだ。そうして暫くの間、教室は静寂に包まれる。小金井も自分の席に座り、鞄から文庫本を出して読み出す。

 私もスマートフォンを取り出してSNSを流し読みし始めた。


 そのように過ごしている内に教室は少しずつ賑わい始めた。


 一人、また一人と部活の朝練が終わった生徒が来始めて、この後の授業に対する愚痴をこぼし合いながらそれぞれの席やロッカーへ荷物を置いたりする。するとその中の一人が私に気が付いたが。


「………」


 なにも言わずにに目を逸らされた。舌打ちがないだけまだマシである。昔はもっと酷かった。


「ははーん、成る程そう言うことな」


 小金井が何か納得したように頷きながら文庫本に顔を戻した。なんか腹が立つ。


 部活生が来たら後は私達みたいな特にどこかに所属していないか、それとも文化系の部活動の生徒が教室に増え始め、喧噪が大きくなる。


 そんな中で私の周りは誰も人は居ない。私から半径1.5m以内には文字通り人が居ないのだ。

 露骨に避けられている。今更ではあるが、やはり少し堪える。


「プッwクククwww」


小金井が私のその様子を見て笑い出す。周りはそれを見て気味の悪そうな顔をして離れていった。

 うるさいなお前も大概だろ。あと草を生やすな。と言いたいが堪える。どうせなにを言ったところで変わるモノじゃ無い。


 それから約5分後に朝礼の放送が鳴り、クラスの面々が慌てて自分の席に戻り出す。この音はいつ聴いても本当に煩い。

 それからその直ぐ後くらいに教室の扉が開いた。


「はーい皆さんグッモーニン♪みんな大好きのりこちゃんだよ~♪キラッ☆」


 何か変な生き物が入り込んだ。いや、今朝も挨拶したが担任だアレ。え?何?ここではこんななのこの人?


「あらら滑っちゃった、まぁいいわ日直さんごうれーい」

「きりーつ、れー、ちゃくせーき」


 立ち上がり、頭を下げ、また座る。取り敢えずみんなが行う動作をトレースする。うん、完璧だ。


「さって、もう気付いていると思うけど一応ここでは初めましてだから挨拶をお願いします。唐竹さーん」


 担任からの指名を受けて立ち上がり、教室を見回す。様々な視線が私を射貫く。疑心、困惑、拒絶、驚愕、無関心。凡そプラス方面の感情はそこからは感じられない。のりこ先生もその様子に若干困り顔だ。


「唐竹明日見です、よろしくお願いします」


 礼をして着席する。反応は無かった。まぁ、あっても困る。と一拍おいてどこかから拍手が聞こえ、教室全体を疎らな拍手が包んだ。


「はい!唐竹さんありがとうございました!それじゃあ出席を取るわねー」


 そうして出席番号順に名前が呼ばれ、返事が返ってきたら名簿に記録を付ける作業が行われた。返事の仕方はそれぞれで、覇気があったり無かったり、または『はい』ですら無い返事も聞こえてくるが、のりこ先生は特に気にせず記録を付けてた。


「さて出席も取り終わったところで、大事なお知らせが二つあります。一つ目はもう直ぐ部活見学期間になりますので皆さん気合いを入れてくださいね!もう一つは最近駅前の繁華街で小規模ながら暴力事件がありましたので、学校帰りもしそこで遊ぶのなら、くれぐれも注意してください!」


 部活見学期間か。どこかに入ってやり直すことも出来るだろうか。でも、なにも出来ない気もする。


「ホームルームは以上になります!それでは次の現国も頑張って下さい!では号令!」

「きりーつ、れー、ちゃくせーき」


 先程のと同じ号令とともに同じ動作を行う。これとともに今日一日が始まる。入学した頃とはなにもかもが変わった一日が。

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