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第1中継点 攻勢開始

「今だ!」

サウザー軍曹の合図と共に投光器二台が点灯。暗黒に包まれていた洞窟内が目が絡む程のまばゆい光で溢れた


光に照らされた敵の姿は蜘蛛だった。全身にびっしりと毛を生やし。脚や胴体に白い縞模様が目立つ、真っ赤な複眼が輝いているのは投光器の光か、それとも共食い以外の肉が食えることへの喜びか、怪しくギラギラと光っていた

だがこの巨大蜘蛛が強烈な光に弱いのは報告を聞いている。ならば目くらまし兼こちらの視界確保に強力な明かりは必要だ


「撃てぇ!」

サウザー軍曹の号令に合わせて備え付けたマキシム機関銃二門が火を噴いた

生身の兵が抱えるのではなく、地面に固定して射手と装填手の二人掛かりで扱うこの武器は携帯性を犠牲にし、代わりに安定した連射性能と破格の威力を敵に投射することを可能としている

風切り音と共に銃弾が飛翔し、蜘蛛の胴体にめり込み、緑色の血飛沫を飛び散らせた


巨大蜘蛛の先頭は予期せぬ人間の反撃に浮き足立つも、後方から押し寄せる同族の圧が後退や立ち止まる事を許さず、結果として弾幕に絡め取られその命を散らしていった


「壁を伝ってる!」

兵の誰かが叫んだ。個人の懐中電灯が天井に向けられるとそこには壁に張り付きこちらへ忍び寄る蜘蛛の群れがいた


「叩き落とせ!一匹も通すな!」

その号令と共に後詰の兵がライフルを構え、天井に張り付いた蜘蛛に向けて掃射が浴びせられる

銃の発砲音が狭い洞窟内に反響し、耳がおかしくなりそうだが背に腹は変えられなかった


MP18とモーゼル小銃の一斉斉射が天井に張り付いた蜘蛛の背中や腹に突き刺さり、糸が切れた人形のようにボトボトと地下通路に落下し、機関銃掃射の餌食になる


「まだまだ来るぞ!閣下!追加の機銃と弾薬を!」


「わかった!」

大器はそこらじゅうで響く強烈な銃声で頭がおかしくなりそうながら設備作成画面の備品ゾーンから新たな機関銃と弾薬を購入し、次の第2陣地の土嚢の上に設置する

購入が確定すると半透明だったM2重機関銃が淡く光り、やがて実態の伴った殺人兵器として出現した


「設置したぞ!」


「よぉし!投擲隊!投げろぉ!」

サウザー軍曹の怒鳴り声と共に兵がグレネードを取り出し投げた。投げたグレネードは津波のように押し寄せる蜘蛛の中に飲み込まれ、直後に爆発した

十数本のグレネードの一斉爆発。土嚢に伏せていたとはいえその衝撃や爆風は大器の脳みそを震わせ、意識が飛びかけた

何故か出てきた涙を拭うこともせず土嚢から顔を上げると第1陣地の兵士達が決死の表情で飛び込んできた


「機関銃につけ!閣下!報告します、犠牲者無し!軽傷2名、以上です!閣下は次の防衛陣地の準備を!」

顔を泥まみれにしたサウザー軍曹がそう報告し、MP18に新しい弾倉をとりつけた


「くそっ……クソッ!」

短期間で濃密な戦闘を目の当たりにしすぎて自分の中で何かがおかしくなってしまったのか、大器は何故か涙が止まらなかった


耳が張り裂けそうな重機関銃の射撃音、兵士達の怒号、銃に弾倉やクリップを装填する金属音、それら全てに押されるように大器は歩き出した。真っ直ぐに歩けない


「閣下、つかまってください」


「うぐっ、あ、ありがとう……」

手を貸してくれた兵士を見て大器は驚いた


「ミリア少佐!なんでここに!?後方で陣地を展開していたのでは!?」


「ご安心ください。信頼できるものに任せてあります。それに増援は不要との命令ですが私は伝令としてここにきました!」

少佐が伝令なんて、会社の重役が使い走りをするようなものだ。ようは屁理屈だ


「閣下、サウザー軍曹の機関銃を撃てるだけ撃って、爆発と共に後退というのは僭越ながら最適解ではないと愚考します」


「では、どうする気だ?俺は、何を、すれば……」

縋り付くように、大器はミリア少佐に聞いた


「閣下は、後方に下がり、一旦水を飲んで一息ついてください、私が後は片付けます」

ミリア少佐の咲く花よのうな明るい笑顔はまさに地獄に咲く花というにふさわしかった



















「後退!」

M2重機関銃が用意されていた300発の弾丸を撃ち尽くし、兵士達が手榴弾を投げた


爆発が連鎖的に起こり、その隙に兵士達は一目散に次の陣地に駆け出す


「軍曹!このままでは!まずいのでは!?」


「俺たちみんな死んじまいますよ!」


「馬鹿野郎!泣き言言ってねぇで走れ!」

転んだ兵士が立ち上がるのを手伝い、突出してきた蜘蛛にMP18の残りの残弾を叩き込む


(俺は、間違ったのか……)

謎の勢力に奇襲され、そこから命からがら逃げ延び、暗く冷たいトンネルの中で不気味なんてものじゃすまない恐ろしい巨大蜘蛛の群れに襲われる。アドレナリンが切れつつある今、冷静に作戦を見直すとマトモな人が遂行できる作戦では無かった


「チクショォォォオオオオオオ!!!」

弾が無くなったMP18を投げ捨て駆け出した

そんなサウザーとすれ違うように何名かの兵士がサウザーと逆方向に向かっていった


「おい!何をしている!?」

サウザーが前線に戻る呼び止めようとした瞬間、彼らの装備を見て動きが止まった


「火炎放射器ッ!?こんな狭い閉所で!?」

全身雨合羽のような特殊素材の耐火防護服に酸素ボンベと圧搾ガスと燃料が詰められたタンクが三本に束ねられた巨大なタンク、呼吸用の酸素ボンベに繋がったホース状の呼吸器、通路の暗闇と相まって機械的な禍々しさを更に醸し出していた


「下がれ!」

一言、火炎放射器を背負った兵士がそう叫び、ノズルの先から燃料が噴射された


「ッ!!」

サウザーが後方へ駆け出すと同時に霧状に噴射されたナフサや燃焼材にノズルの先端に取り付けられたライターから小さな火が灯される

火は瞬く間に噴射された燃料材に燃え移り、霧は次の瞬間には全てを焼き尽くす火炎となって巨大蜘蛛に襲い掛かった


大器達は知る由も無いが、この巨大な蜘蛛は身体の表面を特殊な油膜で覆っており、その油膜もあいまり、炎は簡単に、素早く燃え移った

炎の熱さに悶え苦しみ、脚をバタバタさせながら地面を転げ回る巨大蜘蛛

後ろに控えていた蜘蛛の軍勢も燃え盛る炎に恐れをなし、向きを変えて脱兎のごとく逃げていった


「こちらファイヤーアロー、敵前衛壊滅、逃げ出した残りを追撃しますか?」


《ファイヤーアロー、こちらオーバーロード、追撃は却下だ。しばらく様子を見る》


「了解しました、このまま警戒にあたる」


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