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明かされる物

初期案を大幅に書き換えて投稿

 5月19日(土)15:40 臨時スタッフAグループ休憩時間

 山間サッカーコート


「監督!」

「ん?明日見君か。そんなに慌ててどうした?」

「少しお聞きしたいことがありまして…」


 私は息を整えながら受付小屋での出来事を軽く説明した。


「そんなことが有ったのか…ふむ…」

「あの…何か心当たりとか有りますか?どんな些細なことでも良いんです!」


 現状最も真相に近そうな人物を目の前にした私は彼からの返答を待つ。


「…いや、僕には見当も付かない。もう少し時間が経ったら何か思い出せるかもしれないが…力になれなくて申し訳ない」

「そうですか…あの、この後ってどうなるんですか?」


 私は現状はさて置き、この後の合宿のことを心配した。

 まだ確定はしていないが、生徒達に万一のことが有っては行けないと思った私は監督に確認する。


「合宿についてはこのまま継続する方針だ。だが、改めてスタッフや生徒達に注意を促す必要はありそうだな」

「でも…危なくないですか?」

「明日見君の不安は最もだ。しかし生徒達は今日という日を心待ちにしていた…

 君も見ただろう?あの子達のあの楽しそうな顔を。

 一人の大人としても、一スポーツマンとしてもそれを裏切れる要素が何所にあると言うんだ?僕にはとても出来そうに無い…」


 ──いや普通に生徒の身の安全を優先しろよ!


 と言いそうになったが、私は空気を読める女。それは心の中に留めて置いた。


「あまり納得はしきれませんが、了解しました」

「うむ。那由多君と何を調べているかは知らないが、どうか怪我の無いようにな」


 ◇ ◇ ◇


 同日16:00 Aグループ休憩時間終盤

 管理人小屋前


 それから合宿のスタッフ達(臨時では無い方)からも聞き取りを行ったが、結果はどれも空振りに終わった。

 と言うのもこの合宿自体ほぼ毎回大まかな段取りは虎魚監督が整えているそうで、その他のスタッフさん達はあまり詳しい話を知らないみたいだ。


「(もし全部知っていたとしたら監督が怪しいことになるけど…なんか違う気がする)」


 とは言え聞き取り調査はここで行き止まりとなってしまった。

 得られた情報は精々毎回行われる合宿は大体が監督が段取りを組んでいたことくらいで、その監督本人も管理人の行方を知らないこと。


「つまりは何にも進展してないわけだ~」


 思わずそんは事をぼやいてしまう。久米井にああ言った手前、ここでこの程度の成果を話すのもなんとも言えない気分になる。


「どうした物かな~…」

「おっと丁度良いところに来たな明日見くん」


 丁度本人がやって来た。


「ただいま久米井。そっちは何か進展有った?」

「当たり一歩手前と言ったところだな。管理人小屋を漁ったら番号入力式の金庫が見つかった」

「漁ったって、それって犯──」

「何も無かったらそれに留めておくことにはしてたさ。でもあんなあからさまな物が置かれていたら気になってしまってな。と言う訳で来てくれ」

「ァ!ちょ!?待っ!?」


 その後久米井の手によって管理人小屋の鍵が開けられ、勝手知ったるように件の金庫の前まで案内された。


「これだ」

「何も躊躇う様子も無くピッキングツールで扉の鍵を開けたと思ったら最短ルートで件の隠し金庫まで案内されて焦りや困惑を通り越してもう何を考えて良いのが分からない私でした……

