教室でのエンカウント
こんなので怪我をするのはイヤだなぁ
5月2日(水)13:00 昼休み
明日見の教室
「おっ昼ー♪おっ昼ー♪」
午前の授業が終わり、お昼休みになった。学食で食べようと思った私はスキップ混じりに教室を出ようと扉に手を掛けた。その瞬間だった。
──ガララバン!!!!
「いであああああああああ!?!?!?!?」
──痛い!マジで痛い!超痛い!折れた!?折れてないよね!?指繋がってるよね!?
説明すると、私はスライド式の扉の取っ手に手を掛けて開けようとした。すると向こう側から勢い良くもう一枚の扉を開けた者が居て、私の指は扉と扉の取っ手に挟まった。
つまり。超、凄く、痛い。
私の絶叫を聴いて何人かのクラスメイトが『何事!?』みたいな目を向けてきた。そして私の惨状を理解すると一斉に目を背けた。薄情者め!知ってたけど。
そしてその犯人はと言うと。
「む?あぁすまない。怪我をさせるつもりは無かったんだ。許して欲しい」
開口一番。若干舌足らずな声でそうほざきやがった。と言うか昨日職員室まで案内した少女だった。
「おま!!お!おま──!」
そして今の私はと言うと、目の前の少女が無自覚で行った惨事を糾弾しようとして声を上げようとしたが、あまりの痛みに思考が追い着かず、言葉が途切れ途切れになってしまい、上手く自分の意思を伝えられなくなっていた。結果どうなったかというと。
「?おま?オイオイ上級生の女子という者がそんなはしたない言葉を使うんじゃあ無いよ。乙女な私は羞恥心で顔を赤くしてしまう」
「違うわっ!!!」
「?で、では私のほとのことを言っているのか?残念ながら私は生まれてこの方彼氏居ない歴イコール年齢の非モテ女子だ。貴方のような経験は全くなく、いつも寂しい夜を過ごしている。当てつけか?さては貴様当てつけか?」
「どうでも良いわっ!!!」
「で、では私に何を要求しようというのだ?まさか躰か!?躰が目当てなのか!?申し訳ないが、私はノーマルだ。多少の興味はあるが、そう言う趣味では断じてないのでどうか許して欲しい」
「何でそんな方向に話が飛んでいく!?」
──ダメだ!どうあがいても下ネタに変換される!
「じゃあ何だというのかね?昼休みも有限なのだぞ?」
「こ、こいつ……!」
──落ち着こう。一旦落ち着こう。そうだ深呼吸だ。そうすれば多少は何とかなる。
「スーッフゥッ」
「いや本当に申し訳ない。まさかこのタイミングで教室を出ようとする者が居るとは思わなんだ」
「昼休みなんだから当然でしょ。あー…やっぱり腫れてる…」
右手の人差し指から薬指の第一関節が見事に紫色に変色している。治るのかなコレ?
「うわ、流石にコレは予想できなかった。思ったよりも深刻だぞコレ?」
「だから、お前なんてことしてくれるんだ!って言おうとしたらこれだよ…」
「いや、本当にすまない」
これには彼女も流石に反省している様子だった。
「このままでは、私は昨日の恩を今日になって仇で返して、更に相手の言葉を下ネタと捉えて返す超絶ムッツリクソビッチ美少女になってしまう。何とかせねば」
反省してるよね?これ?
「保健室?そうだ保健室だ!そこへ連れて行けば良いんだ!成る程私は天才だな!」
何かを思いついて一人で納得してる超絶ムッツリクソビッチが私の目の前に居た。
「では諸君。彼女を保健室まで連れて行く。さらばだー!」
「ちょっと!?ねぇちょっと降ろして!?」
彼女は私を担ぎ上げて私の教室を後にした。
◇ ◇ ◇
同日13:10 昼食時
保健室
「さて、ここなら邪魔は入らないな」
「早く降ろして!」
「まぁそう慌てるな。よいしょっと」
「うおぅ!?」
肩に担ぎ上げられてた私は乱暴にベッドへ投げられる。
「やれやれそんな声を出さないでくれよ。こっちまで変な気分になってくる」
「私だって出したくて出してるわけじゃ無いわよ!」
「そうかっかするな、禿げるぞ?」
「人の神経を逆撫でしてるのはどこのどいつだ…!」
──殴りたい。一発殴りたい!グーで殴って良いよねコイツ?
