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あまり嬉しくない歓待

明日見ちゃんの安否が心配?

信じろ。

 5月20日(日)00:45 敵本陣強襲

 深緑の湖畔:樹海


 Side NK


(よし。幸大くんほどでは無いだろうが、ちゃんと見えてる)


 乱立する木々。横たわる大木。乱雑に枝葉を伸ばす低木。垂れ下がる蔦。岩に張り付く苔。

 視界に入るそれらの情報を走りながら素早く精査して比較的安全なルートを割り出す。風や月明かりの加減で情報が変化することも多いが、まぁそんなのは誤差の範囲だ。

 時折、進行ルートに回避不可能な障害物が出現することもあるが、それらも手にした想装で斬り飛ばし、必要が無さそうなら体当たりで道を切り拓く。隣接世界における私は、元の世界と比べて格段に頑丈になっているため、多少乱暴な手段を取ったところで受ける傷は殆ど無い。

 例外があるとするなら、先程腕に受けた矢のように武器としての形を取ったときだろう。


 ──と、ここまで格好付けてこんなモノローグを入れている私だが、実際は全て何となくで動いている。第一私はそこまで論理的に物事を考えられるほど頭は良くない。


(上、前、上上前)


 私に向けて飛んでくる矢。後に居る皆より私を脅威と断じたらしい。迫り来る私に驚いた何体かのリザードマンが、恐怖に駆られて矢を放ったらしい。


(──遅い)


 勿論全部叩き落としましたとも。

 数は少ない、狙いも適当、それに今は周りに気を遣う必要が無い。


(にしてもアイツ、幸大くんが言ってた大きいヤツか)


 腕を組んで陣の後方で立っている偉丈夫を見やる。

 アイツがリーダーとみて間違いは無いだろう。纏っている雰囲気がまず違う。周りに居る雑魚とは明らかに違い、歴戦の猛者と言うような覇気を纏っている。

 身に付けている装備品もあちこちに傷が見えるが、手入れがしっかりされているのは遠目でもよく解る。何より目を惹くのは背中に携える石の大剣と腰に下げた豪弓。

 大剣はあちこちに黒ずんだ染みが見えるため見せかけの装備では無い。弓もあちこちに手形が見える。どちらも長期間使い込まれているのは明らかだ。

 何より私を見据える眼が尋常では無い。恐らくここに至るまで彼の部下の数々を私は殺して来た。普通の知性有る魔物だったら怒りと憎しみに塗れた眼差しを向けて来ている。事実、多くのミッションを熟してきた私はそう言った経験が何度もある。

 にも関わらず彼は笑っていた。何なら楽しそうですら有った。この状況を面白いとすら思っていそうな程に。


(アイツは強い。恐らく今ここに居る誰よりも)


 だからこそ解らなくなった。


(どうして今まで人間達を生きて返した?)


 私の経験上、一般人がうっかり隣接世界に迷い込んで魔物に遭遇した場合で生還した例を殆ど聞いたことが無い。

 魔物というのは種族個体その他諸々の例を問わず、見付けた人間は皆殺しにする。相手を負傷させた上でそれを逃がしてしまうなら、やはりそれは大した実力では無いと判断してしまう物だ。

 ところが今回彼等に相対して解った。その気になれば私は兎も角、合宿参加者達に関してはものの数分で皆殺しに出来るだけの実力がある。

 単に戦うだけの力じゃ無い。群として運用して何かをなす力が。


(尤も、今はそれに関しては重要では無い)


 思考を切り替える。重要なのは合宿参加者達を無事に避難所まで辿り着かせること。しかしこの様子なら私がここに居たとしてもほぼほぼ達成できるだろう。現に私の後方に抜けていく矢は1本も無い。


(となるとやはり目的は──)


 そう考えている内に敵陣の目と鼻の先に来た。

 ここまで来るとあのデカイ奴──仮に戦士長と呼ぼう──が並大抵の存在では無いことがよく解る。

 隣接世界において、魔物は強い奴ほどデカイ。理由については研究中だが、一説によると体内を循環する魔力が何らかの要員で増加し、その分高まった濃度を一定値に下げる過程で体が大きくなると言う物らしい。


 私には実感しがたい話だ。


 何せチビだし、私。

 どうせなら私もデカくしてくれよ。身長をくれ、身長を。もしくは胸…いやそれは要らないや。バランスが悪くなる。何ならいっそのこと両方くれ!せめて明日見くん位は欲しい!!


 ──って言うか。


(攻撃が飛んでこない?何故?)


 近付くに連れて攻撃の頻度が下がったと思ったら、そもそも一部を除いて構えてすらいない。

 その一部というのが恐怖に駆られて弓を構えている者達だ。我慢しきれなかった者が矢を放つが特に気にすること無く落ち着いて叩き落とす。


『■■■■■■■ーーーーー!!!!!』


 一際大きな咆哮が轟く。戦士長だ。その後に一定間隔のリズムで脚を大きくならす。臓腑に響く重低音。どうやら何かの合図だったらしい。私と戦士長の間に立っていたリザードマンの一団が、モーゼの十戒に出て来た一幕みたいに左右に割れた。

 戦士長に動く気配は無い。


(来い。と言うことか。良いだろう)


 これは逃れるために割れる波では無く、死地へと誘うために割れた波だ。先に見えるのは戦士長。その雰囲気から、どうやら彼は一騎打ちを所望らしい。


(上等だよ。元々私に退くなんて選択は無いからな)


 そうして私は戦士長リザードマンの元へ歩く。

 理由は解らないが、この集団は私を含めた合宿参加者達を本気で殺そうとしてた。今は攻撃の手が止まっているが、私がこのまま引き返すと、恐らくもう一度総攻撃が始まる。その時はもう守り切ることが出来ない。

 だったらここで止めるしか無い。


「さぁ、来たぞ」

「■■■■■…」


 戦士長の部下によって作られた簡易的な円形闘技場。山中の樹海にあるにしては相当広いその真ん中で私達は既に互いの間合いに入る位の距離で対峙していた。


「お前達が何故私達を本気で殺しに来たかは知らないが、そっちがその気ならこちらも全力で応える用意がある。どうだ?」

「■■■■■■■!!」


 私が想装を構えるのに合わせて、戦士長も石の大剣を背中から抜き取って上段に構える。


「よかろう…久米井神剣流奥技皆伝『剣聖』久米井那由多、参る!」

「shalmain■■■■ーーー!!!!-」


 シャルマイン。戦士長はそう名乗り、手にした大剣を勢い良く振り下ろす。

 私はそれを難なく躱すが、大剣を叩き付けられた地面は轟音と共に衝撃波と土煙を生み出す。

 戦いは月明かりの下、土煙と共に始まった。

 走る。斬る。走る。撃つ。走る。走る。走る。斬る斬る走る。

 どこまで走っても目的地は見えず、それどころか自分がどこを走っているかさえ分からない。

 それでもどこからともなく敵は湧いてくる。もうどこを目指したら良いかが分からなくなって敵が湧き出す方へ走る。

 この不安定な足場をどれくらい走っていただろう。敵を倒す度に鋭敏になっていく五感と、部活で走っていた頃とは比べものにならないくらい上がっているスタミナに任せて、敵がいる場所を目指して走る。

 気が付けば湖に戻っていた。

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