第5章 歓喜のビール掛け その8
主な登場人物(カッコ内は登場人物のエピソードを紹介している部分)
小林龍也・・北江ジャガーズファン。(第1章その1、その2、その7、その8)
滝沢忠・・・北江ジャガーズのエース(第1章その5、その6)
土井勘太郎・北江ジャガーズ監督(第1章その4、その9、その10)
田中香織・・毎朝スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)
秋山めぐみ・独占スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)
畠山正・・・第7戦の主審(第1章その2)
ゲームセット。3対2でジャガーズ勝利
*お断り*
この小説は2008年に行なわれた日本シリーズ第7戦、埼玉西武ライオンズ対読売ジャイアンツをベースにしています。モデルになっている選手の経歴や試合進行はかなり忠実に再現していますが、選手の性格及び言動、また登場する審判、記者、ファン等は全てフィクションです。その旨ご了承いただきますようお願いします。
香織とめぐみが土井に取材をしていると、前から滝沢が3人のほうへ走ってやってきた。
「あれ、監督。何しているんですか?めぐみさん、早くしないとオレたち行っちゃいますよ」と滝沢が土井とめぐみの二人に交互に話しかけた。
「え、何、めぐみまた抜け駆け?」と香織がビックリした顔でめぐみを見つめた。
「あ、別にそういうわけじゃあないけど、香織さんも行きます?ね、滝沢君、良いよね?」
「ええ、別に構わないと思いますけど・・」
「良いわよ、別に。どうせ、私はオマケになっちゃうし」と香織はちょっと膨れっ面を見せた。
「え〜、香織さん、そんなつもりじゃあなかったのよ」。めぐみが何とか取り繕うとしていると、滝沢が気まずい顔をしながら、こういった。
「あの、良かったら二人ともぜひ来てください」
「ありがとう。気を遣ってくれて。でも、私はいいわ。めぐみ行ってらっしゃいよ。実は、私、一度会社へ帰らなきゃいけないのよ。そうそう、滝沢君。今も話していたんだけど、6回に五十嵐さんから三振に奪ったボールは凄かったって審判の畠山さんが絶賛していたわよ」と香織が滝沢に向かっていった。
「え、本当ッスか?スッゲー嬉しいッス。あのボールは自分でももしかしたらプロ入りしてから最高の投球ができたと思っていたんで、審判の方にそう言ってもらえたなら、本当に光栄です」と滝沢は香織の言葉に思わず顔をほころばせた。
「まあ、みんな、仲良くしてくれよな。それと滝沢、飲みすぎんなよ」。このやりとりをずっと聞いていた土井が高笑いしながら立ち去っていった。
「監督、お疲れ様でした。本当におめでとうございます」。立ち去る土井の背中にむけて香織が大きな声で言った。その背中に滝沢は深々とおじぎをしていた。
「二人、どうします?オレ、そろそろ行かないと・・」。滝沢が時計を気にしながら、二人に声をかけた。
「めぐみ、行きたいんでしょ。私は気にしないでいいから行っておいでよ」。香織がめぐみと滝沢の背中を押しながら言った。
「え〜、でも・・」。香織に遠慮してめぐみは躊躇していた。
「いいから。行きなさいよ」
「わかりました。すみません。香織さん、今度お返ししますね」
「期待しないで待ってるわ。じゃあ、滝沢君、めぐみをよろしくね。他の選手のみんなにもよろしく言っておいて」
「わかりました。じゃあお疲れさまでした」。そういうと滝沢とめぐみは通用門のほうへ向かって歩き出した。
二人の背中を見送りながら、姿が見えなくなると香織は携帯を取り出した。
「あ、デスクですか?田中です。一面の見だし差し替え間に合います?できたらコレ使って欲しいんですけど・・。『ジャガーズ日本一 ザ・ゲームを制す』。原稿も今から書き直します」
*終わり*
小説「ザ・ゲーム」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。もし、お一人でも全45話をお読みなられた方がいられましたら、どんな内容でも構わないので、ぜひご感想を伺わせてください。よろしくお願いします。長期にわたりご覧いただきましてありがとうございました。