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一本松の公園で  作者: 郁章
3/7

公園での遭難

 一週間かけて二人の調べた結果、このあたりでオオタカが営巣するような高い木のあるところは、龍神社と大池公園の二ヶ所だということがわかった。龍神社の境内には、松の木や杉の木がたくさん生えている。どれも見上げるほどの大きさで、オオタカが巣を作っていても不思議はない。一方、大池公園では桜の木や柳、さるすべり等ほとんどの木がさして高くない木がたっている。しかし、公園の真ん中には一本の大きな松の木が立っていて、この赤松の木が樹齢何百年とあるような大木なのだ。こうきたちはまず大池公園の松の木を調べてから龍神社を調べることにした。ターゲットが少ない方から調べることにしようと、こうきが主張したからだ。二人は土曜日の午後に公園の前で待ち合わせして、一緒に松の木のある方へ向かった

公園では、子供たちが大型遊具で遊んだ位、中高年の人々が散歩したりと、昼下がりのひとときをのんびりと楽しんでいた。公園の小道をくねくねと歩き、二人が小高い丘までたどり着くと、そこには頭を真後ろにそらさなければてっぺんが見えないほどの大きな松の木が立っていた。ふたりは背負っていたバックパックの中から双眼鏡を取り出し、木の枝をつぶさに観察した。

「見つからないなあ。」

亘樹がつぶやく。

「てっぺんから下まで見たけど、俺も見つけられなかったよ。」

「巣らしきものもないなあ。」

亘樹がそういったときだった。

「あれ、隆太郎。あれ、オオタカじゃないかな。」

亘樹は、興奮していた。オオタカらしき大きめの鳥が飛んできたの見つけたのだ。

「あ、そうかも。カラスじゃないな。羽が灰色だし、オオタカかも。もっと近づいてこないかな。」

二人は鳥を見上げて観察したが、オオタカは赤松の上を通りすぎてそのままどこかへ飛んでいってしまった。


 亘樹と隆太郎は、もう三時間近く、ずっと赤松の木の下を動けないでいた。オオタカを見送って、視線を空から地上に戻したこうきが最初に目にしたのは、キラキラと反射する水面だった。小川だろうかと思ったこうきだったが、小川があるのは公園の端の方で、丘のそばではない。それに、向こう岸がものすごく遠くにあるようだ。慌てて周囲を見回すと亘樹たちがいる丘以外の風景がまるで変わっているのだ。

「隆太郎、おかしいよな。俺たちさっきまでと別の場所にいるみたいだ。」

「ぼくもそう思う。確かに公園にいたはずなのに。」

「隆太郎、携帯電話持ってたよな。家の人に連絡とれないかな。」

隆太郎は、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。子供用のもので、登録された電話番号の相手としか通話できないようになっている。隆太郎の両親は共働きで、鍵っ子の隆太郎のために四年生の頃から持たせてくれている。

「だめだ。圏外になってる。」

隆太郎が眉根を寄せて言った。

「圏外って・・・・・・公園の中で圏外って、おかしいだろ。」

「そんなこといっても、本当に圏外なんだから仕方ないだろ。」

「あー、もう、どうなってんだろう。」

「とにかく、周りの様子を確認してみよう。」

隆太郎はそう言って歩きだしたので、亘樹も後からついていった。


 周辺を探索した結果、亘樹たちは池に浮かぶ小さな島の上に取り残されているらしいことがわかった。島の周りには、ボートのような乗り物もなにもない。ただ、島の反対側に小さな祠があるだけだった。

「無人島みたいだ。」

隆太郎がつぶやいた。

「誰か来ないかな。」

「祠があるし、草を刈った跡があるから、誰かがこの島に来ることはあるはずだよ。」

「そうだよな。それなら、向こう岸に人が通りかかったら助けを呼ぼう。迎えに来てくれるかもしれない。」

「じゃあ、ぼくは向こう側を見張ってるから、亘樹はこっちを頼むよ。」

「わかった。」

そんなわけで、亘樹も隆太郎も、ずっと向こう岸を見張っていたが、誰も通りかからなかった。

亘樹は石を投げてみた。石は、ぼちゃんと音を立てて池に沈んだ。島の周りは浅くなっているけれど、向こう岸にわたるまでには深くなっているかもしれない。松の木にも登ってみた。かなり太い幹なので、登るのに苦労したが、一番下の太い枝に足をかけて地上を見下ろすと、遠くの方までよく見えた。亘樹が木から降りてくると、下で待っていたいた隆太郎が聞いた。

