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シャルマイン

人から見たら久し振りでも本人にはそうとは感じない。まぁ見てる人が居るのかも分からんがね。

 5月20日(日)00:55 一騎討ち

 深緑の湖畔:森の闘技場


 Side NK


「shhhha!!!!」

「フッ!」


 呼気と共に振るわれる大剣を躱しながら攻撃する隙を窺う。

 シャルマインの振るう石の大剣は、その見た目通り巨石から荒々しく削り出したような無骨な見た目だ。

 現実世界にいる力自慢であったとしても、きっと柄を持ち上げようとしただけで手の皮膚が剥がれる事だろう。振るうことなど以ての外だ。

 それをシャルマインは軽々と振るう。重さを感じさせる様子は全く無い。何なら時折フェイントを混ぜてこちらの意表を突くこともある。防御はできても伝わってくる衝撃は相当な物で、弾き飛ばされないように耐えるのが大変だ。

 本来私が自分の想装で戦う場合は、持ち前のリーチの長さを活かして相手の間合いの外から一方的に斬擊を浴びせて戦うのがセオリーだ。しかしこうして態々シャルマインの間合いに入っているのには訳がある。


「shagrra!!!」

「──ッチ!」


 斬り上げからの薙ぎ払い。捌ききれないと判断した私は後飛びに距離を取る。それを見た相手は流れるような動作で腰に差した豪弓を手に取る。


「──んもクソ!」


 番えるのは矢では無く足下の小石。

 しかしその豪弓から放たれる弾丸は、下手な対物狙撃銃よりも威力が高い。

 本来は腰の矢筒に有る矢を使うのかも知れないが、戦局に合わせて色々変えているらしい。私との戦いでは速さを考慮してそこら中に散らばっている小石を選んだようだ。


 番えた弾丸が放たれる。

 しかし私にでは無く遥か後方。避難している集団に向けて。


「っらぁ!」


 想装の腹に当てて上方へ打ち上げる。真正面から斬っても弾丸は後方へ飛ぶし、叩き落としたら威力が高すぎて土煙を上げて視界が悪くなる。先程やらかした。

 次弾を装填する前に間合いを詰める。相手はそれを見て豪弓を背中に下げつつ大剣を構える。戦いが始まってまだ数分しか経ってないが、未だにこの繰り返しだ。

 攻め手を変えて様子を見ても、相手はこちらの動きを全て理解しているような動きで対応してくる。多少変化を付けてもしっかり応える辺り、その手の達人を相手にしている感じがしてとてもやりにくい。


「──っ!?と…」

「──!?shhh...」


 互いに武器を強く打ち合った衝撃で少しだけ距離が出来る。


「……」

「……」


 自然と仕切り直しといった空気になり、相手の出方を窺ってしばらく睨み合う。

 ここまでの勝負は私がやや劣勢。理由は主にここがシャルマインの本陣で有ることと後ろの方で避難を続けている合宿参加者達のことがあるからだ。

 前者については私が完全にアウェーな状況で戦っている事が主な苦戦理由。文字通りここはヤツのフィールドだ。シャルマインや周りのリザードマンが戦いやすい状況が既に整っている。それでもシャルマインが態々一騎討ちを行うのはヤツの余裕の表れといったところか。

 そして後者については、私とシャルマインを囲っている彼の部下がシャルマインの命令を無視して避難中の参加者達を襲撃しないかが気懸かりだったこと。ここへ私が来るときも何体かのリザードマンが私へ攻撃したのがいい例だ。ソイツらを中心にヤツらの動向を気にしていたのもあって、シャルマインへの対処が少し遅れることも多かった。

 そしてもう一つ。


(ヤツはまだ本気を出していない)


 まだ勝負は序盤も序盤。私含めてお互いに手の内を探り合っている段階。お互いに少しずつ動きのクセを見付けることが出来たかどうかと言ったところ。


(にしたって重すぎだろ…)


 その巨躯から繰り出される攻撃の数々は文字通り致死級。掠っただけでも肉を抉り取られそうに感じた。豪弓に至っては、まともに喰らえば私自身が血と肉に彩られた花火と化すことだろう。


