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ぷりてんだー * I pretended not to notice her. *  作者: 桃川 ゆずり


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【The Star Festival】(悠真)

<設定>

晴夏、悠真とも高校生。

悠真視点で七夕の短いお話です。

 中学の時までは好きだった休日。

 学校にいる時みたいにずっと仮面をかぶっている必要もなくて、1日のほとんどを素の自分でいられる分、気楽だからだ。

 それなのに今ではただ切ない。


 その理由はわかってる。

 あの人に会えないからだ。


 時々、思いついたみたいにかかってくる先輩からの電話を、僕は最近いつも待っている。


 携帯番号を聞かれた時、僕は先輩の番号を聞くのを忘れ今もまだ知らない。

 しかも先輩は発信者番号通知をオフにしてくれているので僕は先輩からの電話がかかってくるのを一方的に待っているだけなのだ。

 

 まあ、毎回聞こうとして何故か邪魔が入り有耶無耶になるという運の悪さもあるんだけどね。


 どうしても会いたくてたまらなくなった時、僕は学校中を探してでも先輩を見つけ出し休日のデートを誘うぐらいしか出来ない。

 誘えば必ず先輩は了承してはくれるけど、最近、先輩からの電話が減ったように思う。


 ねえ、先輩。

 先輩は僕のこと、どう思ってる?


 そんな簡単な事さえ、今の僕には口に出来ない。

 素の自分をさらけだして気兼ねなく振る舞えるようになったはずなのに、まるで僕はその分臆病になったみたいだ。


 先輩を好きだという気持ちが溢れそうなのに、受け入れてもらえないかもしれない恐怖に僕の心はすくむ。


 先輩の本心が知りたい。

 僕の願いはいつもそれだけ。


 先輩が側にいると世界はキラキラと輝いて明るいのに、僕の中に切なさばかりが募る。

 こんな苦しい恋なんて嫌だと放り投げ出したいのに、僕の心はいつだって先輩を求めてしまう。







 先輩に会えない寂しさを埋めるかのように、僕は商店街にあるお気に入りのケーキ屋へと歩いていた時のことだ。

 商店街のアーケードを抜けた先の広い場所に、見上げるほどの大きな笹が備え付けてあった。


「あ、そっか、七夕だもんね。それにしても随分大きいなぁ」


 見上げる笹の下には、簡易テーブルが置いてあって、そこに子供たちが集まっている。

 なんだろうと思って近寄って見れば、短冊とサインペンが置いてあった。

 どうやらこの短冊に好きなことを書いて、笹に結んでいいらしい。


 商店街らしいイベント。

 効果は充分あるらしくて、笹には色とりどりの短冊がついている。

 そのせいか笹は、短冊の重さで少ししなっていた。


 僕は近場にあった緑の短冊を手に取って読むと、そこには大きくつたない字で「イルカとあそべますように」と書いてあった。

 短冊にはちゃんと名前も入っていて、「むねがわ りゅうた」と書いた主がわかるようになっている。

 僕はその隣のピンクの短冊も手に取って読む。


 今度は大人の綺麗な文字で「彼氏が出来ますように」と買ってあった。


 僕は人の秘密を覗き見しているような気分になって、次々と短冊を手に取り、願い事を読む。

 みんなの願いは些細なものから、大きなものまで様々だ。

 そしてそろそろ飽き出した頃、僕は少し手を伸ばした場所に揺れるピンクの短冊に気づいた。


 色々読んで気づいたことだけど、ピンクの短冊は女の子が書いたものが多い。

 やっぱりその辺は女性ならではなのだろう。

 今度はどんな願いごとなのかと思って短冊をひっくり返した時だった。


 僕の視界に見覚えのある文字。

 書かれた文字は、「剣持くんと両想いになれますように」だった。


 願い人は春日あかり。


 僕はそれを読んで噴出してしまう。

 同じケーキ好きとして先輩を通して知り合ってから、色々と情報交換するようになった先輩だったけれど、まさかこんな願い事を書くなんて思わなかったのだ。

 もちろん僕は剣持先輩のことも知っている。

 明るくて元気なやんちゃな感じの楽しい先輩だ。


 そっかあかり先輩は剣持先輩のことが好きだったのか……。


 僕は笑いつつもなにげなく、その横に並んだピンクの短冊を手に取った。


 そこに書かれた願い主の名前に僕の体は硬直してしまう。

 短冊に書かれた名前はあの人のもので、願い事は「悠真君と両想いになれますように」と書かれていた。


 先輩はあかり先輩と一緒にここに来て、短冊を結びつけたのだろう。

 2人とも隣同士に結んだということはお互いの秘密を明かしあったに違いない。


 胸には何ともいえない嬉しさがこみ上げる。

 このことが嘘でも夢でもないことの証として先輩の短冊が欲しかった。


 僕は辺りを確認し、誰も僕を気にしていないことを確認して先輩の短冊を笹から外し、すぐに自分のポケットに突っ込んだ。


 あんなに切なくて寂しかった今日が、信じられないほど幸せな日に変わっている。

 僕は幸せで息苦しさに弾む心臓の鼓動を感じつつ、簡易テーブルで青い短冊を手にして願いごとを書いた。

 そしてそれを先輩の短冊のあった場所に結びつける。


「櫻井先輩と僕が、いつまでも幸せでありますように」


 そう書いた短冊が風になびくのを確認し、僕は先輩の短冊をポケットの中で握りしめてその場を後にした。





 今日は七夕。 

 空が曇っていても、天では彦星と織姫が逢瀬を喜んでいる。


 僕は僕の織姫の家に向かって走り出した……。





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