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生後61日目③

「いや、別にいいけど、何が悪いことなの?」




 俺から離乳食をオーダーされたモヒカンは怪訝そうに言う。




「いやお前、俺はまだ生後2ヶ月なんだぜ? 離乳食ってのは大体生後4〜5ヶ月で食い始めるもんだ。その俺が離乳食食うってのはよ、10歳で酒飲むようなもんだろ」





「…………そ、そーかなぁ」




 モヒカンは苦笑する。




「まぁとにかくよ、いいってんなら甘えんぞ。とにかくタンパク質ちゃんと摂らねーと筋肉つかんからな」




「……マジメかよ」




「生後2ヶ月で筋肉つけてぇとかかなりのワル行為だろ」




「……あー、そ、そうだねー」




 モヒカンが棒読みで答える。失礼なやつだ。




「じゃ、じゃあ俺の姉ちゃん子供いっからさ? ちっと家から取ってきてやんよ」




「そうか、悪いな」




「……ついて来てくれ」




 そういって歩き出す強面について行くこと数分、俺はオシャレな酒場にいた。




 客はポツポツとしかおらず、店番をしている初老の女は何やら一生懸命本を読んでいる。




「……てめぇ」




「ごめんな、こんなとこでよ。けど、君のような赤ちゃんを連れてこんな時間に外にいるわけにもいかないからさ? 柄悪い感じだけど我慢してくれな?」




 強面が腰を屈めて目線を合わせて言う。優しいかよ。




「いやてめぇ、俺ぁそんなこと言ってんじゃねぇんだ。こんなとこ来ちまったらおめぇ、……酒飲みたくなんじゃねぇか!」




 いたれりつくせりしてくれるこいつには悪いが、生前俺は三度の飯より酒が好きだった。




 日本酒にブランデー、ビールにワインと何でも飲んでいた。




 微かに漂ってくるアルコールとツマミであろう肉の匂いが俺のテンションを否が応にも上昇させる。




「……それは絶対にやめてくれ」




「……わかってるけどよぉ」




 そこまで困った顔をされるのならば我慢するしかない。いやまぁどのみちこの体で酒なんて飲んだら多分死ぬから我慢は必然だろうが。




「ま、あいつんちこっから近いからさ、少し待っててくれよ」




「ああ、悪ぃな。しかしテメーらやたらと親切こいてくれんじゃねぇか」




 言うと強面は、小首をかしげながら、




「いやさ、普通そんな夜中に出歩いてる赤ちゃんなんて、……いや、普通は一人で出歩く赤ちゃんが既にあり得ないんだけど、ほっとけないだろ」




「まぁ、……確かに」




 ちょくちょく忘れそうになるが俺は今圧倒的に赤ん坊である。




 生物の赤ん坊ってのは基本的に保護されるために愛らしくデザインされているという話もあながち嘘では無いのかもしれない。





「それにさ? メチャメチャなこと言ってくる赤ちゃんなんてさ、……すげぇ、おもしれーじゃん」




 そう言ってニカッと笑う男に対して俺は、




「……違いねぇ」




 そして二人で小さく笑い合う。





「おーい、持ってきたぞ〜」




 声の方を振り返ると、そこには右手に布の袋を持ったモヒカンがいた。




 そしてなぜかその顔面は傷だらけだった。




  次回:性への目覚め(2回目)

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