「ってそうだ!早く治療を──」
「もう治ってる」
「──は?」
「患部をよく見てみたまえ」
恐る恐る自分の右手を見てみる。つい数分前に出来た怪我は綺麗さっぱり消え去り、変色した患部も元の色に戻っていた。
「あれ?でもさっき…」
「既に似たような事は何度も起こっているだろうに、いつになったら慣れるんだい?」
「いや…でもそれは…」
「言っとくが私は何もしていないぞ。正確には何かしようとした傍から勝手に修復されていった」
「で、でもそんなことが…」
「起きたのだよ。過去にも今回にも起こったのだよ。やれやれ…偶発的に沈んで自力で脱出したと思ったら、今度はそんな特異体質に目覚めるなんてな…早めに接触しておいて良かったよ。本当に」
──沈む?一体何の事?
「あ、あの…」
「ん?なんだい?」
「貴女って、一体何者?」
「あ?あぁそう言えば自己紹介がまだだったな、うっかりうっかり」
そうして彼女はコホンと咳払いを一つして姿勢を正す。
「久米井那由多。本日よりこの月ヶ峰高等学校の一年生として編入した。以後よしなに」
「あ、うん。私は──」
「二年○組出席番号5番唐竹明日見。君の事はもう既に色々知っている。今更自己紹介とかされても、どんな顔をしたら良いか解らない」
──やっぱり色々知られて居るみたいだ。
「えーと…質問、と言うか確認したいんだけど…良い?」
「いいよ。何でも訊きたまえ。答えられる限りで答えよう」
「じゃあ一つ目。私を助けたのは貴女なの?」
「あれ?ひょっとして忘れてた?その通りだ。ゴブリン達に殺されそうになった君を助けたのは、他でもないこの私さ!さあ存分に感謝してくれたまえ!」
立ち上がって両手を上げて掌を上に向ける。絵文字にすると\(・∀・)/だ。そしてそのままの体勢で私を見下ろす。
──崇め奉れと?
「二つ目。この制服を送ってくれたのも貴女?」
「…まぁ正確には私では無いけど概ねその通りだよ。君の制服を作るに当たって、上が方々に働きかけたみたいだからね」
少しガッカリした様子で元の姿勢に戻りながら答える。
──上。と言うことは彼女は何らかの組織に属している?それもかなり規模の大きい?
「三つ目。何故かすんなり欠席連絡が通ったこと。これも貴女達?」
「直接では無いが、まぁそれも正解だ。さっきも言った方々に働きかけた内の一つだね」
凄く有り難かったが、それと同時に同じくらいの不気味さも感じた。私も知らないところで個人情報が流れていないかが心配になってくる。
「最後に。貴方達は一体何者なの?」
「寧ろそれを説明するために私は君を連れて来たのだよ」
そう言われて何故か保健の先生が居ないことに気が付いた。
「あ、別にコレはついて一芝居打った訳では無く、何となく人の居ない教室を選んだ結果こうなっただけだ。
だからそんな訝しむような目を此方に向けないで欲しい。まるで私がわざと君の指をツチノコのように膨れさせて青紫色に変色させたみたいじゃないか。違うのだよ?アレは本当にわざとじゃ無いのだよ」
「…本当ね?」
「本当本当。ワタシウソツカナイ」
様子を見る限り本当のことらしいが、だったら事前に察知しても良さそうなモノなのに。以外とポンコツなのか?
「何やら失礼なことを言われた気がするが、まあいい。コホン」
彼女にとっては咳払いが意識を切り替えるキーらしい。そう言う呼動作が必要なのは何となく解る。
「改めて自己紹介としよう。AWSAのダイバー久米井那由多」
正式な所属名を明かして彼女は私にこう言った。
「唐竹明日見。私は君をスカウトしに来た」
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