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一本松の公園で  作者: 郁章
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亘樹と隆太郎

 亘樹も、隆太郎も、丸浜小学校に通う小学五年生だ。二人とも、五年生になって初めて同じクラスになったのだが、新学期早々同じ班になり、性格の相性が良かったことや、お互い一人っ子同士という共通点があったことなどから、すぐに仲良くなったのだ。

 亘樹は、明るい性格で、クラスでも人気者だ。発想力と暗記力が高いことから学校の勉強もわりとよくできる。その一方で、物忘れが多くて、宿題や持ち物を忘れることもよくある。

 隆太郎は、真面目な性格で、手先が器用だ。学校の勉強でも、納得するまでとことん突き止めようとする研究家気質なのでもある。物知りで、穏やかな性格のため、クラスでも頼りにされることが多い。その一方で、内弁慶なところがあり、明るく誰とでも仲良くなれる隆太郎と友だちになったことは彼にとってはまさに絶好の転機だったとも言える。

それは亘樹にも言えることで、隆太郎のサポートのおかげか、宿題や持ち物を忘れるといったトラブルが減ったのだった。

 そんなふたりは、今、図書室で昨日の野鳥の種類を調べ終え、今度はオオタカの巣を見つける計画を立てていた。

「オオタカは、丸浜地区のどこかに巣を作っているはずなんだよ。」

「まあ、そうだけど、丸浜地区って結構広いぞ。巣を探すったって、どこから探すんだよ。」

「蟹取湾の周りでよく観察できるって、指導員のおじさんも言ってただろ。オオタカは高いところに巣を作るらしいから、蟹取湾を中心に高い木のあるところを探したら、手掛かりが見つかると思うんだ。」

「そうは言ってもなあ。」

オオタカの巣を何としてでも見つけたい亘樹と、やる気の出ない隆太郎は、さっきからずっと同じ会話を繰り返している。なかなか議論がまとまらないのだ。結局ふたりとも押し黙ってしまった。隆太郎はため息をついた。亘樹はオオタカに関することが書かれた本を何やら熱心に読んでいる。その時、亘樹が小さく叫んだ。

「オオタカのオスは巣を中心として約一,五キロから二キロの範囲で行動するって書いてある。」

「へえ。それなら、オオタカの巣の範囲がだいぶ絞れるな。蟹取湾から半径二キロの場所で、高い木のある場所だろ。地図でみてみよう。」

隆太郎が提案したちょうどそのとき、チャイムの音が聞こえた。

「仕方ない。教室に戻ろう。確か三年のときに、B市の地図をもらったよな。家にあるから、帰ったら調べてみよう。」

「ぼくもそうする。」

そんなわけで、ふたりは教室に引き上げることにした。


 放課後、亘樹が家に着いたのは午後4時を少し過ぎた頃だった。小学五年生になってから、水曜の五限授業以外は毎日六限授業だ。帰ったらすぐ、宿題をすますのが一年生からの習慣になっている亘樹だが、習い事がある日は、うちに帰っても宿題する時間がほとんどない。隆太郎は月曜日に学習塾、水曜日に水泳教室、金曜日には音楽教室でピアノを習っている。高学年になってからは、通うのがしんどい時もある。特に、ピアノは家で毎日練習しなければ上達しないのだが、面倒くさがり屋の亘樹はときどきさぼってしまい、母親に叱られる。

「亘樹、ピアノの練習しないの?」

「宿題が多いんだよ。」

「仕方ないわね。しんどいなら、音楽教室やめてもいいのよ。」

母親はいつもそういうが、内心続けて欲しいと思っているに違いないと、最近は感じている亘樹だ。

とはいえピアノを習っている一番のだいご味は何といっても発表会だ。目立ちたがり屋の亘樹は、音楽発表会の舞台に立つのが大好きだ。ステージの光を浴びて、沢山の拍手を受けるのは、とても気持ちいい。もちろん、ピアノのいろんな音の違いを試して、新しいメロディーを弾くのも楽しいから好きだ。

そんなことを考えながら宿題をすますと、学習塾に行く時間がもう迫っていた。学習塾は、自転車で走って十五分くらいのところにあるが、冬は暗くなって危ないからという理由で車で送ってもらっているので、らくちんだ。

「車出すよー。早く乗って。」

玄関で母親の声がする。亘樹は急いで三年生の時にもらったB市の地図帳を探しだすと、カバンに詰め込んだ。

 学習塾に着くと、授業開始時間の五分前だった。この学習塾には、隆太郎も通っている。五年生になって、同じ学習塾に通い始めたことも、二人が接近するきっかけになっていた。


「先生、オオタカってこの辺でみたことある? 」

塾講師の米倉先生はまだ二〇代前半くらいの若い先生だ。年齢も近いので、塾の子どもたちにはお姉さんのように慕われている。その米倉先生は少し首を傾げて、隆太郎の質問に答えた。

「オオタカ?この辺りにいるのかな?見たことないなあ。」

隆太郎はその返事に少しがっかりしたけれど、事情を説明してみることにした。

「僕と亘樹で、オオタカの巣を探してるんだ。今、情報集めをしてるんだ。」

「へえ、そうなの。」

そんな話をしているところに亘樹が入ってきた。

「米倉先生、こんにちは。隆太郎、もう来てたんだ。」

「やあ、亘樹! 今、米倉先生にオオタカ見たことないか聞いてたんだ。」

隆太郎がそう言うと、

「え? 」

と、少し顔をゆがめて亘樹が言った。

「あんまりオオタカの噂ひろめるなよな。先を越されちゃうじゃん。」

「なんだよ。そんなこと気にしてんの? オオタカの巣なんて、僕たち以外に誰が探してるんだよ。それに、知ってる人がいたら教えてもらえるじゃん。」

「まあ、それもそうなんだけど。」

「それより、地図見つかった?」

「もちろん。持ってきたよ。」

「俺も。」

その時、数人の子どもたちが教室に入ってきた。

「さあさあ、みんな揃ったし、授業を始めますよ。」

米倉先生がそう言ったので、結局その日のオオタカの巣探し活動はそこまでで終わった。


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