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第1章 試合前 その2

主な登場人物(カッコ内は登場人物のエピソードを紹介している部分)

小林龍也・・北江ジャガーズファン。(第1章その1、その2、その7、その8)

滝沢忠・・・北江ジャガーズのエース(第1章その5、その6)

土井勘太郎・北江ジャガーズ監督(第1章その4、その9、その10)

田中香織・・毎朝スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)

秋山めぐみ・独占スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)

畠山正・・・第7戦の主審(第1章その2)


*お断り*

この小説は2008年に行なわれた日本シリーズ第7戦、埼玉西武ライオンズ対読売ジャイアンツをベースにしています。モデルになっている選手の経歴や試合進行はかなり忠実に再現していますが、選手の性格及び言動、また登場する審判、記者、ファン等は全てフィクションです。その旨ご了承いただきますようお願いします。


龍也が美佐子を急き立てて見に行こうとしていたのは、北江ジャガーズ対東京シティーズで争われていたプロ野球日本シリーズの第7戦だった。

 昔から日本のプロ野球を代表するチームとして、日本シリーズでも幾多の名勝負を繰り広げていた両チーム。5年ぶりとなった今回のシリーズもまさに盟主の座をかけた熱戦が続いていた。

 2勝2敗で迎えた第5戦、ジャガーズのエース滝沢を攻略し逆転勝利を飾り、先に王手をかけたのは東京シティーズだった。

だが、後がなくなったジャガーズも黙っては引き下がらなかった。第6戦では第4戦で完投勝利を飾った和泉が見事なロングリリーフをみせ、これまた逆転勝利で3勝3敗とし逆王手をかけていた。

その和泉の快刀乱麻の投球には龍也ならずとも多くのジャガーズファンが興奮の一夜を過ごしたに違いない。

そうして迎えた第7戦だった。この試合は球史残る一戦となりそうな予感を多くのファンが胸にいだき、試合が始まるのを今や遅しと待っていた。

 

「あなた〜、そろそろ起きたほうがいいんじゃない?」

妻の幸子に声をかけられて、畠山正はゆっくりとベッドから起き上がった。ベッドの上においてある時計を見ると、午後1時を回っていた。

「もうそんな時間か。よし、起きるか」

そう言って、ベッドから立ち上がり大きく背伸びをした。畠山はナイターの球審を努めるときは、必ず二度寝をすることにしていた。

朝7時に一度起きて自宅の周囲を1時間ほど散歩して朝食をとったあと、もう一度寝るようにしていた。ナイターの球審を務めるためには、あまり朝早くから起きていては、最後まで集中力がもたないからだ。

これは人によって違うらしいが、畠山自身は自分の集中力を一定レベルに維持するには、こうしたリズムが必要だと思っていたので、数年前からこうした生活をするようになっていた。

 畠山は今年で15年目を迎える中堅どころの審判だ。高校時代は甲子園でも活躍し、強肩強打の外野手として将来を有望された選手で、ドラフト指名され一度はプロ入りしたこともあった。

しかし、3年目に一度一軍にあがったものの、活躍することなくすぐにファームへ落とされ、その後は相次ぐケガもあり、わずか5年で引退していた。だが、野球への思いは断ち切れず、その後審判の道を選択していた。


日本シリーズでの審判をするのは今回が3回目だ。5年前にはじめて塁審として1試合を任された。2年前のシリーズではじめて主審を担当した。あの日の緊張のしかたは今から思うと笑えるほどひどかった。

朝食のお茶漬けを食べようとして、急須ではなくお茶碗に直接お湯を注いでしまい、幸子に笑われたことを思い出す。また、二度寝をしたくとも全く寝付けなかった。

それから比べれば、今回は余裕があった。いや、正確にいうと第3戦で主審をした日までは余裕があった。

正確かつ公平なジャッジ。それが畠山の信条だ。プロ野球まで経験した自分だからこそ理解できる審判に求められる正確性。一番大事なものはそこだと確信していた。

だが、第3戦のひとつの判定をめぐり、ある女性記者からいわれた一言が畠山の頭から離れなかった。

1勝1敗で迎えた第3戦、シティーズ1点リードで迎えた2回表シティーズの攻撃。二死二塁の場面で打者は9番の菊池。

ジャガーズの投手はベテラン土田だが、立ち上がりから制球に苦しんでいた。この回をここで打ち取れるかどうかが、試合自体も土田にとっても大きな分かれ目となりそうな展開だった。

そしてカウント2−2からの6球目。内角への直球だった。打者の菊池はピクリともしない。手が出なかったのだ。マウンドから下りかける土田。

「ボール」

畠山はボールがおじぎした分だけ低いと判断した。だが、審判によってはストライクと判定するかもしれないボールだったのは間違いなかった。

結局、土田は2−3からはっきりわかるボールを投じて菊池を歩かせてしまう。二死一・二塁となった場面で1番安藤に痛恨の3ラン本塁打を浴びる。

この3点が大きくモノをいい、この試合はシティーズが勝ち2勝1敗と勝ち越した。



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