久米井も交えてお勉強
那由多ちゃん普段何食っているんだろう?
5月4日(金)13:00 大型連休二日目・お昼時
唐竹家リビング
「ほわぁぁあああ!!」
久米井は未来の料理を口に入れた途端このような奇声を発した。
「何これ…?何これ何これ何これ!?!?」
「く、久米井?」
「久米井さん!?大丈夫ですか!?もしかしてお口に合いませんでしたか…?」
この反応は私達も初めてで、流石に私達も心配になる。私は今まで、家族以外で未来の料理を食べた人を見たことが無かったので、もし何かに当たってしまった場合どうしたら良いかと少し慌ててしまう。
「お米……口の中で………る物……?お肉…………なに溶……物だ……の?卵……………に味…染み……物………の?」
ブツブツ何かを呟いている。声が小さくて美味く聴き取れないが料理に関する評価なのは分かった。
「み、未来…何か変なことした?」
「いやいや!?何も変な事してないよ!?」
「だよね…私も隣で見てたわけだし…」
そうして久米井は黙りこくり、俯き、体を震わせる。
そして急に顔を上げたかと思ったら瞳をキラキラさせて──
「すっごい美味い!!!!!」
──そう叫んだ。
「何なのこれ!?今まで食べてきた料理で一番美味い!どこかの高級料亭にも匹敵しそうだよこの腕前は!?誰か師匠とか居るの!?もしかして独学!?毎日私のために作ってください!何なら結婚して下さいお願いします!!」
「誰が嫁にやるかこの野郎!!!!」
未来にそう言う話はまだ早い!!あと10年経ってから出直してこい!!
「うおっ!?そう言えばここにはシスコンの姑が居るのを忘れてた…」
「誰がシスコンだ!」
「お、お姉ちゃん…一旦押さえて…ね?」
おっと、未来に注意されてしまった。反省反省。
「えっと、そんなに美味しかったですか?殆ど冷蔵庫の残りを適当に使っただけだったんですけど…」
先程未来は『一人増えたところで手間は変わらない』と言っていたが、それでも元々あった材料に大した物は無かった。寧ろ後で食材を買いに行かなければならない程冷蔵庫の中身は少なくなっていた。それに加えて元々は私と未来だけで済ませる予定だったので、来客時のことを完全に失念していた。本当にあり合わせしか無かったのに、久米井からの反応を見て未来は戸惑ったのだ。
「いやいや。モグモグ。これはお世辞抜きに大した物だよ。ムグムグ。行儀が悪いと分かっていながらも。ハムハム。こうして箸が止まらなくなるくらい。モハモハ。非常に美味なのだ」
そうして久米井はあっと言う間に皿の中身を平らげた。
「命とそれを彩った者達に感謝を…ご馳走様」
「お、お粗末様でした~」
未来は食事中の久米井が放つ謎の気迫に終始圧倒されていた。
「して、勉強はどこでやっているのかな?」
「それならここよ。さっきはお昼ご飯を用意するために一旦片付けたの。少し休憩したら再開する予定」
「承知。ではその間に私がどのようにしてここまで辿り着いたのかを話そうではないか。なぁに、ほんの時間つぶし程度に考えてくれ賜え」
そうして私達は食後の休憩の肴として久米井の話を聞くことにした。
非常に長く、所々で脱線していたので内容はかなり薄い。まとめると以下の通りとなる。
①私の住所を確認し忘れた。
②上司に頼んで教えて貰う。
③エクストリーム迷子。
「え、エクストリーム迷子?」
意味は何となく解るが理解が追い着かない。未来はそんな顔をしている。
「彼此4時間は彷徨ってたな。その間に見掛けた自販機で水分補給を繰り返してたら財布から小銭が消えてな。最後の1本を飲んでから約2時間後にここに辿り着いたのだよ」
「小銭じゃ無くても自販機は使えるでしょう」
「明日見くん。万札は自販機には入れられないのだよ…」
「……」
コイツ普段からそんな大金持ち歩いているのかよ。って言うか、近くにコンビニが在ったはずだけど…気が付かなかったのか?
「まぁ兎に角そう言う訳さ。さてそろそろ勉強に移ろうじゃないか。課題は多い。今回は遅れてしまったが、早めに片付けておくに超したことは無い」
「確かにいい時間ね、未来もそろそろ良い?」
「うん。目標は一日で全部終わらせて思い切り遊ぶ!でないとやってられないよぉ…」
未来のその一言で場が引き締まり、私達三人は勉強道具をテーブルに広げて各々の課題に取り組み始めた。
◇ ◇ ◇
同日14:00 お勉強タイム
唐竹家リビング
「グ…ァが…」
「頑張れ久米井!あと3問だ!」
「お、お姉ちゃん?久米井さん大丈夫なの?」
「私は久米井が『最後までやり切る』と言った言葉を信じる」
勉強開始から殆ど間もないが、既に久米井は満身創痍。元々勉強が苦手と言っていたその言葉に偽りは無く、宿題も最初の一問を解くだけでもかなり苦戦していた。
私の助言を受けて少しずつ解くスピードも上がっていたが、後半になって問題が複雑になるに連れてペースがダウン。現状残り3問、いや今一問解いたので残りは2問になった。の時点でこの有様だ。しかもこれが終わってもまだ一教科分。まだ後ろには二教科分の課題が控えている。
「よ…よし…後もう少しだ…」
「く、久米井さん。そんなに無理をしたら体を壊しませんか?」
「あ…案ずるな…未来くん…数々の修羅場を潜り抜けてきたこの身は…この程度の精神攻撃などには決して…決して屈したりはしないのだよ…」
「な、なら私も手伝って──」
「それはダメだ!それだけはダメだ!先ずは私がこれらを軽くこなさなくては話にならないのだよ!」
そう。本当なら未来が言い出さなくても私が彼女の手助けをしても良かった。でも彼女は私からこれらの教科の基礎的な部分を教わってから『後は自分一人でやってみる。本当にダメだったときは手を貸して欲しい』と言って一人で取り組みだしたのだ。
「それにこの感じはどこか懐かしい…初めて刀を握って、その日の内に何百回と素振りをしている感覚に似ている…最高にハイってヤツだ!」
おまけにこんな事まで言い出したのだからもう私の手に負えない。こういう人種を私は知らな──
「──いや、違う」
もしかしてかつての私もこうなってた?
「よおおおっし!!終わりィィィィ!!!さて休憩……」
そう言って久米井は仰向けに倒れた。と思ったらその瞬間には寝息を立てていた。
「す、凄い特技を持ってるね…」
「大方何時でも何所でも直ぐに寝られるように訓練してるのよ。きっと」
「ほえー、流石秘密組織」
未来には久米井の大まかな素性はある程度話されている。ただ、彼女の口からは『AWSA』のことは只の秘密組織としか話されていない。語る気は無いと言うことだろう。
「どれ…ちょっと採点でもしてみるかな…」
所要時間約45分。後半はペースダウンしたとしてもまずまずなスピード。これで7割正解してたらそれだけでも月校では自信に繋がる。
「……ギリギリってところね」
正答率は6割と9分だった。普通に見たらそれだけでも大したモノだが、事月校となると本当にギリギリだった。
「取り敢えず、ジュースの用意でもする?」
「しようしよう♪」
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