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クルジド国情勢は複雑怪奇

クルジド国 聖都 ハーファル

リラビア魔法国 大使館


ムルテウ大陸での一件により両国での連絡用に設置された大使館、リラビア魔法国にはクルジド国の大使館が、クルジド国には大日本皇国とリラビア魔法国の大使館が設置された


ちなみに最初は大日本皇国にもクルジド国大使館が設置される予定だったが、海の向こうということもあり、建材の搬入から建設まで自国で行わなくてはならないので、クルジドの技術力での建設は未だ進んでいないのが現状である


そのような事情もあり、現状大日本皇国に大使館は存在しない、ゆくゆくは、という形に収まっている


そしてクルジド国に存在する大使館、リラビア魔法国と大日本皇国の大使館は住宅地を挟んで600m程離れている


リラビア魔法国の大使館は昔のクルジド国の貴族の館を改修した二階建ての建物であり、豪奢で手入れされた庭に屋外運動場、貴族の邸宅らしく気品と豪勢さがある建物である

車止めに停められた黒塗りのプレジデンシャルリムジンからローズ大佐が降りた


「ローズ大佐、お待ちしてました」

客室メイドがローズ大佐を出迎え、頭を下げる


「お出迎えありがとうございます、ハリス大使は?」


「執務室でお待ちです、どうぞ」

メイドに案内されながら大使館に足を踏み入れる

豪奢な絨毯を踏みながら二階の執務室にたどり着く


メイドのノックと共に、部屋に入る


「ようこそローズ大佐、お待ちしてました」

デスクの前に置かれた談話用のソファに腰掛けたハリス大使は笑顔で反対のソファを勧めてくれた


「どうも」

前は肩まで伸びてた金髪だが、ここ最近は忙しく散髪に時間がさけず、腰まで伸びた金髪をポニーテールのように纏めてある

故に座るのに少し気を使う、肩口から掛けるように髪を流し、対面に座った


「朝からご足労、痛み入ります」


「いえ、事は一刻を争う重大事件です、本題に入りましょう」

そういうとハリス大使は話し始めた


「そちらの大使館にもきたと思いますが、今回のテロ事件の返答、もうご覧になりました?」


「今回の事件でリラビア魔法国に大使館を置くのは危険である為、マスドットリオに新しく大使館を設置し賠償などは改めて議論したい、と」


「我が国にも同じ内容が届いてます、ですがこれがクルジドの自作自演である以上、払う必要のない損益です、ここで譲歩して前例を作られては大勢の血が流れます、何としても阻止しなくては」


「ですな、我が国としてもクルジド国のマスドットリオ侵攻の前段階は何としても阻止したい所存です」

ハリス大使も同様にうなづく、クルジド国の侵攻は何としても阻止せねばならない


「では、どういった形でクルジド国にアクションを起こしますか?」


「まずは書面で書いた方がよろしいかと、文面は、そうですね……」

ハリス大使がサラサラと例文を書いていく、現地民で無いと理解できない気遣いや礼儀作法を盛り込んでいく、外交官としての経験の差が見える


「大変参考になりました、ありがとうございます」


「いえ、これくらい、いつでもおっしゃってください、力になります」


「時に、庭師の皆様とはどうですか?」


「良好です、やはり戦争に全力を傾けすぎて、財政に負担が出ているせいか、皆様快く我々との協力してくれています」


庭師とは隠語だ。クルジド国内にいる民間の協力者のことだ


その多くが隷属の首輪をされていない純クルジド人であり、見聞きした情報などを提供してくれる


長い軍政のせいで市民の台所事情も厳しく、リラビア産の生活物資や金銭を対価に動いてくれる人々である


接触の窓口はもっぱらリラビア人、皇国人は異世界から来た人種という話はクルジドにも広まっており、未だに偏見が強い、反面長いこと戦争しているリラビア人は異世界人よりまだ打ち解けられるとの事である


どれだけ国が反感感情を煽っても国民レベルで見ればそれは薄いところもある、リラビアにもアラヒュト教の信者や教会があるように、クルジド人も全てがリラビアや大日本皇国に悪感情を抱いているわけでは無い


このハーファルから直接戦争へ出兵していった人が居ないというのも悪感情が少ない要因の一つでもある、所詮は遠い植民地国の人々が起こす戦争、その戦争のせいで自分達が貧しい思いをしているのだ、むしろ積極的に協力してくれる者さえいるほどだ


