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校門 - 中庭、お返事

スマートフォンにて失礼します。

 休憩もそこそこに、再び坂道を登る。月校まではあと10分も有れば着くところまで来た。私が足を止めてしまった理由は未だに踏ん切りがつかないからだろう。

 何せここに直接足を運ぶのは彼此冬休み以来だ。


 ◆ ◆ ◆


「ずっと好きでした!!付き合って下さい!!」


 夕焼けに染まる街並みをバックに灰田優人の声が響き渡る。

 数瞬遅れて私はーー


「……はへっ!?」


 というなんとも間抜けな反応しか返せなかった。


「本当は遠巻きに見守り続けようと思っていた。でもそれじゃダメだと気が付いたんだ!!」

「ババッバ!!?、バババッバ!??」


 もう私の頭の中はパニックだった。

 だってそうでしょ!?こっちはこっちで「いつも頼み事を聞いてる灰田先輩が話しかぁ~なんだろう~?」とか「ヤだ~こんな人の多いところでぇ~♪」みたいなどこか頭に浮かんでは消えていき、だんだんと先輩の言葉を理解し始めて来た頃には体中が熱を放ち始めていた。

 そうして私はーー


「だから唐竹さん!!俺とーー」

「ウォワニャーーーーーー!!!!!」


 ドゴォ!!


 思わず、彼を殴り飛ばした。


 それはもうアニメやマンガみたいに飛んで行き、地面を二回ほどバウンドして止まった。灰田先輩この時点で気絶したらしい。


「うぇ!?あ、あーっ!?あー?あうぇ!?」


 もちろん私はすごく慌てた。

 当然のことだがこの一連の流れは色々な人に見られていたらしく、私がしてしまったこともバッチリ目撃されてしまったわけで。


「ごっごごごごめんなさいーーーーー!!」


 返事を直ぐに出来なかったことか、殴り飛ばしてしまったことか、はたまた今行っている事に対しての謝罪かは確かめる術は無い。とにかく結果だけを見るとこうなる。


 アスミはにげだした▼


 ◆ ◆ ◆


 「ホントに酷いな、かつての私…」


 でも今だって大概では無いか?

 こうして校門に立つだけでこんなにも足が震えてる。まだ周りに人が居なくて良かった。こんなかっこ悪いところはやっぱり誰にも見られたくは無い。


「しっかりするんだ、前に踏み出すだけだ」


 そう言い聞かせて、普段よりも重い足取りで学校の敷地に足を踏み入れた。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、部活を少し早めに切り上げサッカー部の練習場であるグラウンドへ向かう。灰田先輩に会って昨日のことを謝るためだった。


 あの後、いつの間にか帰宅してベッドの上に横になっていた。時間が経って落ち着いてきたのだろう。その頃には夕方の怒濤の展開に頭が追い着いてきた。


「私、告白されたんだ…」


 初めてだった。異性からこうもハッキリ好意を伝えられるのが。それが全くイヤな感じがしなかったことが。


「でもだからってあんな場所でしなくても…」


 流石に場所はもう少し選んで欲しかったと思う。せめて屋上とか校舎裏とかそういう定番スポットがあったのでは無いかと思う。


「殴っちゃったなぁ…」


 本当にこれはどうしてなんだろう。衆人環視の中で告白された気恥ずかしさと、いきなりだった驚きと、後何かよく解らない衝動を感じた気がする。何かって何さ?いや私が知りたい。


「…あれ?」


 ここで唐突に気がついた。


「もしかして私、何か先輩に滅茶苦茶失礼なことしてた!?」


 今更気が付いたのである。


「私、もう今ので嫌われちゃったりした!?」


 そこまで来て今度は別ベクトルでパニックになる。いくら相手がもう何度も告白されているからとは言え、逆の立場は初めてだったかもしれない。だから相当な勇気が必要だったはずだ。

 それに対して私は何だ?拳と謝罪?どこの戦闘民族だ。あの時の私はどこか正常では無かったと言い訳をしたかったが、今はその相手が居ない。居ない相手に今の気持ちを伝える手段は無かった。


「…謝ろう…ちゃんとしないと…」


 そうして眠りに付いたのが昨夜。ギリギリ日付が変わるか変わらないかと言った時間帯だった。



「えーっと先輩はどこだ~?」


 グラウンドを眺めながら練習試合をしている部員達の中から目的の人物を探す。

 10秒と掛からずそれは見つかった。流石に遠目に見ては誰かの判別はつかないが、明らかに一人だけ他の部員と動きの違う者が居た。


 あらゆる妨害を潜り抜けながらのドリブルに、テレパシーでも使っているかのようなタイミングの良いパス回し。最後は速すぎて止めることが困難なシュートによるゴール。味方達は彼の元に集まり彼らの栄誉を讃え合う。その後の10分間であっという間にハットトリックを決めてしまった。