(だけど…)


 それでも勝ち筋は私の中で既に出来上がっている。問題はそこにどうやって持って行くか。


(もう暫く付き合うか)


 そう思って自分の想装を構える。

 因みに私の想装の見た目は大雑把に言えば六尺刀だよ。


 ──知ってた?あ、そう。


「shrrrrr...」


 シャルマインも私を見て石の大剣を肩に担ぐ形で構える。


 睨み合い。そして──


「フッ!」「sh!」


 同時に駆け、激突。

 互いの武装がぶつかり合って火花が散り、勢いに押されてお互いにのけ反る。その勢いを攻撃に変える。死角からの斬り上げ。シャルマインは大剣で受け流して私に斬擊。懐に潜り込んで回避。股下からの斬り上げ。横飛びに回避。刺突からの横薙ぎ。上体を反らして避けられた。


(でもこれなら!)


 その体勢で攻撃に移るのは困難。絶やさずに攻撃を行おうとする。


(っ!?)


 何か嫌な予感がしてシャルマインの射線から外れる。


 ──ドゥン!!!


 その直後に隕石衝突のような衝撃と砂煙が私の真横から飛んできた。

 体の軽い私は当然のように大きく吹き飛ばされる。


(単純に力を込めた上段斬り。だがこの衝撃は人間には絶対に不可能な領域だな)


 シャルマインはただ力と勢いをもって思いっきり石の大剣を振っただけだ。ただその威力が凄まじい。

 砂煙が晴れた場所に見えたのは、大剣を叩き付けたシャルマインと、直径約1m程の広さで軽く抉られた地面だった。


(軽い斬擊でも死にそうになるのにその上こんな物まで…しかもまだ隠し球がありそうだし…なんなんだコイツ!)


 心の中で軽く悪態を吐く。

 力と技が程良く噛み合ってる者ほどやりにくい相手はいない。単純に攻撃の好きを見いだせない。


(…ここで使うか?いつまでも様子見をしては居られ無いが、かと言ってヤツの手札を出し切らせていないというのに…ん?)


 刹那の思考。その最中でふと、我々を囲っているリザードマンの姿が映る。


(怯えている?さっきまで強気な、と言うかイキった様子で立ってたのに?)


 シャルマインから意識を離した一瞬の隙に攻撃を繰り出される。私はそれをいなしてカウンターを与えるが、シャルマインは危なげなく回避。


(少し試してみるか)


 シャルマインに注意を向けつつ四肢の先端を意識する。解放するのはそこだけで良い。


「shrr...?」


 私が何かをすることを見抜いて様子を見るつもりなのかシャルマインの手が止まる。好都合だ。


「…拘束の限定解放を申請…承認…出力…は、少しでいいか」


 指先から得体の知れない力が流れ込んでくる感覚と共に思考が少しずつ研ぎ澄まされるのを感じる。

 シャルマインも私の変化を感じ取ったのか、その顔が喜悦に充ちる。私が変化しきるのを待ってくれる辺りかなり律儀な奴だ。


「さて、始めようか」


 そう言って私が構えるのと。


「shhrrraaaaaAAAAAAAA!!!!!!!」


 雄叫びと共にシャルマインが突っ込んでくるのは同時だった。

 ──ドォゥン……


「何!?何の音!?」

「け、結構遠かったよね?」

「…今のが何の音かは分からないが、きっと僕らが思った以上に遠くから聞こえる物だ。今の所心配は無い」

「監督さん、あとどれくらいで?」

「もう直ぐだ。那由多君が奴等の注意を引きつけているお陰でここまで移動がスムーズだった」

「な、なぁ…唐竹って無事かな?」

「…那由多君に任せるしか無い。我々が出来ることは一刻も早く避難することだ」

「分かりました…」


「……」

「どうしたの蘭?」

「やっぱ具合悪い?」

「あ、ううん…大丈夫…」

「そう?」

「ホントに平気、心配掛けてごめん」

「いや、大丈夫ならいいの」

「ありがと」

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