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戦い

申し訳ありません。私の中であまり納得が行かず最後の部分を削除致しました。重ね重ね申し訳ありません。

 魔物。凡そこの文明社会ではまず見ることの無い存在。

 魔物。空想の彼方に置き去りにされた形を与えられた災害。

 魔物。社会で忌み嫌われる物の俗称。

 魔物。恐怖を形作ったもの。

 魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。魔物。


「──ぅあ…?」


 アレは恐怖だ。まだ人が被捕食対象だった頃の天敵を目の前にしたときの恐怖だ。

 見ただろう。油断しきった相手に集団で刃を突き立てて絶命させたその手腕を。見ただろう。己の背後に聳える獲物達の末路を。


 今も私の目の前で、私のことなど歯牙にも掛けず自分達の力で仕留めた獲物を──。


「っ!うああああああ!!!」


 思わず奴らに向かって走り始めていた。自分でもどうしてなのか解らない。況してや相手は恐ろしいほどのた際の良さで大の男を狩った奴らだ。恐怖に足が竦みそうだった。

 でも私はどうしてか彼等をこのまま見捨てることだけは出来なかった。


 あとになって考えると、この時の私はかなり運が良かったと思う。まず相手が私にすっかり油断していたこと。先の男達は私の方を向いていて背中がガラ空きだった。対する私は行き止まりを背に通路を向いていたから奇襲は出来なかった。もう一つは私の短剣が奴等にとっても不可視だったことだ。無手で突撃してきた相手なら楽に仕留められると高を括っていたのだろう。

 だからこの結果は奴等にとっては予想外のモノに違いない。


「GAAAA!!??」


 私に背を向けていた内の一体に不可視の短剣を突き立て横に振り抜く。抵抗無く刺さったソレはその後も空気を切り裂くように奴を切り裂いた。断末魔を上げてそいつは絶命した。


「GGA!?GEIGA!!GARARARA!!!」


 奴らの中で比較的体躯の良い者が、私と言う脅威を認識したのか、その他の奴等に何か指示のような声を上げた。その間に私は続け様に二体を手にした短剣でその命を刈り取っていた。


「GYAA!」


 奴らの一人が手にした武器を私に振り下ろした。私はソレを弾こうとして短剣を振るった。が──!


「GA!?」

「!!痛!」


 確かにヤツの武器を破壊することは出来た。ヤツの得物は半ばからキレイに切断されていた。相手も驚いたと思うがこちらは計算外だった。切断面があまりに鋭利すぎる。

 それもその筈、ヤツの武器はそのまま私に当たったのだ。迎撃のために振った私の短剣は、確かに破壊していた。

 けれどその頃はまだ武器は自分が壊されたことを知らなかったのだ。ヤツの力で振るわれた武器は私に当たって初めて私に壊されたことを認識した。


「いたた…」


 右肩から血が流れている。

 ──とても痛い。


 でも問題なく動かせる。

 ──凄く痛い。


 今後はヤツの攻撃はなるべく避け続けることを考える。

 ──悲鳴を上げたくなるほど痛い。


 「ッシ!」


 スタートダッシュの要領で近くに居た一体に急接近し短剣を刺す。振り抜いた後続け様にもう一体に斬りかかる。相手は武器をかざして防御の姿勢を取るが、この短剣の前にはソレは無意味だ。相手を武具ごと両断する。即座に次に向かう。無論相手も馬鹿では無く、防御は無理なら払い除けることは出来ると踏んだのか私の攻撃に合わせて武器を振った。


「っ!?この!」


 その目論見は上手く行ったらしく、私は体勢を崩して前のめりになる。即座に身の危険を感じ、相手と反対方向に身を転がす。先程まで私が居た場所にヤツの武器が振るわれていた。


「ッギ!」


 即座に身を起こして壁を背に奴等を睨みつける。相手はそれに少しだけ怯んだが、今の私を見て油断なく持っている武器を構える。一方の私はかなり息が上がっている。

 命の遣り取りなんだから当然だ。私が生きてきた中でここまで必死になったことは何時振りだろう。死ぬ気で何かに取り組んだことは何度かあった。でも私はその本質を見誤っていたのかも知れない。ここでは一歩間違えれば本当に死ぬのだ。

 怖い。やっとその感覚を思い出す。こうやって奴等に相対して本当にこれから始まることを想像する。足が竦みそうだ。


 ──なんで私がこんな事をしている?

