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第5章 歓喜のビール掛け その6

主な登場人物(カッコ内は登場人物のエピソードを紹介している部分)

小林龍也・・北江ジャガーズファン。(第1章その1、その2、その7、その8)

滝沢忠・・・北江ジャガーズのエース(第1章その5、その6)

土井勘太郎・北江ジャガーズ監督(第1章その4、その9、その10)

田中香織・・毎朝スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)

秋山めぐみ・独占スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)

畠山正・・・第7戦の主審(第1章その2)

ゲームセット。3対2でジャガーズ勝利


*お断り*

この小説は2008年に行なわれた日本シリーズ第7戦、埼玉西武ライオンズ対読売ジャイアンツをベースにしています。モデルになっている選手の経歴や試合進行はかなり忠実に再現していますが、選手の性格及び言動、また登場する審判、記者、ファン等は全てフィクションです。その旨ご了承いただきますようお願いします。

「キャー、冷たい〜」

 歓喜のビール掛けはすでに始まっていた。香織もめぐみも当然記者として取材していた。一応カッパを着用して取材しているものの、そんなのは選手には関係ない。

 最近は選手も顔見知りの記者に対しては容赦なくビールをかけてくる。

 特に香織やめぐみのような女性記者は格好のターゲットだ。ある意味選手以上にビールを浴びることになる。


「滝沢君、滝沢君」。香織が滝沢をみつけ、話を聞こうとすると、滝沢が香織のカッパの中にビールを注ぎ始めた。

「やめてー」と必死に抵抗しても相手は20センチ近く身長が高い。どうにもならない。

「優勝の味は?」

 それでも必死に何かを聞こうとするが、正直選手のほうも何も考えられる状態ではない。

「最高、もう、最高」

 ほとんどの選手からはそんな答えしか戻ってこない。いや、大体記者のほうもこんな状況で冷静な取材ができるわけがなかった。

 ただ、この喜び方を一緒に体感することで、記事の行間に喜びの表情を伝えることができるようになるので、参加しているようなものだ。


 ようやくビールかけから解放された香織が記者席に戻ろうとしたとき、主審を務めた畠山とすれ違った。

「お疲れ様です」。香織が挨拶すると、通り過ぎようとした畠山が香織を呼び止めた。

「田中さん、今日試してみたけど、難しかったですね」

「え、何をですか?」

「ほら、先日、田中さんに指摘されたこと・・」

「え?ホームアドバンテージのことですか?」

「ええ、今日は主審だからストライク、ボールの判定でしたが・・」

「え?今日の試合、ホームアドバンテージしていたんですか?」

「いや、実際には対象になったのは2〜3球です。でも、あのボールだけは自分の意思とは違う判定をしていましたよ」

「どのボールですか?」

「6回ですか、ジャガーズの滝沢投手の五十嵐選手への内角の直球。ボールでも良かったんですが、思わずストライクと言っていました。何のクレームもつけなかった五十嵐選手も素晴らしいと思いますが、あの滝沢選手の投球は本当に素晴らしかった」

「そうだったんですか。みていて全然気がつきませんでした。でも、今日の試合で試すのは勇気がいりましたでしょう」

「ええ。でもこれで来年への課題ができました。来年までに他の審判にも相談してどうするか対応を考えたいと思います。そのためにも一度自分で体験しておきたかった。ただ、私の感想としては、やはり予断なく公平にジャッジすることが一番大切だと思っています」

「ありがとうございます。あれは私の私見です。それをこんな大事な試合で試してもらって、それだけで嬉しいです。本当にありがとうございます。今日はナイスジャッジでしたよ。本当にそう思います。お疲れ様でした」。香織はそう言って深々と頭をさげた。

「お疲れ様でした。風邪ひかないようにしてください」。畠山も軽く会釈をしながら立ち去っていった。


 滝沢や土井がびしょぬれになっていたのとほぼ同時刻、もう一人びしょぬれになっていた男がいた。龍也だ。龍也は美佐子を先に帰し、一人で球場近くのジャガーズファンの集まる居酒屋でファン同士でビール掛けをしていたのだ。

 元ジャガーズの選手だったオーナーが経営しているこの店ではジャガーズが優勝したときには、お店でビール掛をすることを了承していた。

 ただし、翌日はビール掛けに参加した人間全員でお店の清掃を行なうという条件つきでやっていた。今年はこれで3回目だ。

 実は美佐子も最初のリーグ優勝のときは参加したのだが、あまりの冷たさと目の痛さ、それに髪がバサバサになることを嫌がって、今日は家に帰ることにしていた。

 

 龍也は満足していた。ジャガーズが日本一になってくれたことが何より嬉しいのだが、今日の試合が最高の試合だったこと。

 野球というスポーツの醍醐味を存分にあじ合わせてもらったこと。ジャガーズの鬼気迫る投手リレー、そしてあの8回のスピード感あふれる攻撃。

 強力打線を見事に抑えきった投手力。最高の野球を大好きなジャガーズがしてくれたことに龍也は今まで以上に興奮し満足していた。


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