ある種の平和ボケ、リラビア魔法国と大日本皇国が付け入る隙になったのだ


「風の噂ですが、自警団が何やら不穏な動きを見せているとか」


「自警団、ですか」

ここでいう自警団とはいわゆるクルジド国の過激派思想の人々の事だ


アラヒュト教の教えを過激に捉え、亜人排斥、クルジド国至上主義を掲げ少しでもクルジド国の主義に反する言動や動きがあれば民間レベルでも逃さず動き、リンチにする

恐ろしい事に彼らは国や教会から依頼されているわけではなく、ただ個人の主張で勝手にやっているだけの一般人なのが恐ろしいとこだ


組織だった動きではなく、一般人なので動向が把握しづらいのが難点である

どこの世界でも勝手に突っ走る一般人ほど怖いものはない、である


「注意しましょう、ご忠告どうも」












親書をしたため、いくつか打ち合わせした後、すっかり日も暮れ、大日本皇国の大使館に戻った


リラビア魔法国の大使館は表の顔を担当している、故に塀も簡素な鉄格子と生垣のみ、外観重視の作りをしている


対する大日本皇国は防御重視の飾り気のない外観の建物を作った、対局に位置するような建物だった


外壁は植え込みのない、厚さ20cm、高さ3mの鉄筋コンクリートの外壁に等間隔でつけられた小型のサーチライトと有刺鉄線が張り巡らされている

門は1箇所のみ、正門は厚さ3cmの観音開きの鉄板ゲート、正門周りには武装した兵が常に巡回している


外見だけ見たら完全に刑務所である、だが内面は綺麗に整えられた芝生と白いタイル敷で、綺麗に整えられている

広さはフットボールの試合が出来るほど広く、非常時にはここにヘリが着陸する事になる事を想定している


メインの建物は二階建て、こちらも鉄筋コンクリートで作られた建物だ

一応外観は周りの建物に合わせて造られているが、外見だけ木造で内面は迫撃砲の直撃にも耐えれるほどの防御力がある

一階は事務室や作業場が殆どであり、住居や娯楽スペースは2階に集まっている


メイン以外にもサブの建物が2棟、こちらは一階建てでそれぞれ3m程の建物で、こちらも鉄筋コンクリートで補強されたトーチカのような建物だ


二階建てのメインの建物がA棟、建物東側がB棟、主に警備員の詰所として機能しており、クルジド国大使館として収集した情報や武器弾薬の貯蔵庫としても機能してる


対する西側のC棟には大日本皇国大使館に用がある人向けの迎賓館として作られている、本来なら二階建ての方がメインと思われがちだが、こちらは職員宿舎という説明がされている

東側にはベルルーク川という足首ほどの深さの川が流れており、西側にはただただ空き地が広がっている、大使館建設の際、大日本皇国を不気味がった人々が引っ越したのだ

南北を市街地に挟まれ、A棟はそれらの建物を見下ろすように建てられている


時期は冬、雪がチラチラと舞い落ちる中、巡回の兵士が白い息を吐きながら塀の周りを歩いている


「車が来た、ゲートを開けろ」

入り口に居たバヌハ伍長が無線にそういうとゲートが重苦しい音と共に開閉した


「まったく、クルジドの冬がこんなに寒いとは、ロシアじゃあるまいし、寒くて指が凍っちまう」

ジャンパーの襟を立て、手に自分の吐息を吹き付ける


「交代まで、まだ二十分もあるのか……ちくしょう」

暖房が効いている守衛室にいるレイトン軍曹を恨めしそうに睨み真っ白なため息を吐く


そこへいつものように歩み寄る一人の女の子


「おぉ、レティ。いつも通りだな」

薄汚れた顔に何日も洗ってない髪、身長はバヌハ伍長の腰くらい、完全防寒のバヌハ伍長でも震えるのに彼女は穴の空いたブーツと貫頭衣を着ている


彼女はレティ、元々ここにいた、ようはホームレスだ


クルジド国にはこういう子供が大勢いる。奴隷制度を堂々と運用してる国だ、出自不明の子供はたくさんいるのだ

こういう子供は大抵兵士として戦場に送り込まれるのが常だが、レティとその一派は今まで運良く捕まらなかったストリートチルドレンの一人だ


「……んっ」

いつも通り空の籠を差し出すレティ、バヌハは苦笑しながらダンプポーチから黄色い箱に入った完全栄養食を二つほど入れる


「どうぞ女王陛下、お納めください」

彼女はこうして定期的にショバ代をせびりに来るのだ、アラヒュト教の救済炊き出しなども行われているが、食べ盛りの子供には圧倒的に足りないのだ

グローバルホークで彼女を高高度偵察して尾行した際、彼女が家としてるほったて小屋には同じような孤児が二十人以上いたのだ、そのうち5人が食料調達に奔走している様で、涙ぐましい努力を見たローズ大佐はこうして外門警備の兵にショバ代を渡すように命令したのだ

