表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/69

新たな謎 - 今は日常にお帰りなさい

スマートフォンにて失礼します。

「え?私が生き残った理由?何でそんな?」


 浅田さんはどこか言葉が足りないのだろうか?いきなり納得顔で訳の解らないことを言ってきた。アレは単に運が良かっただけな気がするけど…。


「……」

「…あ、あの浅田さん?」


 また考え事をしてしまっている。いったい私の話から何が解ったんだ?


「…こんな話を聞いたことはあるかな?」

「…いきなりなんですか、そんな都市伝説の始まりみたいな語り出しは」


 さてはこの男友達居ないな?なんか話し下手だもん。


「まぁ、最後まで聞いてよ。一昔前のことだ、ある男が『ナイフを拾った』って言って交番まで届けに来た。ところが………」


 ……………………………………………………。


 ……………………………………………………?


 あれ?なんで止まったの?


「…聞き返さないの?」

「…あ、リアクション欲しかったんですね?えっと、あの、ゴホン!……と、ところが?」


 面倒くさいな浅田さん。こっちは普通に話を聞きたいだけなのに。いったいどうしたんだ?


「男の手にはナイフなんて握られていなかったんだ。有ったのは何かを握っている形の手だけがあった」

「丁度、さっきの私のような?」


 私が浅田さんに短剣を見せたときの様子を思い出しながら訊く。


「そう、まさにそんな感じ。…もう一回見せてくれる?」

「はい…いいですけど…」


 もう一度短剣を持っている右手を差し出す。


「ではちょっと失礼するよ」


 そう言って浅田さんは私の右手を満遍なく触りだした。いきなりのことで少し驚いたが、もっと驚くことが私の目の前で起きた。


「──!」

「やっぱり何も無い。最近聞く話だけどどこか胡散臭さを感じるよなぁ…」


 浅田さんの手が短剣を()()()()()。まるで初からそこに存在しないみたいに。影は無く形だけがあるみたいに。


「ほ、ホントに有るんです!透明で影も見えないけど、でも無いけど、でもホントに有るんです!」

「同じ内容の取り調べはいくつもある。君が言ったみたいなこともまたあった。でも我々には何故か認識できなかったんだ」

「ならそれが見えてる私は何なの!?」


 話している中で浮かんだ疑問を相手に叩き付けてしまう。自分でも今の私が冷静では無いことが解っているけれど、それを止めることは出来そうに無かった。


「殴りかかってきたアイツの手を切り裂いたり!飛び掛かってきたアイツを真っ二つにしたり!その上目の前で二人を殺したアイツらを今度は私が殺して!それをしたのは何故か私にしか見えない謎の武器で!それでも今度は私がアイツらに殺されそうになって!それでも何故か生きてここに居る私はいったい何なの!?」


 全部、言ってしまった。本当は誰かに夢だと言って欲しい。でも誰かに現実だとも言って欲しい。ハッキリして欲しかった。恐かった。確証が欲しかった。あんなにボロボロだったはずなのに次の日にはキレイな体になってる。まるで夢でも見ていたみたいに。でも周りでは確かに私に関係した人物が死んでいて。もう何が何なのか解らなくなっていた。


「それも何も解らない、でも俺が話したその人達は最後に必ず行方不明になっている」

「──は?」


 本日何度目だろう?最近の私は『は?』としか言えなくなってしまっている。


「話に出た人物のように届け出に来た人はまだ良かった。その後の足取りも追いやすかったからね。でもこのような事例の人達はこの街に限らずどこかのタイミングで必ず消息がわからなくなる。本当に神隠しがあるみたいに」


