【占い】(晴夏)
<設定>
占いで恋人が出来ると出た話から誰が好きなのかという話になって……。
晴夏 高3
悠真 高2
「そうそう。思い出したわ。今日の運勢で晴夏さん。素直になって真っ直ぐぶつかったら恋人が出来るって出てたのよ」
「は、はい?」
昼休みの時間。
中庭の一角にある芝生の上で、いつものメンバーの4人。
静さんと、綺芽さんとあかりちゃんとで昼食を摂っている時のことだった。
占いが好きな静さんが突然言い出した言葉に声が裏返ってしまった。
内容が内容なだけに心臓が飛び出てしまうんじゃないかと思うほど驚いたのだけど、みんなのいる前でそんな反応すれば好きな人がいることが知られてしまう。
知られるのが嫌なわけじゃないけれど、少しだけ抵抗があった。
そのせいでずっと話せないままに到っている。
だからすごく驚いていても、表面上はなんとか繕うことが出来たのに、やっぱり動揺は隠し切れないのか、その時持っていたフォークからシュウマイが転げ落ちた。
あ~今日の海老シュウマイは自信作だったのに……。
意地汚いかもしれないけれど、落ちたシュウマイを名残惜しく見てしまう。
「ぶつかるも何も、櫻井に好きなヤツがいなくちゃ話にならないじゃんか」
綺芽さんの言葉にすぐ反応したのがあかりちゃんだった。
「まだまだやな~。いくらボケボケ晴夏でも、当然好きな男くらいおるに決まってるやんか」
「えっ?」
あかりちゃんの言葉に綺芽さんの鋭い視線が私に向けられる。
って言うか、どうして私に好きな人がいるってあかりちゃんは知っているのかが聞きたい。
「櫻井、本当なのか?」
綺芽さんが私に一歩近づいてくる。
「えっと~」
必死に言い訳を考える。
とっさのことに誤魔化すことも出来ない。
こんな時に嘘の1つもつけない自分が恨めしくなる。
「その反応!」
「あの……」
「櫻井、正直に言いなって!」
「えっと……」
「だめよ。綺芽、そんな脅迫めいたことしたら、ますます晴夏さんが言いにくくなるじゃない」
まったく助け船にもなっていない静さんのフォローに、ますます逃げ場がなくなってしまった。
「誰? A組のヤツ?」
「A組? ち、違います!」
「違うのか……。A組の何とかってヤツとは随分と仲が良かっただろう?」
「確かに仲はいいけど、違います」
綺芽さんが言うA組のヤツとは同じ陸上部の部活仲間の佐々木くんのことだと思う。
確かに仲がいい方だとは思うけど、ただの部活仲間としか思えずいいお友達だった。
「D組の背のすんごい高い……んーっと、こう……高坂?」
あかりちゃんが言う高坂君は同じ図書委員で好きな作家が一緒でよく情報交換している子だ。
「高坂君じゃないよ」
「それもちゃうんか……じゃあ他は……」
視線を天井に向けて考え込むあかりちゃんに、私も苦笑してしまう。
女の子はみんな恋バナ好きだよね。
やっぱり友達の好きな人とか気になるって気持ちは私もわかる。
「そう言えば、晴夏さんの好みのタイプとかしらないわね。晴夏さんの好みのタイプってどんな方なの?」
「え? こ、好みのタイプ? ええっと、んー。男らしくて元気をくれる人……かな?」
困ったような表情で小首をかしげる静さんに、つい正直に答えてしまった。
「男らしい……?」
私の言葉に考え込んだあかりちゃんを見て、静さんがにっこりと微笑む。
「E組の高橋か?」
「いや、B組の板橋とちゃうか?」
「あら、そう言えば晴夏さんってうちのクラスの三木くんとも仲良かったですわよね?」
「その3人は1年時の同じクラスだったってだけだよ……」
事態は益々混乱を極めてしまったらしく、このままでは言い当てるまで事態は収まりそうもない。
どうしたらいいか混乱している私をよそに3人の会話は続く。
「他に晴夏と仲の良かったヤツなんていたか? 晴夏の交流関係はそんなに広くなかったよね?」
「あ! わかった!」
綺芽さんの言葉を聞いてあかりちゃんが手のひらをぽんと叩いた。
「ほら、まだ1人、残っているやんか!」
「あかりちゃん!」
あわててあかりちゃんの口を塞いだものの、全然遅かった。
「……まあ! そう言えばもう一人いたわね」
「何? 誰?」
一人わかっていない綺芽さんの視線が静さんとあかりちゃんの間を行ったり来たりする。
置いてきぼりになっている綺芽さんをそのままに、嬉しそうなあかりちゃんの笑顔が私に向けられた。
ああ、これでみんなに私の好きな人がわかってしまった。
絶対に隠し通したいわけじゃないけど、やっぱり恥ずかしい。
なんともいえない気分であかりちゃんを見つめる。
「早川先生やね!」
覚悟して聞いていた分、いきなり先生の名前が出て、拍子抜けしてしまったせいで頭に血が昇った。
「違います! 大体どうしていきなり先生になるの? 他にもいるじゃない」
「他ってどこにですの?」
「松浦くんがっ!」
うっかり名前を出してしまった自分に気づいたものの、もう出てしまった言葉は取り消せない。
乗せられたのだと3人の表情を見てすぐに気づいた。
「なるほどね……」
ニヤっと笑う綺芽さんに、泣きたい気持ちになる。
「松浦君って、あの天使のスマイルで有名な2年の子でしょう? 男らしいって陸上部に所属しているからなの?」
「……違う。見た目は可愛いけど、外見とは違ってすごく男らしい性格なの」
もう自分で白状してしまったのだ。
他に何を答えてもいまさらだろう。
そう思った私は、やけっぱちになって静さんの言葉にも答えた。
「だってさ。松浦、アンタはどうなの?」
「へ?」
「あら、今日の運勢で晴夏さんは彼氏が出来るのよ? 当然OKに決まっているじゃない。ねえ、松浦君?」
綺芽さんと静さんの視線は私を通り越して後ろを見ている。
ちなみに今座っているところは、中庭の一角。
図書室の前だ。
図書室と言っても、ずっと後ろの本棚しかない所の前なので、ちょっとぐらい騒いでも本を読んでいる人には迷惑がかからない場所だった。
私はその窓の前に座っている。
おそるおそる振り向いて見れば、風通し良くする為に半分ほど開けられた窓の前に、手に本を持った松浦君が困ったように立っていた。
私と視線が合った松浦君は頬を赤らめている。
「あ、松浦くん……」
「……はい。これから、どうぞよろしくお願いいたします。櫻井先輩」
そう言って一度頭を下げると、身を翻し私の視界から消えた。
「え? え? ……えっと。……どういうこと?」
混乱した思考で現状が理解出来ない。
そんな私を3人が笑う。
「良かったじゃんか」
「ふふ、占いが当ったわね」
「やったやんか!」
3人の言葉で、私の気持ちが松浦君に受け入れられたのだとわかった。
だけど、なんか納得出来ない。
だって、私の想像していた告白とは全然違う。
私の方からしてしまった形の告白。
しかも全然ロマンチックじゃない。
さらに、ちゃんとした告白ですらない。
「うそ……。やだ! 信じられない。みんな知っててでしょ!」
こんなの占いの内容とは全然違う。
私は嵌められただけだ。
こんな事態を引き起こした3人に、私は恨みがましく睨みつけて宣言した。
みんなの好きな人がわかり次第、報復してみせると……。
今日の運勢『素直になって真っ直ぐぶつかったら恋人が出来るでしょう』




