いつもと少し違う朝
少し納得いかない所がありましたので修正いたします。
瞼の裏が赤くなり始めて、顔全体が朝日に熱せられることで目が覚める。枕元に充電ケーブルを挿したスマートフォンの時計を眺めて、まだ登校時間に余裕があるのを認識する。
それとともに昨日までの出来事が夢では無く現実だと言うことを再認識する。
それでも感情はそれを現実だと認めたくは無いようで、悪い予感を頭から振り払うように勢いをつけてベッドから起き上がる。
「おはよーおかーさーん…」
部屋を出て、まだ少し眠気の残る声でリビングに入り、キッチンで朝ご飯を作っている母に声をかける。フライパンで卵を焼く匂いが空きっ腹を刺激する。
「あら、おはようすみちゃん。早速で悪いけどみんなのご飯をよそって貰える?こっちはもうすぐ出来上がるからね」
熱したフライパンの中で溶き卵を掻き混ぜながら指示を出す。今日はスクランブルエッグか。
「んーわかったー…」
母の指示に従い私と母、そして妹の茶碗にまだ炊き上がってそれほど間が経っていない白米をよそう。
「できたよー…」
「こっちも出来たわー。それじゃあすみちゃん、未来ちゃんを起こしてきてくれる?」
「わかったー…」
私とは別の部屋で就寝している妹を起こしに二階へ行く。妹の部屋は私の部屋とは違って、扉には「みくのへや♪」という可愛らしいプレートが下げられている。軽くノックして中に入ると、その部屋の中はプレートの可愛らしさに違わないカワイイ縫いぐるみやリボン、勉強机には父の趣味で付き合ったミネラルショーのお土産である綺麗な石が詰まった小物入れがある。そんな綺麗や可愛いで埋め尽くされたような部屋の奥に、布団を蓑虫のように巻き付けながらわざとらしい寝息を立てて寝ているフリをするのが我が妹「唐竹未来」だ。
「おーい起きてー…起きるんだよー…朝ご飯できてるよー…」
「クカー…スピルルル…」
「起きてよー…起きてってばー…学校に遅れるよー…」
「ンガゴゴゴ…」
一体どんなイビキなのだろう。過去にここまで野太いイビキは無かった気がする。けれども声はやはり可愛い我が妹のそれであるため別人という可能性は無さそうだ。
仕方が無い、ならば最終手段に出よう。
「しょーがない…勿体ないから君の朝ご飯は私が頂いていくよ…」
「えっ!?ヤダそれだけはダメーーーー!!!!」
両の耳に人差し指を入れて簡易な耳栓をしながら目の前で起こることを見守る。
突然蓑虫が立ち上がったかと思ったら頂点から顔が飛び出し、そこから水鉄砲のように我が妹が飛び出し空中で一回転したかと思ったら両の足で見事な着地を決めるという体操選手も真っ青なアクロバティック起床を行ったのである。見慣れた光景とは言え朝からこれだと疲れたりはしないだろうか?かつての私もこれに近い物ではあったらしいが、今となってはあまり実感が湧かない。
「とりあえずおはよー…」
「おっはよーお姉ちゃん!!さぁ朝ご飯だよー!!」
一体先程までの狸寝入りは何だったのだろうか、朝からハイテンションな妹であった。
「やばっ…いそがないとみくにぜんぶたべられる…」
朝の眠い頭と体を動かして食卓へ向かう。前の私だったら、先に向かった妹のように動けたはずだった。それも含めて昨日の出来事は夢や幻なのでは無く、やはり現実なのだろうか?
「「「いただきまーす」」」
三人が食卓に揃ったところで朝食が開始される。並んでいるのは、平皿にスクランブルエッグとその下にハムあり、その脇にレタスが敷かれてミニトマトが添えられていた。いつにも増して朝食が豪華に見えるのは気のせいだろうか?
「ねぇお母さん。今日何かあった?」
食事をし始めた影響か、意識が明瞭になり始めた私が聞いた。
「どれも賞味期限が切れそうなのよ、だから早めに使っておかなくちゃってね」
「そう」
大した理由は無かったらしい。私は何を期待していたのだろう。
「あれ?お姉ちゃん今日は遅いね、朝練とかは良いの?」
「あー…それなんだけどさぁー…」
言い辛い。すごく言い辛い。でも何れは知れ渡る気がするので言うことにする。
「部活…辞めたんだ、私」
流石の妹もこれには驚いたらしい。大好きなメニューを目の前にポカーンと口を開けている。
「あら意外。もう少し勿体つけるのかと思ったわ」
「いつかは知られるでしょ、だったら早いほうが良いって」
「…自暴自棄にだけは成らないで頂戴ね?何かあったら相談するのよ?」
「うん…ありがとう」
母の優しさが身に染みる。もう少し早く相談できてたら良かったのかな。
「えええええええーーーーー!!!どうしちゃったのお姉ちゃん!?!?あんなに一所懸命だったのに!!」
私たちの会話で正気に戻ったのか、我が妹らしいハイテンションな返事をする。
「部活仲間と上手く行かなくなってちょっとね…」
「どうして!?お姉ちゃん誰よりも速かったのに!!誰よりも努力してきたのに!!」
「色々あったのよ、色々」
そう言って私は食事を再開する。それを見てさすがの妹もこれ以上は聞き出せないと思ったのか、渋々ながら食事を再開した。
「これからは私も朝食手伝うよ。時間も出来ちゃったし」
「そう?なら頼りにさせて貰うわね」
母も少し詳しく聞きたそうに見えたけれど、私の様子を見て引いたみたいだ。それを見て少し申し訳なく思いながら朝食に手をつける。自分から作っておいて気まずく感じてしまった空気から早く逃げ出そうとするように。その勢なのか美味しそうに見えた朝食の味を楽しむ余裕が無くなってしまい、余計に申し訳なく思った。