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第10話


「というわけで、一人目は小学二年生の女の子なので、優しく教えてあげてくださいねっ」


「わ、分かりましたっ——」


 あの宣言から数日後。


 大学の講義を終えて俺は駅前の塾へ訪れていた。

 初出勤から実に二日目、初めての担当生徒を受け持つことになった。


 この前は集団塾の講師になるつもりだとは言ったが、あまりできそうにもないので、まずはマンツーマンの個別講師という形態をとっているような塾に勤めることにした。


 地方のローカルCMではよく放送されているのでそれなりの知名度の塾で、生徒数も規模感もかなり大きい。そのおかげなのか、一週間かかると思っていた当初の予想よりも早く、二日目の今日にはすぐ生徒が決まっていた。


 それに給料の方も、担当者によれば30時間ずつ上がっていくらしく、生徒数も慣れていけば増えていくらしい。中には大学2年生にして10人以上請け負っている人もいるというのが驚きだ。


 ——————と、紹介はここまでにして俺は久々に緊張している。


「ふぅ……」


 久々と言ったらうそになるが告白する時とはまた違った怖さというか、不安というか……期待も込みでいろんな感情が渦巻いて、割と気が滅入りそうなのだが、相手が小学生と言われれば怯んでいるわけにもいかない。


 まして、小学二年生、そして女の子。


 彼女からして、俺はいい歳のおじさん。いや、かっこいいお兄さんくらいの歳だ。未知と言ったらそれまでだが、ジェネレーションギャップどころではない。別にロリコンってわけでもないが、幼馴染があんなんだから「ロリコンだな」とよく言われる手前、変に意識してしまいどこか変だ。


 もしも、葵が小学生なら——


『隼人ぉ、お勉強教えて?』


「って、んなエロくねぇ」


 たぷたぷの胸が張りついた体操服にランドセル、背の低さが際立つ衣装を纏った葵の姿が頭の中にイメージできたがあくまでコスプレで、あまりにもエロ過ぎる。最近のかまってちゃんな彼女のせいで余計にだ。


 そんな風に考えていると扉が三回ほど鳴り、担当者の声がした。


「藤崎先生~~、生徒さん入りま~~す」


 ついに来た、そう思いハッとして返事をする。


「——は、はいっ! 了解です!」


 張り切り過ぎか……緊張した胸の内でそう言った瞬間、ガチャリと扉が開いた。


「……こ、こんにち、わ……」


「こ、こんにちはっ!」


 入ってきたのは黒髪おさげの女の子。そのサラサラな髪は肩辺りまで伸び、ランドセルのベルトをぎゅっと握り締めながらこちらを俯きがちに見る彼女。


 後ろでは母親らしき若いお姉さんがこちらを見ながら口パクで「よろしくお願いします」と頭を下げながら告げていた。


「だ、大丈夫かなっ?」


「っん」


 こくりと頷き、俺の左側にある椅子に座り、教科書を取り出していく彼女。動きがいちいち小さく、小動物を眺めているような気分にさせられていた。


「か、かわいい……」


「っ」


 思わずは呟いていた言葉に彼女は体をビクつかせ、一気に頬を赤らめた。


「あ、その……えっと、すっごく可愛くて、いいね!」


 な、何を言っているんだ俺は。

 思わず言ってしまっていたことの尻拭いをしようとして離れてしまい、彼女は隣で石のように固まっていた。


「あ——」


「……」


「あははっ……まぁ、とりあえず自己紹介しよっか」


「う、うん……」


 ペコっと頷いて、俺は少しほっとした。どうやら嫌われたわけではないようだ。


「ぼ、僕はね——藤崎隼人って言うんだ。藤崎先生でも隼人先生でも何でもいいからそんな感じで呼んでくれれば大丈夫だからねっ」


「……は、はやと先生」


 どきっ、胸がざわついた。まさに父親が初めて娘に「パパ」って呼ばれた気分だ。別にロリコンではないが、普通に感動で涙が出そうだ。


「ありがとうっ! うん、それで君の名前は?」


「……わ、わたしは……むすじめかなこ、ですっ」


「加奈子ちゃんだね、いい名前だね!」


「うんっ」


「小学二年生だっけ?」


「ん」


 コクり。


「じゃあ、この近くの小学校に通っている感じ?」


「うんっ、そこの第三小学校に、です」


「そっかぁ、僕はね、第四小学校出身なんだけど、知ってる?」


「っ‼‼ 私、あそこに見学行った! 友達もいるの‼‼」


「お、じゃあ文化館かな?」


「そうそう‼ あそこ、楽しかった!」


「えへへ、なんか先生も嬉しくなるねっ」


「いいでしょぉ~~、すっごく楽しいもんね!」


「うんうん!」


 満面の笑みに、そして純粋無垢な心。

 まさに真っ白で優しい匂いを感じる彼女に俺は心底癒された。


 結局、一日目はなれることを目標にお話をたくさんして、勉強はあまり進まなかった。


 ただ、加奈子ちゃんも加奈子ちゃんですごく良い子だったし、心を開いてくれた感じだったのは凄く感じたからまあ、結果オーライだ。


 まったく、Show yo|u guts cool say what《小学生は》 最高だぜっ!






<御坂葵Side>


「——って感じで、めっちゃいい子だったんよ」


「ふぅん……」


 ようやく帰ってきたかと思えば、なんか教え子の女の子の話を始めた隼人。

 こっちがどんな気持ちで待っていたかも知らずに、なんか楽しみにしていた私が馬鹿馬鹿しいまである。


 いや別に、小学生相手に浮気するなんて犯罪チックなこと、というか犯罪をやらかすとは思えないし、まあ私たち付き合ってないんだけど……あぁ、もうなんかムカつく‼‼


 なんで、こんなに考えちゃってるんだろ。私。


「どうした?」


「いや、なんでもない」


「気分でも悪いのか?」


「悪い」


「どうかしてるじゃん」


 分かってるなら考えてほしいよ、まったくもう!


「……だ、だって……わ、私との時間にそんな小学生の話……」


「小学生? 加奈子ちゃんの事か?」


「そ、そう……」


 な、何よ、加奈子ちゃんって。

 しょ、小学生でもやっぱり普通にムカつく。


 大人げないけど、大学生ですけど……変なピンチを迎えてる気がするし、なんだかんだ背の低い子が好きな隼人にかぎって……やっぱりだめ、考えたら余計に怖くなる。


「……嫉妬?」


「——!? べ、別に、小学生に嫉妬なんか!」


「ほんとか?」


「っう……だって、別に……」


「加奈子ちゃん、可愛くていい子なのは本当だけど、恋愛対象でも何でもないぞ? まず犯罪だしな」


「そ、そう言うこと言われるのがやなの」


「本当だけどなぁ……」


「でも、やだ」


「まぁ、それならわかったけど……」


「~~~~っあぁ、うん! もう、いいからお風呂は入ってきて‼‼」


「え、いやちょっ―—」


 私はいてもたってもいられなくなって、思わず隼人をリビングから追い出した。もう、なんでかなんて分からないし……好きなことは分かってもいるけれど……やっぱり、少しだけ……迷いもある。


 ぐちゃぐちゃになって、よく分からなくて、それでも嫉妬しちゃうくらい。


 ああもう、答えなんてとっくのとうに分かっているのに……本当に私、なに考えてるんだろっ。


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