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第31話


<御坂葵Side>


「んっ——」「っぁん……んっ」


 声が重なる。


 それを認知したときには―—私と隼人は唇を重ね合っていた。

 そう、だ。


 私はしてしまっていた。

 二週間の頑張りを見抜かれて尚、押して。


 鈍感な隼人を振り向かせて。


 暖かい隼人の「ちゅー」が私を包み込んでいた。


「んっ……んっ! ふっ……んっ」


 大人のキスとは言い難い。

 でも、すごく情熱的で温かい。なんとも言い表せられないようなものだった。


 温かい。優しい。柔らかい。

 人ってこんなにも温もりがあって、ふわふわで、目をつぶれば天国のような……そんなものだったんだろうか。


 どうしてか、恥ずかしさもいつの間にか消えている。

 むしろ、もっと欲しい。


 本当に、もっと欲しい。

 

 やっぱり、どうやら私は変態だ。


「んっ……」


「っは……」


 視線が交差して、隼人の目が私を捉える。

 そんな彼の頬は少しだけ赤らめていた。


「……ど、どう、だ?」


 自信気に笑みを浮かべながら水っぽい唇を震わしている。何を、いくらそっちからやってきたとは言って、自信気に言うことはないでしょ。


 それに、恥ずかしいことを聞くな。余計に赤くなっちゃう。


「どうだって何よっ」


「……いや、別に。どうだったかなぁと」


「そんなこと聞かないで、恥ずかしいから……」


「そ、それを言ったら俺だって……」


「そっちから来たくせに?」


「——誘ったのは葵の方だろ?」


 今更何を言っているんだ、こいつは。相変わらずのヘタレ目。初めてのキスを自分の手柄にし様とは思わないのかな、ほんと。


 まぁ、隼人らしくて私は好きだけど。


 そんな隼人が好きで好きで、仕方がないのは事実だけれども。


「手柄、もらってもいいの?」


「——手柄?」


「だって、私からキスを迫ったことにしたら貸しをたくさん作っちゃうことになっちゃうわよ?」


「べ、別にそのくらい……」


 口元を腕で拭きながらそっぽを向く隼人。

 そのいかにも図星な表情はいたずらし甲斐がありそうだった。


「へぇ……いいんだっ。これじゃあ私がいっぱい助けちゃってるし、隼人に何でも頼めちゃうなぁ~~。優しいなぁ……さすが私の幼馴染っ」


「っう……」


 お、効いてる効いてる。

 可愛い顔して、うずうずしてるっ。


「卒業式に慰めてあげたのも私だし、辛いときに一緒にいてあげたのも私だし、ご飯だっていつも私が作ってあげてるし……それに、《《キス》》まで奪っちゃったよ?」


 くいっと顎をあげて、私は目の前の隼人を見つめる。


 すると、彼は俯いて肩をぷるぷると震わせた。いい気味だ。悔しいのかな、隼人は。かわい子ぶって私に全部渡そうとするからだ。


 ほんとヘタレめ。


「——じゃあ、もちろん私の言うこと、聞いてくれるわよね?」


 そう言うと、隼人はピタッと動きを止めた。

 え、あれ?


 なんか、様子が変だ。

 さっきまで恥ずかしそうに顔を赤くしていたのに、横から見える頬が少しも赤くなかった。


「——あ、あれ?」


 びっくりして、私は思わず隼人の肩を掴んだ。

 まさか、本当に受け止めて……泣いてる? とか。

 いやいや、さすがに隼人がそんなわけないっ。ヘタレはヘタレだけどメンタルは弱くないし……そこまで本気で言っているわけでもないし。


 そ、そんなわけ……ない。


 でも、そう思い込んでも隼人はぴたりとも動かなかった。


「ね、ねぇっ……」


 掴んだ肩を少し揺すってみるけど、まったく変化がない。

 口をきいてくれなかった。



 ——やり過ぎた。

 ——さすがにやり過ぎた。

 

 どうしよう、これで隼人が何も聞いてくれなくなったら。やばいっ‼‼ 

 なんて余計なこと、してしまったんだ、私。


 ぐるぐると思考が揺れて、目の前の隼人の背中から鬼のような何かが見える。せっかく進んだのに、せっかくしてもらえたのに……。


「葵」


「——は、はいっ⁉」


「こっち」


「え」


「いいから、こい」


 声色が鋭い。

 やばい、本気で怒ってる。

 どうしよう。

 何をすればいいか、分からない。


 そして、私は恐る恐る近づく。


「——は、隼人……ご、ごmっ——!?」


 すると、ソファーに座っていたはずの隼人が私の目の前。

 すぐそば、顔の前。


 唇と唇が近づく距離に、いや、もはや触れ合っているくらい、確実に触れ合っているほどの距離に一気に身を寄せた。


「ひゃ、ぁ……と?」


 近い、近い、近い‼‼

 なにこれ、何なのこれ!?


 お、お腹と胸がくっついてあぁぁ……胸がどきどきしてっ。


「——んっ」


 私は隼人の腕に捕まって動けなかった。

 肌が触れ合って、心臓の鼓動が聞こえる距離から隼人はじっと見つめてくる。


「な、な——に」


「はぁ……気を張り詰め過ぎなのはどっちなのかな?」


「え」


「やっぱり、そうか。俺がやらないと駄目なんだな」


 一人で頷いて、一体何をっ——。


 そう思った時にはすでに遅く、隼人の唇は私のそれにくっついていた。


「——っん!?」


「っ……ぅ」






 それから1分ほど続いた口づけ。

 接吻と言うか、優しいキスというか、ほんの口づけ程度だったけれど。




 どうやら、私は大好きな幼馴染の事をキス魔にでもしてしまったらしい。




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