生後14日目
俺がこの世に生を受けてから2週間が経った。
「クナイちゃ〜ん、オムツ換えまちょ〜ね〜」
「…………」
もはや俺の心は死んでいた。
この女にどこを触られようが、何を言われようが知ったこっちゃない。
心臓から血液をポンプし、脳まで巡らせる。
ただそれだけの事だってカロリーは消費する。
歩くことさえ出来ない俺は、どうやったってこの女の保護が必要だ。
"命"を人質に取られた状態で、心を生かそうなんて土台無理な話だったのだ。
いっそのこともう一度死んで記憶を無くして生まれ変わりたいが、死ぬのは恐ろしい。
たとえ死んでも生まれ変われるってわかってはいても命を失う瞬間、刹那に感じる喪失感はとても恐ろしいものだ。
空腹感が一定のラインを超えると、2週間前の死の恐怖がフラッシュバックしてくる。
俺は今、恐怖心に飼いならされた生命の奴隷なのだ。
衣食足りて礼節を知るなんて言葉があるが、あれは本当に言い得て妙だ。
最低限の安心感というものがなければ、人を愛することは愚か、自分の心さえ尊重出来なくなる。
今の精神状態で急に"大いなる力"を手に入れたなら、俺は魔王となり世界を滅ぼすであろう。
もしも神がいるのならば、どうか力を与えないで欲しい。
俺が望むもの、それは普通。
凡庸だけど自由な暮らし。
苦労したっていい。
長く続く時の流れを、
自分の足で歩いて行きたい。
次回:キス、そして決意