そして警備兵達は彼女に敬意を込めて女王陛下と呼ぶのだ


「レティ、温かいココアでも飲む?」


「……うん」

レティは基本無口だ。でも食べ物やお菓子に対しては言葉を話す

驚いた事に彼女は皇国公用語である英語をある程度理解している、子供というのは恐ろしい理解力を持っているものだ


「軍曹、女王陛下に温かいココアを」


「ほらよ」

詰所に行くとレイトン軍曹が魔法瓶に入れたココアをマグカップに移していた


「……おいしい」

ゆっくり、息を吹きかけながらココアを啜るレティを見てつい頬を緩める二人、どの世界でも子供は見てて癒やされる


「レティ、しばらくはここに近寄らない方がいいぞ、怖い大人が増えるかもしれないから」


「……なんで?」


「詳しくは言えないが、うちの国とそっちの国が揉めてるんだ、例の自警団からの抗議の手紙がいっぱい来るんだ、やれ景観がどうの、騒音がどうの、ありもしない事いっぱいいってくるんだ、だからしばらく来ない方がいい、わかった?」


「……うん」

ちょっと落ち込んだ顔をしているレティ、バツが悪そうな顔をしてレイトン軍曹も天井を見上げる


「……軍曹、アレ使えるんじゃ無いですか?」


「はっ?アレって?」


「ほらアレですよ、この前の定期便で来た奴、ドローン」


「あー、あぁー、あぁ。そういうことね……」

レイトン軍曹も目をつまりぼんやりと考える

それはドローンによる物資の配送手段の事だ。専用の誘導ビーコンの電波を頼りに飛行型ドローンが物資を運ぶ輸送型ドローンである

以前リラビア魔法国での極秘作戦でも使われたのだが、それから研究が進み、誘導ビーコンの小型化、さらには誘導距離や積載量も増えていったのだ


バヌハ伍長はそれでレティ達に物資を運べないか、との意見を言ったのだ


「まぁ、上申してみてからだな」


「ですよね……」

いちおう最高機密でもあるドローンだ、よからぬ連中に奪われたりしたらたまったものではない


するとバヌハの服の袖が引っ張られた


「もう、会えないの……」

つぶらな瞳でバヌハを見上げるレティだった


「いいや、少しの辛抱だよ」

レティのゴワゴワの髪を撫でバヌハはそう言った


帰り際にレティは朧げな敬礼をした。右手を頭にチョップするような、歪な敬礼


バヌハとレイトンももちろん敬礼を返した
















一ヶ月後……


爆破事件の犠牲者のクルジド人の遺体が空輸され、ハーファルの首都通りと呼ばれる大通りで国葬される事になった


クルジド国植民地を支配する高官達がならば、国民も大勢の督戦官に見張られながら街道の両脇に並んで喪に服していた


ちなみにこの式典にリラビア魔法国と大日本皇国の大使は呼ばれていない。招待が無い式典に参加するわけにもいかないし、なにより他国で起こった爆破テロなのだ、要人警護の点からしても参加は見送られ、哀悼の意を込めた書簡のみで終わった


今思えば、既に筋書きは出来上がっていたのかも知れない












《クルジドに住まう、全ての民よ、私はクルジド・アーサー・ベラディーダ、アラヒュト神の神託を受け、地上に君臨した、神だ》

音声を何倍にも拡大して広げる特殊な魔石で声を集まった観衆に届ける


《ベンゼルフは私の友だった、素晴らしき革命の日から共に戦い、支えてくれた、戦友でもあった。その戦友を失い、私は、胸に穴が空いたような気持ちだ》

人の胸を打つようなボディランゲージと声量でベラディーダは語りかける


《そのような戦友を遠く離れた地で死なせてしまったのは、野蛮人に一瞬でも慈悲を与え、それにつけあがった蛮人どもの、明確な、罪だ!》

演説台に叩きつけるような拳を振り下ろした。原稿がハラハラと舞い散るが、ベラディーダは気にしなかった


《多くの慈悲を彼らに与えてきた、しかし、リラビアの亜人はやはり蛮族!理性と話し合いが通じる訳はなかった!》

怒りを焚き付けるように言葉を重ねていく


《もはや慈悲を与える時は過ぎた!蛮族には拳で持って応酬せねばならない!断固として、鉄の意思を持ってッ!亡き息子と娘達への、手向けとしてッ!必ずや奴らに、報いを受けさせると誓うッ!》


ベラディーダが腕を振り上げた、その直後、地面が揺れんばかりの歓声と怒声が湧き上がった









「あぁ、まずいなコレは……」

ドローンでベラディーダの演説を聞いていた管制官は冷や汗を拭った


「アブラハム中尉!まずい事になりますよ!」

管制官は叫びながら上官の元へ向かった


ベラディーダの演説に焚き付けられた人々はあちこちで集会を開き、槍や松明を掲げ、怒鳴り声をあげている


「状況は概ね聞いている、最悪だ、ローズ大佐と非番の兵士の位置を把握、直ぐにリラビア大使館と本国に連絡を取れ、急げ!ストーン大尉はどこにいる!」

全員が慌ただしく駆け出した、あるものは長距離無線機に飛びつき、またあるものは武器庫の鍵を持って飛び出していった


「状況の把握を最優先!偵察ドローンはあるだけだぜ!」

アブラハム中尉が怒鳴った全員が最善を尽くすために走り出した

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