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毒霧作戦

皆さまあけましておめでとうございます。今年も一年、完結目指して頑張ります


久々の執筆なのでちょっと短めです

バスドム山


クルジド国飛竜連隊屯所


屯所の一室、クルジド国軍を率いる戦争卿のヴォルガン卿とディンギィルの二人が机の上のブランデーを舐めながら思考を巡らせていた


(この戦争に勝つには、空、空を何としても取らねば、どうやって獲るか……)

さらにブランデーを流し込む、アイデアを得るにはアルコールを摂る、それがヴォルガンの信条である


ヴォルガンの目の前には自軍の航空戦力である飛竜と最近開発された防空気球や観測気球のイラストがある。気球内を炎の魔石で温め、空に浮かび上がらせる障害物だ

かつて、大日本皇国が一次大戦装備が主流だった時代、防空装備として活用していたのを真似したのだ


対する大日本皇国やリラビア魔法国の航空戦力のイラストもある。皇国のジェット戦闘機やヘリコプター、リラビア魔法国の空挺兵などがそれである


「いかにして敵の航空機を無力化するか…それがわからぬ……」

航空機のイラストを眺めながらさらに酒をあおる。喉を焼く酒精も慣れてきた頃合いだ


「……敵の戦闘機、これの火を消せれば、動きは止まるのか…?」

皇国のジェット戦闘機の後部、飛竜が魔法を推進力にするようにこの推進力を消すことさえできれば


「火を消す、か……」

非常に居心地の悪そうなディンギィルがやけ酒のようにブランデーを煽る、ヴォルガンの言葉を借りれば、まともな軍師がディンギィルしか居ないとの事でここに呼ばれていたのだ


確かに陣地構築などに助言をしたりもした、他の軍団を率いる将軍やアラヒュト教の神殿騎士達はこの戦いについて来れそうにないが、それでも俺じゃなくてもいいのでは……


開き直ったディンギィルは瓶を開ける勢いで酒を煽る、その直後、喉の変な所に酒が入って盛大に咽せた


「し、失礼を…ゲホッ!」


「ハッハッハッ、よいよい。この酒もいずれ飲めなくなるのだ、飛竜でさえも喉に餌を詰まらせる事だって…ふむ」

途中、笑顔を曇らせ、ディンギィルはジッと戦闘機のイラストを眺める


「その戦闘機、でしたか。それの餌が肉や魚ではないと思われますが」


「思ったのだが、この戦闘機も喉を詰まらせる可能性はないか?」


「はい?」


「コレを、この魚のエラのようなこの部位を見よ」

ヴォルガンが指差したのは戦闘機の吸気口、エアインテークと呼ばれる部分である


「例えば、ここが人で言う呼吸をする口だとして、ここに金属片や砂を詰め込んだら、どうなると思う?ドラゴンの口内のように唯一外部に向けて開かれている部位であるし、原理はよくわからないが、設計上必要なのであろう」


「ほぉ…面白そうですな、確証が無いのが口惜しいですが、いかにして確証を得ましょうか?」


「なぁに、敵の戦闘機とやらはいくらでも飛んでおる、やりようはあるさ」

ヴォルガンのヤバい人の笑みを見て、ディンギィルは改めてこの部屋に招かれたことを後悔した















大日本皇国空軍

第二偵察飛行小隊

ミニマム2-1

イスカンダル中尉


「レッドバックエアベース、こちらミニマム2-1、定時偵察報告、空域に特に異常なし、防空気球の数が増えているだけだ」


《了解した、引き続き警戒にあたれ》


「ミニマム2-1、了解」

イスカンダル中尉が乗ってる機体はF16、右翼のウェポンベイに観測用の光学機器やレーダーを登載した特別仕様の偵察機である


大日本皇国空軍の主力機体は様々な実験部隊の戦果を考慮した結果、格闘戦に優れたジェット戦闘機が採用される形になった


レシプロ機では戦力として不十分な箇所もあり、かといって最新鋭のステルス機などでは交戦相手がレーダーなどを持たないクルジド国であることを想定すると無用な長物であり、大器のポイント効率も考慮し、なおかつ敵の主流の航空戦力が飛竜という生物である事を想定すると小回りや格闘戦に優れたF16シリーズの戦闘機の戦果が高く、コレらが正式採用に至ったのだ


しかし、それでも一部ではステルス機の技術を研究したりするために運用している部隊もあるが、それはまた別の話である


イスカンダル中尉のHUDやコックピットに増設されたレーダー探知機の表示画面を退屈そうに調節する


「ジェット戦闘機相手に防空気球が役に立つわけ無いだろう、野蛮人どもめ……」

レーダーの調整を終え、辺りを見渡す。飛竜の奇襲は今のところ無さそうだ


「未だに槍やマスケット銃を扱うような奴らが、俺らに勝てるわけ無いのに、クルジドの上層部はクソだな、人の命を何だと思ってやがる」

そんなことを呟きながらイスカンダル中尉は予定通り折り返し地点に辿り着き、機首を切り替えす


「こちらミニマム2-1、折り返し地点に到達、これより帰投する」


《了解した、無事な帰投を》


「了解した」

連絡を終えた直後、イスカンダル中尉の視界に小さな黒点が目に入った


「アレは……?」

HUDの望遠機能を調整すると見えたのは二匹のドラゴン、その背中には迷彩柄に塗り分けられた革鎧をつけたクルジド兵がおり、背中に背負った袋から何か粉のようなものを掴んで空にばら撒いてる


