第27話
結局、水着だらけのゴールデンウィークプール大会(?)は走馬灯のように長くも儚く散り、残り一日となったGWも特にすることはなく、葵の美味しい手料理を満足に平らげていつの間にか大学へ登校していた。
隣を歩く頭一つ分小さい葵の横顔をチラッと見ると、少し憂鬱な表情をしていて、まぁ、そうだよな。俺も頷いた。
「ゴールデンウィークも早かったなぁ……」
「——え、あ、うん。今思えば、一瞬でびっくりだよ」
一瞬、ではあった。
一日目、二日目の躍進。
俺たちが付き合うことになり、色々と家で言い合って、プールに行き、最後は二人で家デート、いや同棲なんだからデートとは言わないか。とまあ、のんびりと過ごしただけだった。
16年間も幼馴染だった人間が恋人になったところでどうすればいいかなんて分からないし、告白してようやく恋人関係にはなれたけど、それが大きな一歩になったのか? と言われたらそうではない。
「なんか……もっと、色々したかったけど」
ぼそっと呟かれた言葉。
俯きながら、つまらなそうな顔は少しだけ心に来る。
焦らしているだけなんだ! なんてあーだこーだ言ってはいるけど、なんだかんだ俺は葵に幸せになってもらいたい。
というか、俺が幸せにしなきゃいけない。だというのに、かくかくしかじかいろんな言い訳を付けて何もしていない俺というのはみっともない。
たとえ頑張ったと良してもおでこにキスするくらいのことしか出来なくて、このまま嫌われて……別れる……やばい、それだけは絶対に嫌だ。
さすがに、どこかで仕掛けないと駄目か。
バイトの先輩に聞いてみるのもありなのかもしれない。あの人なら分かってくれるかも。
「……そ、そうだな」
そして俺は、葵の悲しそうな呟きのボソッと答えると、お互いの学部棟に向かった。
講義が終わると、葵に「バイトに行ってくる」とメッセージを送り、俺は駅前の個別指導塾へ向かった。
「お疲れ様でーす」
「こんにちは~~、って、あ。藤崎先生ですかっ」
「こんちは、塾長っ。毎回ですね」
「毎回も何も、最近はみんな笑みが少ないと思ってね~~」
塾のドアを開けて、中に入ると受付に座っている塾長がいつも通りの小ボケをかまし、俺は苦笑いで返した。
「……まぁ、ありがとうございます」
それに、そんなギャグじゃ苦笑いしか生まれないって。
そんな面白くもない塾長の小ボケに付き合わせた俺は控室に向かった。
「——はぁ、まったく。俺の事なんて知らないって言うのに」
ぼそっと呟きながら扉に手を掛けて開けると——、ビタリと動きが止まった。
「あ」
零れ出た一文字。
そして、同時に視界の向こう側に映る女性の姿。
一応、教育係として俺を教えてくれている三島加奈子先輩がスーツに着替えている最中だった。
「ふ、藤崎……くん……っ⁉ きゃっ‼‼ と、扉‼‼」
「——す、すみませんっ‼‼」
数秒遅れてから来た驚きと悲鳴と共に、慌てて扉を閉じる。
不幸中の幸い、周りには生徒も他の先生もいなかったが——謝るために扉の隣で待つのは少し居心地が悪かった。
ガチャリ。
扉が開く音がして、振り向くとリクルートスーツ姿の三島先輩が頬を赤らめながら控室から出てきた。
「あ、そのっ。先輩、まじですみませんっ」
頭をグッと下げると、先輩は肩に手を置いて。
「——いや、わ、私が悪いから気にしないでっ。男女兼用だから着替えちゃいけない規則だったし……」
「で、でも——み、見えてしまって……」
情熱の赤。
そして、豊富なバストサイズ。
いや、服の上からでも分かるくらいに大きいのはスーツのボタンがはち切れそうなくらいだったし、知ってはいたがブラジャーの色も相まって凄まじかった。
いい意味で目に毒だ。
「——そ、っそういう時は‼‼ み、見てないって言うもんでしょ‼‼」
「あ——す、すみませんっ」
「いや、別に怒ってないけど……うぅ、まぁ、私が悪いかっ、うん。ごめんね、ほんとに」
「なんか、そう言われると罪悪感が凄いですね……真面目にすみませんでした」
「あははっ……お、お嫁にいけないかもっ……」
うぐ。
さすがの言葉に背筋がビッと固まった。
「————お、俺……付き合ってるんでもらえないのはまじですみません」
「——私、フラれた?」
「まぁ、結果的には」
「……なんていううちに初めて告白してるの、私。てか、フラれたとかやっちゃったの私!?」
「すみません、まじ」
「うぅ……」
あまりに急な動きに俺も動揺したがいつも通りの天然な三島先輩で少し安心した。
「それで、先輩」
「ん、なぁに?」
「あぁ——その、相談があって。大丈夫ですかね」
「今?」
「はい」
「……まぁ、大丈夫だけど。なんかあったの?」
「いやぁまぁ、その……彼女の事で少し話したいことがですね」
「さっきフった相手にソンナコト相談するの?」
「……あれはノーカンで。というか、別にフったつもりはないですし……」
「え、振ってないの⁉ もしかして、私まだ処女ですか⁉」
「——はい。あと、そういうことを小学生もいる場所で言うのはちょっと……」
「うっ」
それに、処女って別に先輩はまだ何も致してないでしょうに。
俺も童貞だし、やってもないぞ。
「……そ、それで……じゃあ、中でしましょうか」
「——お願いします」
ぐすんっ——と鼻を啜りながら涙目で控室に戻る三島先輩についていく。
まったく、見た目も仕草も可愛いけど性格がちょっと苦手かな。




