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一本松の公園で  作者: 郁章
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二度目の異変

 翌日、亘樹が登校すると、隆太郎はすでに来ていて、教室の席でランドセルから教科書を取り出していた。ふたりは、授業の準備を手早くすませてしまうと、昨日の出来事を検証することにした。隆太郎の席の前に移動した亘樹は、ちゃっかりイスを占領して、背もたれに向かってまたがるように座った。

「隆太郎、昨日のあれは絶対に夢じゃなかったよな。」

「うん。ぼくたち、異世界にでも迷い混んだんじゃないかな。」

「まじで!でも、あの助けてくれた人は人間みたいだったよなあ。」

「よく確かめなかったけど、幽霊だったかもしれないし、もしかしたら妖怪が化けてたかもしれないじゃないか。」

「たしかに。でも、親切だったよ。」

「そうだね。良い妖怪や幽霊なのかも。それより不思議なのは、なんで異世界に迷い混んでしまったかだよね。」

「あっちの世界の松の木の下には祠があっただろ。あの祠が関係あるのかも。」

「うーん。でも、ぼくたちこっち側の世界では祠を見たり触ったりしてないよね。」

「ああ。オオタカを見上げて、ずっと上を向いてたらいつの間にかだもんな。」

「何がきっかけになったんだろう。どっちにしろ、あの松の木には何か秘密があるんじゃないかな。」

「面白いじゃん。次はもっと探検したいな。」

楽観的な亘樹に、隆太郎は少しあきれたように言った。

「帰れなくなったらどうするんだよ。」

「大丈夫だよ。実際、帰ってこられただろ。」

「ぼくは心配だけどなあ。」

「それよりさ、もう一回公園に行くだろ。まだ、オオタカの巣を確かめてないしさ。」

「そういえば、まだ途中だったっけ。」

「じゃあさ、今週末の日曜日の1時に、大池公園で待ち合わせな。」

結局、亘樹と隆太郎は、もう一度大池公園に行ってみることになった。


 日曜の午後の公園内は、人が多かった。亘樹たちは、待ち合わせ場所から松の木の丘に向かった。途中、スケッチブックを広げて、熱心に絵を描いている老人とすれ違った。

亘樹は、老人の顔にどことなく見覚えがあるような気がした。

ゆらゆらと景色が揺らぎ始めたのは、そのときだった。

足下だけは動かないのに、周りの景色だけがゆらゆらと揺れ、やがて揺れがおさまると、辺りの景色はすっかり変わっていた。

亘樹と隆太郎の目の前には、大きな池が再び姿を現していたのだ。


 亘樹と隆太郎は、今度は池の真ん中ではなく、池のすぐそばの岸に立っていた。さっきまでそよいでいた風はすっかり凪いでしまって、蒸し暑さを感じる。二人が戸惑っていると、竹でできた釣りざおを肩にかけ、バケツを手にした男の子が現れた。ノースリーブの黄ばんだシャツに短パンをはいていて、年頃は亘樹たちとそんなに変わらないくらいだ。亘樹たちをみつけると、声をかけてきた。

「おい、お前ら、この辺の子どもじゃないな。どっから来たんだ。」

亘樹は、なんと言おうかちょっと迷っていたが、

「遠くの方から。」

と、隆太郎が答えた。

「遠く?となりの村か?」

「ううん。もっと遠くだと思う。」

「おれは、魚を取りに来たんだ。お前らも、魚取りに来たのか?この辺は俺の縄張りだぞ。」

「ぼくたち、べつに魚釣りに来た訳じゃないよ。帰り道を探してるんだ。」

「道に迷ったのか。」

「道に迷ったって訳じゃないけど、この辺で待ってたら帰れると思うんだ。」

もとの世界に戻れるのを待っているなんて言ったら、変に思われるだろう。亘樹は当たり障りのないような適当な返事をした。

「変なやつだなあ。待ってたら帰れるって、迎えでも来るのか?」

少年が不思議そうに聞いたので、こうきはこのままごまかそうとした。

「うん。まあ、そういうこと。ねえ、魚釣り、見ててもいい?」

「いいけど、邪魔するなよ。おれ、公平。お前らは?」

「おれは亘樹。こっちは隆太郎。」

「じゃあ、こうき、隆太郎、見てろよ。」

少年は、小さな木箱からえさを出して釣り針につけた。白っぽいそれが何でできているのか、こうきがたずねると、

「小麦粉をねってある。」

と、そっけない返事が返ってきた。

公平が竿をなげると、ポチャンと音がして、水面に浮きが浮かんだ。何が釣れるのだろう。しばらく待っていると、釣糸がゆらゆらと揺れる。少年が釣りざおをひくと、小さな魚がかかっていた。同じようにして、二匹、三匹と、どんどん釣っていく。あっという間にバケツのなかは小さな魚でいっぱいになった。

「すごいなあ。この魚、どうするの?」

隆太郎が聞いた。

「母ちゃんに油であげてもらって、夕飯に食べるんだ。」

公平は得意気に言った。

「へえ。うまそうだな。」

「今日は腹一杯食べられる。おれはもう帰るよ。」

「うん。あ、ちょっと待って、村って言ってたけど、この村はなんていうの?」

りゅうが聞いた。

「ああ、知らなかったのか?ここは丸浜村だよ。」

「そうか。ありがとう。」

「じゃあな。」

そう言って、公平は背を向けた。そのとたん、またあたりが霧がかったようになって、視界がゆらゆらと揺れ、気が付けばこうきは、公園のもといた場所にいた。りゅうも一緒だ。老人の姿は、すでになかった。どのくらいの時間がたったのだろう。老人は急に消えてしまった亘樹と隆太郎を見て、驚いただろうか。それとも、絵に夢中で気付かなかったのだろうか。

「また、行ってしまったね。」

亘樹の顔を見ると、隆太郎が言った。

「今度は移動してないな。」

「ぼくたち、向こうでも移動してないものね。向こうで移動するとこっちでも移動するのかも。それより、公平がいっていたこと、覚えてる?」

「魚をあげて食べる?」

「そっちじゃないよ。公平はあの場所のこと、丸浜村だって言ってただろ。丸浜村って昔の丸浜校区の辺りのことだよね。丸浜校区は、今は石崎町と吉本町、屋敷町、三船町、大池町、矢竹町で構成されてるけど、昔は全部まとめて丸浜村って呼ばれてたって、3年のときに地域の学習で習っただろ。つまり、ぼくたちがいたのは異世界じゃなくて昔の丸浜町だったんじゃないかな。」

「でも、大きな池があったじゃないか。今の公園には池なんて、ないじゃないか。あんな大きな池が、消えたっていうわけ?」

「うん。一度調べてみた方がいいと思うんだ。」

「それなら、郷土資料館に昔の丸浜の地図があったよ。一度、調べてみよう。」

「ああ。そうしよう。もし、池があったら、ぼくたち、タイムスリップしてたってことになる。」

隆太郎が眉根を寄せて言った。



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