第12話
<御坂葵Side>
「——俺と、付き合いたい?」
まさにバットタイミングだった。
隼人の胸の内でそんな言葉が聞こえた。
空耳だよね?
空耳ですよね?
聴力がいい自信がある私の耳が聞き間違えたんだ。そう思ったが、ふと我にかえるとそこは現実だった。
途端に顔が赤くなって、大きくて硬い胸から全くと言っていいほど顔を離すことが出来ない。
「っ……ぁ……」
だめだ、声も出ない。
まさか、まさかのまさかだ。
隼人がこんなにも大胆だとは思ってもいなかった。
というか、どうしてこうなった!?
この前のお返し?
それって一週間前のハグの事? ていうか、私、そんな大胆なことした!?
——いや、したな。思いっきりしたな。
矢吹さんを見て焦っている隼人を見て、思いっきり抱きしめた気がする。こ、この——胸を押しつけながら心音が聞こえるくらいにぎゅっと抱きしめた。
——っ。
うぅ、鮮明に覚えすぎて余計に恥ずかしくなる。もう、仕方ないじゃん。私から攻めに行ってもなんかこうぎゅっとされている様で、包み込まれるみたいで、結局のところ満足しちゃってるの私だし……って、そうじゃないっ‼‼
と、と……とにかく、この質問だよ。
何、付き合いたいって?
急すぎるよ……最近、自分の気持ちがよく分かったのにそんないきなり言われても困る、というか——嬉しいんだけど、ってあれだよね? それを聞いてくるってことは——隼人も私の事が好きなんだよね!? そうだよね‼‼
でも、隼人はこんなに大胆な人じゃない……あんなに好きだった佐藤さんにも卒業式に告白するくらいだし、大学生になったからと言っていきなり抱きしめながら告白紛いな聞き方……するわけないよね。私は最高に好きだけど。
「——だ、大丈夫か?」
大丈夫なわけない。
それになんで隼人はこんなにも冷静なの⁉ 嫉妬していたときの隼人は可愛かったくらいなのに、カッコよくて……もう最高……って、またまた何考えてるの私っ⁉
「……だ、大丈夫……なわ、けないしっ‼‼」
「——ぉっ」
「す、すすすすす、好きなの、私の事!?」
「ぁ————ま、まぁ……一応……?」
「ちょちょちょっ―—待って! ちょっと待って‼‼」
本当なの?
ついこないだまで佐藤さんが好きだったんだし? いくら幼馴染とはいえ、そんな都合がいいことはないと思うし……まさか、あるわけないし……。
あぁ、もう、どうすればいいんだ‼‼
「わ、私は——す、好きというか、でもえっと……そのっ」
「————や、やっぱ……ごめん急にっ‼‼」
「え?」
「お、俺も——変なこと……きいちまった……あははっ、ははっ―—はははっ‼‼」
「————ぇ」
「う、嘘……嘘……じゃないけど、嘘だから‼‼」
「嘘?」
「——っ」
すると、私の背中から手を離し、隼人は颯爽と風呂場まで駆けていく。途中、小指を角にぶつけて「あひゃっ」なんて声をあげて、真っ赤な横顔を見せながら私の視界からすぐに消えた。
「……え」
<藤崎隼人Side>
今一番いらない需要を叶えてしまったぞ、藤崎隼人。
男のツンデレなど、誰が望むか‼‼
「っはぁ、っはぁ、っはぁ……まじで……やっちまった……何言ってるんだよ、俺っ」
洗面台の大鏡に移る自分を見ながら俺は自問自答をした。
抱き着いただけで大胆なのに、告白紛いなことも言いやがって……ほんと、何してんだよ俺‼‼
「くそっ……絶対にやべーやつだと思われた。幼馴染の化けの皮が一緒に住んだだけで剥がれちゃうような獣だって思われた。というかもう、あんなの野獣じゃん」
ほんと、クソッたれだ。
まるで本能そのもの。
よく男の方が性欲が強いと言うが、まさにそんな感じだった。しかも、カッコつけたのがめちゃくちゃ痛い、痛すぎる。
中二病はとっくのとうに卒業したはずなのに……あぁ、くそ。
「はぁ……一旦、風呂でも入ってゆったりしよう」
シャワーを浴び、頭から足先まで綺麗に洗っていく。いつもより念入りに洗ってしまっていたのはリビングに戻りたくない願望が出ているからなのか……余計に意識してしまって、のぼせているような気分になる。
20分ほどかけて、俺は湯船に浸かった。
いつもより少しだけ温度が高かったが、あまり気にはならなかった。
というか……気づかなかった。
「ふぅ……まじで、どうしよ…………っ」
浴室に響く溜息。
それにしても、ダセえな俺。
ほんと、自分から慰めようとして——おかしな方向にすすんじゃって、いつの間にか告白紛いな台詞を言っては恥ずかしくなって逃げてくるとは……。
「はぁ、ほんと、ダセぇ……」
するとノックがなり、浴室扉の奥に人影が見える。
「あ、あの……隼人ぉ……」
「え、っあ⁉ あ、葵!?」
「えへへ……その、は、入っちゃ……ダメかなっ?」
「うえ!? な、なんで急に……」
「いや、その……さ、さっきの話の続き……聞きたくって……」
「だ、だからあれは——冗談って言うか、そういうっていうか、いやな、でも……別に変な意味はなくて——えっと、その……こ、今度のゴールデンウィークつ、付き合ってほしいなって……」
「ご、ごーるでんうぃーく?」
「あ、あぁ! そうだ、ゴールデンウィークだ! GWだ! ほら、色々あるだろ? 北海道はお花見の時期、それくらいだしさ、二人で行こうぜ!」
「え、あぁ……うんっ、そ、そうだね! 分かった、ありがとっ」
たたたっ——と足音が遠のいていった。
「は、はぁ……あぶねぇ……」
普通に危なかった。
危うくお風呂に一緒に入ってしまうところだった。それに、俺の機転の利く誤魔化しもよく言ったぞ、ほんと。
「……ふぅ」
それにしても、一緒にお風呂か……何年ぶりなんだろ? もう、小学1年生からかなり立っているし、成長してるわけで……。
服を着て分かるくらいなんだから。
きっと、葵の体……めちゃくちゃ綺麗なんだろうな。
あ、やべっ、考えたら……股間がっ。