「おっと、敵兵か、挨拶してやるか。レッドバックエアベース、帰投進路上に敵の竜騎兵を確認した、粉状の何かを空中に遺棄している様だ、オーバー」


《了解、状…を記録……ガガッ離脱しろ。ザッ戦闘は禁止だ》


「無線の感度が悪い、もう一度繰り返せ」


《交戦は、禁止ザザッ、に帰投せよ》


「了解した」

土台戦う気はない。だが避けてやる気もない、スペック的にも戦力的にも劣る相手に怯えては戦闘機乗りの名折れだと、イスカンダル中尉は感じていた


敵は粉を撒き終わったのか、剣を引き抜き、高々と掲げた


「へっ、やろうってのかぁ」

機関砲のトリガーの安全装置に指を置き、酸素マスクの下で唾を飲む


HUDを有視界モードに切り替える。イスカンダル中尉を始めとした中堅、古参兵達はハイテク機器に頼りつつも、小回りや魔法という既存に囚われない戦い方をする竜騎兵を相手に一番信頼するのは自分の視界だと言う事を一番理解していた


距離がどんどん縮まっていく。さながら暴走族のチキンレースだ


「フッ!」

衝突まで後数秒、その直後、イスカンダル中尉は機体を180°回転、背面飛行の体制になり、すんでのところで衝突をかわした


敵の飛竜は生き物、ジェット戦闘機の発する衝撃波は強力で、あのドラゴンがどれだけ耐えられるか不明だ


「発砲は無し、完璧な仕事だろう?」

再び機体を180°ターン。元の正常位に戻り、そのまま帰投コースに乗った


「しかし、まかれた粉は何だったんだ、ぐぉ!?」

直後、機体が揺れ、ペダルと操縦桿が尋常じゃないほど揺れ始めた


機体のインジケーターを操作する。エアインテークとエンジンに異常を示す表記が出ていた


「クソッ!なんだこりゃ!?レッドバックエアベース!こちらミニマム2-1!エンジン系統に異常発生!エアインテークから煙が出ている!ちくしょうめ!」


《ミニマム、直ちに脱出せよ、味方圏内だ!早く!》


「くそったれぇ!」

ベイルアウトのバーを引き抜き、腕を肩に当てる

爆発ボルトが吹き飛んでコックピットのガラスを上に吹き飛ばす。そしてすぐさま座席が射出された


「あぁ、最悪だ……」

愛機は山肌に墜落し、地面の土を巻き上げながら止まった

痛々しい姿の愛機を見て、やるせない気持ちが湧いてくると共に自身の驕りがこの結果を招いたのだと悔しくなった


















「本当に、やったのか……」

竜騎士のアリスは信じられないという顔でそう呟いた


彼女の手には中身の無くなった袋がある。中身は武具の研磨の際に出てきた金属粉が詰め込まれていた

エアインテークは外気を取り入れ、機体内部の冷却やエンジンの燃焼などに必要な酸素を取り込む機能として付けられている

そんな重要機能に直結するパーツだが、当然のように異物混入を防ぐためのフィルターは存在する


だがアリスが空中にばら撒いたのはだだの金属粉ではなかった、魔法銀(ミスリル)の粉末である


この世界に置いてミスリルはありふれた存在の金属だ。よく採掘され、魔法との親和性も高く、錆に強い。研磨されたその輝きは美しく、装飾品や武具に昔から重宝され、青銅よりも先にこの世界では古来から用いられてきた

更に特徴としてはその加工のしやすさが挙げられる、剣を打つ時の温度が約800度と言われてる中で、ミスリルは約600度の温度で加工が可能なのだ

戦闘機のエンジン内温度は約1800度前後と言われてる。エアインテークから吸入された大量のミスリルの金属粉がエンジン内部でどの様な効果をもたらすのかは想像するに容易い


オマケにミスリルは魔法との親和性が高い金属だ。この世界の魔法は人間から発せられる生体電気が元となっている。つまり電気を通しやすいのだ

その微細な金属粉が様々な回路や基盤に付着したら当然電気の通う基盤はショートするし、無線信号は阻害される、副次効果もあるのだ

そういった粉塵を誤吸入しないようにフィルターなどの防御策も戦闘機側にされてはいるものの、防御には限界がある、何より精密機器の塊である戦闘機が微細な電子を纏いやすいミスリルの粉末を全面に浴びたらおかしな不調が出て当然でもある


「よぉし、ラーズリー、基地まで頑張ってね」

不調を訴える愛騎の首を撫で、アリスは拳を握りしめる


勝てないと思っていた敵の戦闘機を落としたのだ。こんなどこにでもありふれ、腐るほどある金属粉で勝ったのだ、これほど胸をすくことはないだろう


反撃の狼煙が挙げられた、リラビアと皇国にとって、最悪の狼煙が

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