 ──そもそもどうしてこんな所に居る?

 ──何でよりによって私なんだ?


 今私に降りかかっている理不尽に対する疑問が溢れかえってくる。疑問があふれる度に恐怖感が増してくる。その度に手や足が震えそうになる。

 でも奴等は私のそう言った隙を決して見逃さないだろう。この睨み合いは先に気を抜いた方が負けるのだ。

 にしても卑怯でしょ、こっちは一人なのに向こうは何体居るのよ。地面に転がっている奴等の数は5体。けれどまだ全体の半分も削れていない。油断していない大勢の武器を持った者達と、恐怖に足を止めて肩で息をしている一人。

 客観的にも戦力バランスは明確だ。それでも…。


「ッスゥーーーー…」


 相手を見据えながら深呼吸をする。今の心を落ち着かせるために。そして──。


「ああああああああああああ!!」


 私自身に気合いを入れるための雄叫びを上げた。部活で先輩から何となくで仕込まれた掛け声で鍛えられた肺活が役に立った。突然の大声に相手も怯み、一歩後退っていた。

 私はその動揺を見逃さず、掛け声のまま目の前の一体に駆け寄り顔面に短剣を突き入れる。そのまますかさず振り抜き動揺の脱けていない近場のもう一体に短剣を切り込む。その頃になると状況を理解したようで、すぐさま私に対する迎撃態勢を取り出す。私の振るった短剣は当たるすれすれの所で奴の武器に弾かれる。


「チッ!」


 思わず舌打ちが出る。が、その辺りは織り込み済みだったので持ち方を変える。今まで順手持ちだった短剣を逆手持ちに変えて攻撃を弾いた奴の脳天に叩き込む。


「!?GI!」


 腕より先の力で切り裂かれるのでは無く、腕の力がそのまま乗った一撃は流石に防ぎようが無かったらしく、短い断末魔を上げて絶命した。


 そこからはお互いに一進一退の攻防が繰り広げられた。私の戦いを観察していたリーダー格が下部達に指令を送り、奴らもそれに合わせて攻撃と回避を繰り返した。一方の私も奴等の攻撃を回避した後も攻撃の手法を少しずつ変えながらだんだん無駄なく奴等を処理できるようになっていった。それでも段々傷が多くなり始め疲労が蓄積し始め、少しずつ動きが鈍くなっていった。しかしその度にまだ終わっていないと声を上げて体に活を入れる。

 戦略を練った相手が私個人を相手に数を多く減らし、司令塔への道が出来た。


 ──アイツを倒せば!


 リーダーが倒されれば士気は大きく下がる。相手にそれが通じるかは解らないが、奴等はそいつを信じて戦っていたみたいだ。なら可能性はあると思い、疲労の溜まった脚を全力で動かす。


「うぉあああ!!」


 掛け声と共に走るのに。道中に立ち塞がる奴等はまとめて突き刺し、斬り伏せる。途中何度か攻撃を喰らったがまだ致命的なところには来ていない。斬る、刺す、払う。10秒にも満たない中で走り何体もの奴を倒す。


 そうして私はリーダー格の下に辿り着き。


「討った!!」


 短剣を構えてまっすぐ突進する。私にはそこから先のリーダー格を倒すビジョンしか無かった。これで終わ──


「っ!?ガッ!!」


 瞬間。私は横合いから何かの衝撃を受けた。例えるならバランスボール大の鉄球のような質量が、プロのハンドボール選手が投げるボールぐらいの速度で飛んできて、それが横からぶつかってきて爆発したような、振り返るとそんな感じだったと思う。

 私は今まで潜り抜けてきた奴等の頭上を越えて壁に激突してそのまま落下した。


 ──何?何が起きたの?あれ?わたしどうしたの?なんで動かないの?


