生後61日目①
俺は、死んだ。
完全にそう思ったが赤ん坊の身体というのはどうにも割と頑丈にできているらしい。
少しばかりのタンコブは出来たものの、どこも折れちゃいないし、頭の先からつま先まで問題なく動かせる。
「……すぅ、…………んー、……すぅ、く、……ないちゃ……すぅ」
深夜2時、俺の母親であろう女はベッドの上で寝息を立てている。
この2ヶ月、この人のおかげで生きながらえたことには間違いないし、俺を愛してくれてもいたのだろう。
俺の立場から見れば恐ろしい存在でしかなかったが、それでも感謝だけはしておこう。
何よりも、2度とこの顔を見ないで済むと思えば、気持ちはひどく清々しい。
胸の中で強く思う。
『母さん、俺、自分の力で、自分の気持で生きていくよ』
前回の人生では25年かかっても思えなかったことが、
今回の人生ではわずか2ヶ月でこの境地に達することが出来た。
それもひとえに、この恐ろしい母のキ……、いや、やめておこう。
それでもきっとこの女は、こいつなりに必死こいて俺を立派に育てようとした結果なのだろうから。
俺は目に涙を浮かべながら、堂々とした足取りで家を出た。
もう2度と戻らないように、
強く、強く地面を踏みしめた。
次回:俺、まだ生後2ヶ月でよぉ