「どうだった?」

「うーん。ここ、公園の近くじゃないみたいだ。見える範囲に家がないよ。コンクリートじゃないけど池沿いに道があったから、やっぱり人は通るみたいだ。」

「そうか。」

 日が傾きかけていた。今は十二月だから、日がくれるのは五時頃だ。時計を見ると今まさにちょうど五時。お母さんが心配してるだろうなと思ったそのときだった。

「おーい」

声がした。耳をすますと、ぎーこぎーこという音も聞こえる。

「おーい。助けてー。」

亘樹は叫んでみた。

「おぅーい。何してるんだー。」

声が返ってきた。

「ぼくたち、この島に取り残されてるんです。」

隆太郎が叫んだ。

「待ってろー。」

しばらくすると、学生服を着た少年が乗った手こぎの小舟が姿を現した。小舟は、ぎいっと音を立てて、島の岸に止まった。


「君たち、こんなところで何してるんだ。舟もなしに、泳いで来たのかい?」

「えーと、それが・・・」

亘樹も隆太郎も、しどろもどろになった。自分達の身に起こったことを、どう説明したらいいのかわからないのだ。

「もしかして、舟で一緒に来た他の連中に置いてかれたのかい?」

亘樹と隆太郎は、顔を見合わせた。すると、少年は自分で言って自分で納得してしまったようだ。

「ひどい連中だな。とにかく、もうすぐ日が暮れる。舟に乗れよ。岸まで送ってってやる。」

「ありがとうございます。」

ふたりは声を揃えて言った。

子どもなら5人くらいが乗れそうな舟のヘリに足をかけると、船体がギシギシと揺れた。

亘樹が、素早く乗り込むと、隆太郎も後に続いた。

「出すぞ。」

少年は言うと、かいをこぎはじめた。舟はゆるゆると池の中を進み始めた。

「君たち、ここら辺りでは見かけない子だけど、どっから来たんだ?」

「ぼくたち、どこから来たのか自分達でもわからないんです。」

少年は、はあっと一息ついて、

「迷子か?」

と聞いた。

「公園でオオタカの観察をしていて、気が付いたらここにいたんです。」

「オオタカを追ってここまできたのか?」

「そういう訳じゃあないんですけど。お兄さんは何をしていたんですか?」

「ああ、おれは魚釣りさ。あっちの岸で魚をつってたんだけど、舟がこっちの岸にあるのに木の枝に人影があったから、おかしいと思って、様子を見に行ったんだ。そしたら、君たちがいた。」

「そうだったんだ。本当に。ありがとうございます。助かりました。」

隆太郎が言うと同時に、小舟は岸に着いた。岸に上がると、少年は心配そうな顔で、

「帰れるのか?」

と、聞いた。

「なんとか帰る方法を探してみます。」

「気を付けてな。もうすぐ暗くなるぞ。」

そう少年が言ったときだった。亘樹は視界が急にぼやけてきたような気がした。少年の姿がゆらゆらと揺れるように消えていった。それで、ぱちぱちとまばたきしたほんの一瞬の間に、景色が一変していたのだ。いつの間にか、亘樹はもとの公園にいた。赤松の丘とはずいぶん離れたところに移動していたけれども、確かに大池公園の景色だ。すぐそばには、隆太郎もいた。

「おれたち、さっきまで池のそばにいたはずだよな。」

亘樹は、おそるおそる隆太郎にたずねた。隆太郎の方は、一瞬驚いたような顔をして、

「そうだよ。ぼくたち、池の真ん中の島にいて、親切な人の舟に乗せてもらって、岸まで送ってもらったんだ。」

「夢じゃなかった?」

「まさか、二人同時に同じ夢を見るなんてこと、ある?」

二人して、寝ぼけていたのだろうか。目を白黒させた二人だったが、時計を見ると五時半近かった。今日はもう門限の時間なので、明日、学校で話し合うことにして、公園をあとにしたのだった。


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