 ただの機密文書や運営権利証みたいな物でも入ってるんじゃ無いの?」

「それは別の金庫に保管されているのを見たから違うな」

「え…大丈夫なの?ここ」

「それは私の知ったことでは無い」


 でも、そうだとしたら何か変だ。

 持ち家や何かがある訳では無い私だからあまり実感は沸かない物だが、そう言った物の証明書類は結構厳重に保管されている物の筈だ。

 にも関わらず、それらは直ぐに見つかるような場所に保管されている。


「じゃあここには何があるって言うのよ?」

「それを今から確かめるのさ」


 そう言って久米井は徐にスマートフォンを取り出したかと思うと、管理人小屋の部屋をあちこち撮影しはじめた。


「何やってるの?」

「写メ撮ってる」

「どうして?」

「謎解きゲームとか今時メモ取りしないよ。全部スクリーンショットやスマートフォンで一発」

「謎解きゲームはやったこと無いからちょっとよく解らないわね…」


 ──って言うかそもそも…


「どうしてここに金庫の手掛かりがあると思ったの?」

「金庫の扉をよく見たまえ」


 ──手掛かりは小屋に


 6桁の暗証番号を入力するキーパッドの下にそのような文言が書かれた金属プレートが貼り付けてある。


「また何とも…」

「よし。大体こんな感じか。そっちにも送るぞ」


 久米井がそう言うのと同時にスマートフォンのメッセージアプリに複数枚の画像が受信される音が聞こえた。


「流石にこれだけだと考察のしようが無いんだけど」

「ダメか?」

「大体『小屋』ってそこのどこにどう言う形でヒントがあるって言うのよ?それに今の私達ってそんなに時間ないわけだし」

「え?マジ?」

「残り時間あと15分」

「ヤベえじゃん!?」


 そう。かなりヤバい。この時間で片付けて撤収して持ち場に戻ると言う芸当を求められるのだ。本当に時間が足りない。


「もうそうなったら手段を選んでいられないな。ここで禁じ手を使う!」

「禁じ手?」

「なんかこういうの詳しそうなヤツ知らない?」


 そう言うことか。だが急に言われても直ぐに心当たりのある人物が出てくるかというと…あ。


「ちょっとアイツに頼んでみるか」

「え?マジで居たの?そう言う直ぐに頼れそうなオトモダチが?」

「ちょっとね」


 共に何度か授業で組まされてから実感したことがある。

 早速ソイツに連絡してみると直ぐに返信が来た。


『その金庫はやめとけ。絶対何も無い』


「オイいきなり私のこれまでの努力を否定する返信が来たぞどう言う事だ?と言うかそもそもコイツは何者だ?」

「待って、まだ続きがあるみたい」


『大体本当に大事な物をそんなあからさまな金庫に隠して、更には解いて下さいと言わんばかりのヒントを残すわけが無いだろ』

『何か隠してたとしてもそんな高頻度で使う物じゃ無いヤツが入れられてるのが大半だ。それに使い続けたら必ず何処かで跡が残る』

『少しは現実とゲームの区別は付けろ』


「何だろう…私が言われている訳じゃ無い筈なのに無性に腹が立ってきた」

「私はコイツのデリカシーの無さに腹を立ててるよ」


『探している物は恐らくかなり身近に有る。ただしそれは普通の手段では絶対に探し出せない。何か気になったら手当たり次第色々試してみることだ』


「身近に、か」

「ここの管理人にとって身近な物と言えばこの受付の机だが…でもさっきも調べたぞ?」

「ここがダメならまた別の場所を探してみましょう」


 そうして私と久米井は管理人の机を隈無く調べた。

 普通の引き出しは勿論、鍵付きの引き出しは久米井のピッキングツールでこじ開けて探してみた。


「ダメだな…結局さっき見たときと一緒だ」

「動かせないの?」

「それが何故か床に固定されてて動かそうにも動かせない」

「うーん…じゃあどうしたら…」


 と、何かヒントになる物が無いかと改めて机の下に入って机の裏側を見てみる。


「…ん?」

「明日見くん、どうかしたかね?」

「いや…最初は何とも思わなかったんだけど…このネジって何を留めてるのかしら?」

「どれ、私にも見せてくれ」


 私が見付けたのは、引き出しを開けたときに見える天板に埋め込まれた謎のネジだった。


「こんな物さっきは見当たらなかったんだがな…どうやってこれを?」

「久米井が言ってた安全装置みたいな物が私には無いからかも。それのお陰で久米井は並の人間程度に暮らせてるみたいな話だったし」

「著しく上昇した身体機能を制御した弊害がここで来たのか。取り敢えず外してみよう。灯り頂戴」


 私はスマートフォンのライトでネジを照らす。それを手掛かりに久米井は慣れた手付きでネジを外していった。


「場所が場所だったからか外すのに苦労したよ…」

「そんなことよりもう残り時間が少ないわ。早くしないと私達かなり怪しまれる」


 私達は机の下から出て、急いでネジで留められていた部位を確認する。

 正体は直ぐに判明した。


「まぁ普通に考えたらこの天板が外れるわな」


 外れたのは当然ながら天板の方。

 しかし私達が驚いたのは天板にまた別の天板が埋め込まれていたことだった。


「でもなんかおかしくない?」

「あぁとてもおかしい。何せ元の机はこんな構造では無さそうだからな。これは後から改造されてる。当然その用途やそこに隠されている物は大体限られてくるわけで」


 外れ天板の中に入ってたのは何枚かの書類。

 日本語なのに私の知らない単語が数多く並べられており、一見しただけでは何が書かれているかはサッパリ解らないが、久米井は何かピンとくる物があったらしい。


「……大当たりだな、これは」

「何?この書類。何かの指示書みたいだけど」

「取り敢えず書類だけ撮影してユカリちゃんに送ろう。これについては向こうの管轄だ」

「後で私にも見せてくれる?」

「言っとくが他言無用だぞ?」


 撮影を終えた久米井は書類を元の場所に戻して、私達は机のネジを締め直した。

 休憩時間も終わりに近かった私達は、部屋をなるべく来たときの状態に急いで戻してまた扉に鍵を掛けて撤収した。

「それにしても…」

「どうしたの?」

「いや、明日見くんがさっき頼った人物が何者だったかとね」

「あぁ、同じクラスの小金井健太よ」

「ん?誰だソイツは?」

「いつも昼休みにアンタが座っている席の主よ」

「え!?あの席って無人じゃ無かったの!?」

「そう言えばアンタと一緒に居たことは無かったわね」

「君のクラスの面々は大体顔と名前が一致するようになったのにまだ居たとは…って言うか待てよ?」

「今度はどうしたのよ?」

「ソイツ、名前からして男だよな?」

「ええ、そうね」

「まさかとは思うが…新しい彼氏か?」

「全然違うし向こうもきっとそうは思ってないわね」

「えー、じゃあやっぱり明日見くんは本当にレ──」


 ──ドガァッ!!


「うぅ…子供が出来ない体になったらどうしてくれるのさ…」

「安心して、鳩尾よ」

「だからって殴るのは違うだろう…」

「この話はこれで終わりよ」

「解ったよぅ…じゃあまた後でな」

「うん、また後で」

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