 ──待って、ちょっと待って。それじゃあつまり…。


「そう。君が本当の意味で最初の生還者になる」


 漸く彼が私から色々話を訊きたいのかが解った。単なる事情聴取なだけじゃ無い。本当に細い糸を辿ってきた先に居たのが私だったのだ。


「だから教えてくれ、あそこで何が有り、何を見て、どうやって助かったのかを」


 そう言って浅田さんは椅子から立ち上がって頭を下げた。

 ずっと、警察の人というのは、強引で、押しが強く、こちらの心情を鑑みず、一度捕まったら説教される物だと思ってた。

 実際私は冬休みが明けてからは、毎日学校に行くフリをして遅くまでバイトをして、たまに警察に補導されたりした。正直腹が立ったしこれからもこんな面倒なことになるのかと気持ちが沈みもした。

 でもこの人はそんな人達とどこか違う空気を纏っていた。上手く言えないけれど、どこか真っ直ぐな人だ。


「解りました、でも所々記憶が怪しい部分が有りますのでそこはお手柔らかにお願いします」

「もともと無理を頼んでいるのはこっちだ。それくらいで目くじらを立てたりしないさ」


 それから私は浅田さんに知っていることを、体験して感じたことを全て話した。


 学校帰りにゲーセンに寄ったこと。

 そこで拉致されて路地裏に連れて行かれたこと。

 何とか拘束を解いて短剣を手に取ったこと。

 大見孝文の腕をそれで切り裂いたこと。

 必死になって逃げたこと。

 街灯が点いてないのに薄暗いだけで済んだこと。

 行き止まりで骨の山を見たこと。

 飛び掛かってきた大見孝文をその勢いで殺害したこと。

 目の前で羽成亮太と橘信二が魔物に殺されたこと。

 魔物達と死闘を繰り広げたこと。

 大きな衝撃を受けて全身を打ったこと。

 覚えている限り全てを話した。


「………」

「最後の『どうやって助かったのか』ですが、済みませんここからは本当に何も覚えていないんです。いくら思い出そうとしても手の中から砂のように零れていく感じがして何も…」


 そうして私は全てを話し終えた。


「………」


 浅田さんは顔面蒼白になりながらもメモを書く手を止めなかった。額から汗が垂れ、たまに手汗でメモ帳やペンが手から滑り落ちそうになっても記録する手を止めることは無かった。


「………」

「………」


 互いに無言。浅田さんがペンを走らせる音だけが病室に響く。顔色は少しずつ戻っていった。


「……フーッ」


 浅田さんはメモを書く手を一旦止め、こちらへ向き直った。


「話に矛盾が見られないとは言え、聞くに信じられない内容だな」

「私でもそう思います。でもそうとしか言えないのもまたなんとも…」

「…流石にこのまま上に報告するのは、『現実味が無いと』書き直させられそうだ…」

「仕方が無いですよ、浅田さんが信じてくれるだけで何とか…」


 色々記憶の整理も気持ちの整理も出来た。抱え込まないというのは何と楽なことだろう。


「……」

「浅田さん?」


 また何やら考え込むような顔をしている。何かに気が付いたのか?


「…なぁ、ふと疑問に持ったんだが、いいか?」

「何にでしょう?」


 疑問?ここまで来て何か有るだろうか?


「どうして君だったんだ?」

「どうして、とは?」


 質問の意図が解らず聞き返す。


「いや、ゲームセンターで君を攫った大見孝文なんだがこれが少し奇妙でさ。数ある人達の中から()()()を狙ってたみたいなんだ」

「え?あそこそんなに人居るんですか?」

「ああ、結構居る。それこそ個人的に綺麗所と思うのがかなり数で単独行動している」


 気が付かなかった。そんなに思い詰めてたのかよ私。


「因みに君の周りだけ人集りが出来たりもしてた」

「どうやって攫ったんだよアイツら…」

「どうやら店員を装って人垣を散らしたみたいだね」

「また随分と…」


 私には彼等とは面識は無い。でもだとしたら何故彼等は私を狙ったのだろう?


