勉強終わりのお夕飯
執筆データが飛んでしまって書き直してました。
彼女のご飯ってどんな味なのかしら?
5月4日(金)17:30 大型連休二日目・夕飯時
唐竹家リビング
「こ…これで…ラストぉ…」
その声と共に全ての課題を終えた久米井は、テーブルに崩れ落ちた。
「お疲れ久米井。今夕飯の用意をしているから待っててー」
「今日は飛び切り美味しいのを作っちゃいますよ~!」
「君達いつの間に…」
私と未来は夕飯の支度をしながら久米井に声を掛ける。キッチンでは鍋の中で食材が煮込まれるグツグツ言う音や、私と未来によってトントンと食材が切られる音が響いている。
「いや待て、さっきの話では食材が殆ど無いという話では無かったか?」
「はい、そうですよ~」
「だったらいつ食材を調達した?」
もっともな質問をしてくる久米井。それに答えたのもまた未来だった。
「久米井さんが寝ている間にまとめて買ってきました~♪」
「え?大丈夫?この家の防犯意識大丈夫?」
「私は流石に反対したよ?でも未来が『大丈夫♪大丈夫♪』とか言うから、つい…」
「いや本当に心配になってくるな…」
久米井の気持ちは解る。解るんだけど、未来が大丈夫だと言うからあまり気にならなかった。
「大丈夫ですよ~、久米井さんの睡眠時間はちゃんと計りましたし、何より起きたとしても久米井さんは悪事を働かないという確信がありましたから!」
「何を根拠に?」
「勘です!!」
「うんたしかにしんようできるなーそうだなー」
久米井は思考を放棄した。
「まぁそれは良いとして、出来上がりまでもう少し時間が掛かると思うからそのまま待ってて貰える?」
「流石に半ば押し掛けてきた身としてはこのままじっとして居続けるのも良心が痛む。何か手伝えることは無いだろうか?」
「うーん…どうする未来?」
「お客様にお手伝いさせちゃうのはちょっとなぁ…」
流石に未来も渋っている。気持ちは解らないでも無いが。
「ならば見学させて欲しい。最近一人暮らしを始めて自炊する必要が出て来てな。少し勉強させて欲しい」
「あ、それならいいですよ~♪寧ろどんどん見ていって下さい!」
「では失礼して」
そう言って久米井はメモを片手に私達の料理を見詰める。食材が切り終わったら味を付けて炒める。煮込まれた料理の味見をして整えていく。など様々な工程を踏んで数々の料理を作り上げていった。
私はふと気になって久米井の様子を見る。
「……」
熱心に未来を観察してメモを取っている。距離があるため何を書いているのかは解らない。しかしこれほど真剣な顔の久米井を私は何度か見ていた。大体は“あの世界”が絡んだ時だったと思うが、まさかね。
「…?どうしたのかね明日見くん?」
「いや、何でも無い」
──何か有るわけでは無いが、一応気に掛けて置いた方が良いだろうか?後で訊いてみる?
そんなことを思いながら夕食の用意を進めていった。
◇ ◇ ◇
同日18:30 夕食
唐竹家リビング
「「「いただきます」」」
声を揃えて手を合わせて。私達の夕食は始まる。食卓には色取り取りの料理が所狭しと並んでいる。
「って言うか多過ぎでは無いかね?」
「『久し振りのお客様だー!』と未来のテンションが上がってて…」
「むっふっふー♪人生で一番腕を振るいました!どうぞご賞味下さい♪」
全身から楽しそうなオーラを出す未来に当てられた久米井と私。
「まぁ、ここまで来たならとことん楽しむとしよう。では先ずはこの炒め物から…」
そう言って久米井は自分の大皿に乗った肉を一切れ口に入れる。
「はぅぁ~…美味しいぃ…」
一瞬で久米井は蕩けた顔になった。
「本当に美味しいわね、また腕を上げたんじゃないの?」
「えへへ~なんか最近調子が良いんだ~」
昼に食べたあり合わせの食材を使った料理もだったが、今回のしっかり選んだ食材で作った料理はもっと美味しい。私も未来みたいに料理を作れるようになることを目標としているが、頂は未だ遠い。ひょっとしたら、まだ彼女の足下にすら及んでいないと思う。
「ふむ、ところで未来くんはいつから料理を?」
「えーと、小さい時からお母さんのお手伝いをしていた頃かなぁ~?それからお母さんから『上手だね』て褒められてからずっとかなぁ~?」
「するとこの料理は幼少からの研鑽の賜物と言う訳なのか。道理で…ハム。ムグムグ…うまはぁ~…」
「本格的に台所に立ち始めたのは、中学に入ってからね。その頃は確かお父さんもお母さんも忙しくなり始めた時期で、夕飯のおかずにスーパーの惣菜が並ぶのが珍しくなかったわ」
「そこで立ち上がったのがこの私!丁度料理部に入ってたから腕試しにも丁度良かったんだぁ~♪」
未来の才能が発揮され始めたのはその頃からだと思う。最初の頃はお母さんの料理には及ばなかったが、本当に最初の頃だけだった。二度三度と未来が台所に立つと、並ぶ料理は味付けは勿論盛り付けや栄養バランスその他諸々がお母さんを凌駕し始めた。流石に焦ったのか『せめて自分の料理の腕だけは落としたくない』と未来に懇願して朝ご飯だけは母が担当となった程だ。
こうして我が家の食卓は今日まで朝は母昼夕は未来によって作られた料理が並ぶようになった。
「な、成る程…案外母君も可愛い者だな…いや大人気ない?」
「あの時は土下座もしかねないほどだったから…」
「え?お母さんが?イヤイヤそんなこと無いよぉ~♪エヘヘ~♪」
あの時のお母さんの様子は今でも憶えている。最初の内は『まぁこんな物ね』と言った雰囲気だったのが次の日に『あら?美味しい?』となり、更に次の日には『いつもの味だわ…』となって更にその次の日に『嘘!?ヤダすごく美味しい!?』と段々目を見開いていった。
それからも未来の成長は留まるところを知らず、母の説得という名の懇願が始まり、朝食の権利を見事に勝ち取った。未来がこの調子だからあまり目立たないが、お母さんも少し大人気ないと思う。
「因みに母君のお仕事は如何に?」
「確か調理師専門学校の講師だっけ?」
「そうそう」
「あー…そりゃ焦るわなぁ…あ、このお味噌汁美味しい」
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