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道中、昔の自分を振り返って

「じゃあ、行ってきまーす」

「行ってきまーす!!」

「はーい、行ってらっしゃーい」


 妹と共に家を出て母に見送られながら徒歩で駅に向かう道を歩く。私が通う高校と妹の通っている中学は、途中までは一緒なのでこうして歩いて行くことが昔は多かった。

 そういう意味では、こうして妹との時間が長くとれるという意味でも有り、部活を辞めて良かったかもしれないとほんの少しだけ思えてしまう私は、ある意味では薄情なのかもしれない。


「それでそれで?」

「なーに?」

「何かあったの?」

「何かって?」

「部活でだよ、やっぱりあんな説明じゃ納得できないよ」

「あぁー…そっかー…」


 一体どこから説明したものか。ここで一言「色々ありました」で誤魔化すのは非常に簡単だ。でも妹のことだからそれで納得しないのは目に見えている。だからここは…。


「ごめん、ちょっとね整理するのに時間が掛かるんだ」

「そっかー…」

「だからもう少し時間をくれない?必ず話すからさ」

「…うん、わかったよ。約束だからね?」

「うん、約束」


 しばらく歩くと、駅に向かう道と妹の学校との分岐点にたどり着いた。


「あっそうだ!お姉ちゃん♪」

「…?なに?」

「お誕生日おめでとう♪」

「…っ!?…あっそうか…そうだったね…うん、ありがとう」


 妹の言葉で肩の力から少し力が抜ける。今度何かお返しをしなくてはならないな。


 そうして妹と別れ、独り最寄駅まで歩く。歩きながら私の半生を振り返ることにする。


 ◆ ◆ ◆


 私の名前は「唐竹明日見(からたけあすみ)」年は今日で17歳。現在通っている高校の二年生で、本来ならば部活や恋愛などを楽しむ青春真っ盛りな時期である。こんな書き方をしているのは、今の私がその状況とかけ離れている事くらいはおおよその察しは付くと思う。

 二年に上がるまでは普通だったと思う。いや、私がそれに気が付かなかっただけで、振り返るとそこかしこに火種は燻っていたんだ。

 私は中学では陸上部に所属していた。入部の動機はダイエットしたいと言う非常に利己的なものだったが、毎日長距離を走り続ける事でその成果が出て、先輩達に褒められた。同学年の部活仲間からそれを羨ましがられるのは、なかなか気分が良かった。

 それから私は当初の目的を余所にただひたすら鍛錬に打ち込んだ。この時の私は部内ではマグロというあだ名が付けられる位走ることしか頭にないように見えたらしい。走れば走るほど、私はタイムを縮め試合でも結果を出し、先輩達からのアドバイスも余す所なく吸収し、先輩達の引退を期にエースなどと呼ばれるまでになってしまった。


 おそらく、ここから私は調子に乗ってしまったんだろう。でも当時は浮かれすぎていて気が付かなかった。


 先輩達が引退しても私がマグロであることに変わりは無かった。それどころかより悪化したのだと思う。先輩として後輩を指導する。この当たり前のことが私には出来なかったのだ。


「走れば速くなる」

「速くなるためには走るしか無い」

「私は貴方たちの何倍も努力した」


 終始こんな事しか言っていなかったと思う。当たり前のことだが私は先輩達からはこれの他に、姿勢や呼吸、ペース配分などの「走り続けるための知識」も教えて貰っていた。けれども私は自分が走ることにしか頭に無く、後輩達からは全く頼りにされない先輩となってしまっていた。同輩達も、「少しは下の子の面倒を見たら?」と、私を諭すのだが、それでもこの時の私は「走れば速くなる」と言うことを信じて疑わなかった。


 やがて三年生となり、高校受験に追われる年が訪れる。成績もある程度上位に位置していた私は「近所にある」と言うまたも不純な動機のもとに進学先を決定した。

 そこは毎年ほぼ全ての運動系の部活で最低でも県大会出場と言う快挙を成している学校で、部活への力の入れ様は他と追随を許さない。学力の方もレベルが高く、某有名大学の進学者を数多く出していることでも有名だった。


 そう言ったところでも、やはりアッサリ合格を取ってきた私は部内でも呆れさせてしまっていた。恐らく「こいつにはもう何を言っても無駄」と言われていたのだろう。


 そうして華々しく卒業し、同級生や後輩達と涙の別れ(そのつもり)をした私は高校へ進学した。


 そこからが私の終わりの始まりだったのだろう。

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