「アイツらってここに何度か来たことはありますかね?」

「それについてはなんとも言えないな、ちょっと映像を洗ってみるよ」


 そう言うと浅田さんは誰かにメールを送る。部下の人だろうか。


「さて、今回は事情聴取に協力してくれたことを感謝する。ありがとう明日見くん」

「こちらこそ、色様々なことが解ってなんかスッキリした気持ちです」

「…これは勘なのだが、今回聴取した内容はどこか妙な匂いがする。君も色々な意味で気を付けたまえ」

「……また神隠しに遭わないように、とかですか?」

「それについてはもうどうしようも無い。問題なのは人だ」

「人、ですか?」


 てっきり次魔物に遭遇したときのための訓練を欠かせずに、とかだと思ったのだけれど。


「最近、学校で妙なことは無かったかい?」

「いやー、別にそんなことは無かったと思──」


 ──待てよ?そう言えば。


「…あの、浅田さんは月ヶ峰高校で起きた事件についてはどれ程ご存じで?」

「……ウワサ程度だな、ただあそこは起こったことは全て生徒の責任と処理しているため、詳しい話しが殆ど外部に出て来ない。教職員達はそのフォローしか行っていない」


 それって聞きようによってはかなりまずい場所なのでは?


「『大抗争』って言う事件があったらしいんです。私はソレが起きた時期は自分のことで手一杯だったので何も知らなかったんですけど…」

「……聞いたことがあるな、何でも一人の新入生男子によって先輩達が文武両方の面で叩き潰された事件と聞いている。でもそれってそれこそ眉唾じゃないか?」

「と言いますと?」

「あそこは元々偏差値が高いところで、中学で天才と呼ばれていた者でも入学して直ぐに『井の中の蛙』と言う現実を突きつけられる場所として有名なところだ」

「どうせ私がその蛙ですよーだ…」


 何となくそんな気がしていたが、直に言われると中々堪える。


「それ位レベルの高い学校のはずなのに、何で新入生が先輩を負けさせられるんだ?」

「……」


 その話の張本人であると主張していた小金井健太の顔を思い出す。自分のことも他のこともどうでもいいと思っていそうなあの顔。でも灰田先輩の事を話していた時の楽しそうで、でも寂しげな顔。そして大抗争のことを話したいたときのつまらなそうな顔。


「本当のことだと思います。多分」

「…どうしてそう言いきれる?」

「同じクラスなんです。その張本人と」

「話したのか?」

「昨日、今年度初めて学校に行ったときに向こうから話しかけてきて、それで私が気が付いていなかった色々なことを教えてくれたんです」

「なんてった…連絡先は交換してないかい?」

「一応していますけど…」


 小金井にメッセージアプリで連絡を取り、警察にアドレスを教えていいか許可を取る。好きにしろとのことだった。


「大丈夫みたいです」

「俺のことをかなりストレートに伝えていたみたいだが、彼もまたなんとも言えない奴だな」

「アイツはそう言うヤツですよ」


 浅田さんは自身のスマートフォンに小金井の連絡先を書き込む。


「じゃあ、今度こそ失礼する。また何か有ったら連絡しよう。それと今の君にこんな事を言うのは変かもしれないけど、どうかお大事に」

「確かにそうですね、ありがとうございます」


 そう言って浅田さんは病室を後にした。窓を見ると西日が差し込んでおり、かなり長い時間話していたことが解った。窓の向こうの景色を空から地面に変える。浅田さんが自身の車に乗り込み病院を後にするのが見えた。結構忙しい人みたいだ。そりゃそうか、刑事だもん。


「……」


 一人になった途端、微かな不安に襲われる。ここはこんなに広かったか?また魔物に襲われるのでは?


「いやナイナイ」


 だったらここは今頃行方不明者まみれでどうにかなってるはずだ。キチンと営業している辺り、そんな心配は無さそうだ。


「そう言えば周回忘れてた」


 気持ちに余裕を持たせるためか、はたまた現実逃避か。私は日常に帰るための儀式としてスマートフォン入れたゲームアプリを起動した。

誤字脱字などの報告があればよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