「…住む世界が違いすぎる」


 天才。いや、努力する才能の塊。どれもいまいちピンとこない言葉だ。その人の住む世界を見せつけられた様な気がした。

 その後はチームメンバーはほとんどそのままで、灰田先輩だけを入れ替えて練習が開始された。

 流石にこの後はどうなるのかは解らないと思いながら見ていると、最初は元先輩チームが優位を取っていたにも関わらず、気が付いたら現先輩チームが圧倒的優位に立っていた。私にはもう何が起こっていたのかが解らなかった。けれど遠目に見ても勝っていた味方はもちろんだが、負けている相手も悔しそうな雰囲気は出ているも、どこか楽しげな顔をしているのが何となく伝わってきた。


「お疲れ様です。灰田先輩」

「あっ、唐竹さん」


 部活動が終了したのを見て私は灰田先輩に声を掛けた。


「あの、この後時間はありますか?」

「うん、大丈夫。どこで話す?」

「中庭でお願いします」


 約束を取り付けた後急いで着替えて中庭のベンチで先輩を待った。

 先輩が来るまでの間に、私は何を話すかを思い返していた。手を出してしまった事への謝罪、思わず逃げ出してしまった事への謝罪、そして告白の返事。

 けれどもそれ以上に()()()()()()()()がとても気になった。


 暫くして私が待つ中庭に灰田先輩は急いでたのか息を切らせてやって来た。


「遅くなってゴメン、待ったかな?」

「いえ、そんなに。寧ろ頭を整理する時間が出来て良かったと思います」

「そうか、それは良かった」


 そう言って彼は安堵の表情を浮かべた。どうも私から見た彼はこの顔が一番しっくり来る。気のせいだろうか?


「それで、話しというのは?」


 その言葉と共に私に緊張が奔る。落ち着け、いつも通りだ。


「先ずは御免なさい。昨日殴り飛ばしてそのまま帰ってしまって」

「あぁー…そのことかぁ………でもどうして?」


 私はポツリポツリと自分の気持ちを語り出す。


「初めてだったんです」「誰かに好きって言って貰ったことが」「それもあの灰田先輩にだったんですから色々な意味で驚いて」「今まで勉強と部活だけに集中してきて、こんな事になるなんて欠片も思ってなかったんです」「だからいきなりで驚いたんですけど、嬉しかったんです」「私を見てくれる人が居ると思って」「こんな私を好きになる人が居ると思って」


 そこで私は一旦息を吸った。やっぱり緊張する。吐き気がする。喉が渇いた。でも言わないと伝えられない。それはイヤだ。


「だからいきなりで、心の準備が出来てなかったので驚いたんです」「先輩に告白されて頭が真っ白になって」「嬉しくて恥ずかしくて、でもやっぱり真っ白で」「だから思わず」「やっちゃった訳なんです」


 そこで私は一旦息を整えた。少しずつ調子が出てきただろうか。


「その後のことはよく覚えて無くて」「いつの間にか家に帰ってベッドに倒れてて」「それから色々考えて今日に至る感じです」


 そうして、私はあの時の顛末を語り終えた。灰田先輩に対する申し訳なさで一杯だったが、話しただけで気持ちは楽になった。


「そっか、気に病む必要は無いよ。こうして謝ってくれたしね」

「そう言っていただけると本当にありがたいです」


 ここまで来ればもう覚悟は決まっていた。


「あの時のお返事をしたいと思います」

「うん」


 灰田先輩の手は微かに震えていた。先輩でもこういうのは緊張するらしい。


「どうかこれからよろしくお願いします」


 ◆ ◆ ◆


「懐かしいな…まだあれから一年も経ってないというのに…」


 私は校舎には入らず、周辺の散歩を始めた。


 あれから私は、正式に灰田先輩とお付き合いをすることになった。それからは部活や学校内での扱いがガラリと変わった。

 部活が終われば先輩と駅まで下校デート。休日も先輩と近場や少し遠いところまで出掛けたりした。まぁ、付き合い始めたばかりなので流石にキスはまだだった。


「結局一度も出来なかったけどね…」


 学校ではなるべく先輩と一緒に居られる時間を作ろうとして、先輩と同じように彼方此方の『お手伝い』に積極的に参加した。

 クラスでは私に話しかける女子が増えた。どうも今まで鬼気迫る表情で勉強や部活に臨んでいたらしく、声を掛けにくかったらしい。


「あの時はみんな優しかったな…」


 灰田先輩の隣に立てて本当に嬉しかった。今でもそう言えると思う。だから、あの時は想像もつかなかったんだ。


「…入るか、校舎」


 ベンチに向けた視線を上に向けて校舎を見上げる。朝日の遮られた薄暗い中庭で見上げた校舎はどこか恐ろしげで、どこか威圧感がある。

 それでも私は行くしか無いのだ。誕生日はちょうど良い区切りでは無いか。だから決意したんだ。いつもより重く感じる鞄を担いで足を踏み出した。

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