 全身を派手にぶつけた。体が動かせない。でも顔はアイツに向いていた。口元を歪めてさぞ面白いモノを見たと言いたげな醜悪な貌を。もう少し目を凝らすと、アイツを挟んだ向こう側に黒いローブのようなモノを羽織った影があった。手には小枝のような物が握られている。


 ──アレは…なんだ?


 そんな疑問が生まれる。


「GUNGA!!」


 アイツが何か号令を掛けた。その途端下部達が武器を下げ、アイツに道を譲るようにに動いた。そして私に向かってゆっくり歩いてくる。歩きながらアイツは徐に今まで抜いてこなかった得物を取り出す。片刃の曲刀。と言うより日本刀に見える。他の奴に比べたら無骨だが随分と立派な物だ。どうしてそんなにゆっくり歩いて来るのだろう?


 ──あれ?この状況、ひょっとして?


 アイツの顔はどこか神妙だ。私に対する何かがある。敬意?何となくそう感じる。昔部活の先輩が相手チームに握手を求めたときもこんな顔だったような?


 ──でも、なんで?


 私はこれからどうなるのだろう。もう残り15m位だ。


 ふと、今までの思い出が脳裏を過る。

 あまり楽しいと感じなかった小学生の6年間。

 打ち込める物を見付けたつもりになった中学生の3年間。

 そして安易な気持ちで入った高校での生活。

 本物の才能とそれが見せる次元の違いを見た。

 いくら成果を出しても軽くそれを超えてくる同輩達を見た。

 それでも認められたくて形振り構わず努力をした。

 そして灰田先輩に告白されたときその全てが報われた気がした。

 でも私はそこに足を取られて先輩に心配された。

 先輩は私を庇って身代わりになった。

 そして私に向いていた嫉妬が憎悪に変わった。

 耐えきれなくて逃げ出した。

 でも家族に心配を掛けまいと部活に行くフリをした。

 その時間はバイトに当てて後ろめたさを誤魔化した。

 そして誕生日を区切りに漸く決心して、そして──


 ──なんで?なんで今になってこんなのが頭に浮かぶの?どうして?これじゃまるで…。


 走馬灯。その言葉が出て来るまで時間は掛からなかった。そしてそれが意味する物は…。


 ──私、死ぬの?


 死。ここまでやって来てそんな大きすぎるプレッシャーが訪れた。

 死。死ってなんだ?死ぬってどう言う事だ?無に返るのか?魂だけになるのか?天国に行けるのか?沢山殺したから地獄に落ちるのか?痛いのか?痛くないのか?生まれ変わるのか?そもそも──


 ──イヤだ。死にたくない。イヤだ。まだ死にたくない。イヤだ。まだ生きていたい。イヤだ。まだみんなと話せていない。イヤだ。まだ未来に謝ってない、話せていない。イヤだ。まだ先輩に謝れてない。


 残り5m。口元が動いていて何か喋っているみたいだ。でも言葉が分からない。


 ──イヤだ!助けて!まだ死にたくない!お父さん!お母さん!未来!先輩!誰か!まだ死にたくないよぉ!助けて!イヤだ!死にたくない!


 残り、0。

 奴は得物を持ち上げる。私の名字の唐竹割りの構えだ。真下には私の首がある。これが振り下ろされれば私の首は胴体と永遠に分かたれることになるのだろうか?


「あ…」

「GLA…GANLA?」


 言い残すことはあるか?そんなことを聞かれた気がした。


「たす…けて…」


 これが精一杯だった。何しろ痛みで気絶と覚醒を繰り返して漸く安定してきたところだった。でもこれ以上はもうどうしようも無く、刃が振られるのを待つしか無くて。


「GUGA!!」

「──っ」


 私はその瞬間に備えて思い切り目を瞑った。1秒2秒。まだか?まだなのか?


「…?」


 恐る恐る目を開けるとそこには──


「やれやれ、間に合って良かった。いや、遅すぎたのかな…これは」


 首が無くなりそこから噴水のように血を噴出させているアイツと。


「さぁ、助けに来ましたよ。ここまでよく頑張りました」


 右手に刀を持った、凜とした中にどこか幼さを感じさせる少女が居た。

誤字脱字などの報告があればよろしくお願いします。

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