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麦一粒金一粒

累計PVが15万を突破いたしました。皆さんありがとうございます

クルジド国

第89軍団 ムルテウ大陸派遣軍


ムルテウ派遣軍は多大な犠牲を強いながらも最初に上陸した浜辺からジワジワと支配地域を広げていっていた


途中、津波などに襲われるがそれでもクルジド兵達は粘り強く略奪や狩で日々の糧を得て、陣地を構築していた


上陸地点の浜辺を見下ろすように防砂用の堤防があり、多くのクルジド兵や虜囚が行き来する為自然と道が形成されていた

堤防を登り切るとその先には平原と森林が広がり、左手の森林ではムルテウ大陸の人々が桟橋建設の為に日夜木を切り出しており、反対側では同じようにムルテウの人々がクルジド軍の陣地制作に駆り出されていた


それらの作業を眺めるのはクルジド国第89軍団のルブドラグ中級二等将、単眼鏡を使い建設予定の地図と眺めながら実際の工事進捗を眺める


「まったく、これはどういうことだ?」

ルブドラグ中級二等将は怒鳴らず、問いただすように傍の男に聞いた


「は、はい!先日の、捕虜の脱走の影響で、その、建設のための、人足が、たりて、おらず、つまり、その……」

陣地構築の為の指揮官は脂汗をかきながらそう言う。対するルブドラグはため息を吐く


「君が少ない人員と糧食をやりくりして陣地構築に従事している事は、十分わかっている。私が聞きたいのは、どうして捕虜が老人ばかりなのだと聞いているのだ」

作業しているムルテウ人は殆どが老人や怪我をした者ばかり、故に作業の効率は上がるはずもない


「閣下、昨日脱走したのはムルテウ軍の健全な兵士と農民が殆どです、本土から補給として隷属の首輪が届かず、こうして我々の命令を反する結果となるのです」

そばに控えた軍師がそう言う。ルブドラグはまた大きなため息を吐く

虜囚の首輪で強制的に人々を従わせているからこそ無理な建設スケジュールでもこなせる、しかしその強制力が得られないとなると昔ながらの見張りを立てながら捕虜に建設させるしかなくなる、その分の効率も、脱走の隙も与えることになるのだ


「まぁ、それなら無理もないが、君、工事の遅延は我々の命に関わる、進捗の遅れは逐一、私に報告してくれ、いいな?」


「は、はいっ!」


「もうよい、仕事に戻りたまえ」


「ハッ!失礼します!」

指揮官が立ち去るのを眺めたルブドラグはパイプにタバコを詰める


「まったく、どいつもこいつも、口ばかりか。ジゼル、私はそんなに恐ろしい男に見えるかね?」


「まぁ、彼らも元は植民地国の出身、我ら正規軍とは馴れ合えない存在かと」


「それもそうか」

軍師ジゼルが魔法でつけてくれた火をパイプに移し、紫煙を吐き出す


ムルテウ大陸派遣軍の陣容は正規軍たる第89軍団が中核にそれらの補助として複数の軍団が追随している。それらのほとんどは先日の流星で海の藻屑と化したが、上陸に成功していたのは植民地軍の第246軍団である


「ルブドラグ中級二等将殿ぉーッ!」

そこへ、血相を変えた伝令兵が堤防の斜面を駆け上がってきた


「何か?」


「またです!また船の残骸が、大量に!」

その言葉を聞くとルブドラグは今日一番のため息を吐いた


「また、か」


「こりゃ、今晩のメシも、期待できないですな」


「あぁ、タバコもな」

ルブドラグはポケットのタバコ入れを見る。残りは二回分も無かった












ムルテウ大陸 沖合

大日本皇国 ムルテウ大陸派遣軍 エンタープライズ

陸軍第六航空団 第一強襲ヘリ中隊

バーガー大尉


空母エンタープライズの甲板でタキシングする六機の攻撃ヘリ


30mm機関砲と両脇のパイロンに吊るしたTWOランチャーとヘルファイヤロケットポッドが鈍く輝き、エンジンの回転数を徐々に上げていく


「ハニービーよりCT(コマンドタワー)離陸許可を」


《こちらCT、離陸を許可する》


「了解、ハニービー小隊全機、今日もクルジドのクズどもを、沈めるぞ」

部下へのいつも通りの叱咤激励を行い、バーガー大尉は計器類をチェック、油圧、HUD、光学機器、全て異常なしだった


《こちらハミングバード、先行する》

先に宙に浮き上がったのはMH-6リトルバード、両脇にミニガンとハイドラロケットポッドを吊るしている


「やってやりましょう、隊長」


「ええ、やってやりましょう」

ガンナーのベーラ少尉とグータッチを交わし、機器のチェックを進める


「こちらハニービー1、離陸する」

そういうとプロペラの回転数を上げてゆく


「回転数正常、トルク、ローター、問題なし」

リトルバードが艦首から舷側へ機首を向け、ゆっくりと上昇していく


ハヴォックもそれに続き、エンタープライズから六機のヘリが飛び立った


《ハニービー、こちらイーグルアイ、貴機の誘導を担当する、方位7-2-0へ》


「了解、各員方位7-2-0へ」


《敵船団は大型帆船4隻、中型帆船6隻、武装は見る限り側面についた大砲のみ、甲板上の魔法使いに注意せよ、HUDに共有しておく》


「了解した」


《隊長、割り振りはどうしますか?》


「3、4号機は左翼から、1、2号機は右翼から、ハミングバード隊はそれぞれ両翼に一機ずつ来てください。小型船舶を任せます、いつも通り、大型船は全滅させろ」


《了解、鴨狩りだぜ》


大陸中央部での会戦に勝利した大日本皇国ムルテウ大陸派遣軍は予定通り、第二弾作戦としてクルジド国の輸送船団を攻撃していた

クルジド国の監視の目を離れた洋上で、魔獣の巣窟を迂回してきた船団を待ち伏せ、ムルテウ大陸のクルジド軍を孤立させていた


クルジド国の海運は帆船、対する鋼鉄の軍艦を要する大日本皇国は魔獣の巣窟でも無数の爆雷と研究の結果発見された魔獣が嫌悪する波長の音波を流すことにより、有利な場所で待ち伏せることが可能となった


「全機油断しないで、鴨に落とされたとなりゃあの世で笑い物です。帰還率100%、ですよ」


《隊長に言われちゃ、仕方ねぇ。四号機、続け!奴らにTWOをぶち込んでやれ!》


《イエッサー!》


「二号機、我の左を任せる」


《了解しました》


「少尉、ハイドラをぶちかましてやれ」


《了解》

頼もしい返事を聞いて小さく微笑むバーガー大尉、自分も彼女も色々な失敗をしながらも成長していったのだ


《会敵まで500m!》

観測機からの報告を聞いたバーガー大尉は唇を舐める。無意識の癖だ


「攻撃開始」


《ハミングバード隊、突っ込め!》

先手を取ったのはMH-6リトルバード二機だ


大型帆船を挟み込むようにして6隻の帆船が航行しており、その内の先頭を行く1隻の帆船にハイドラロケットポッドが殺到した

発射された十発のうち、六発が船体に突き刺さった

外壁を貫き、大砲や火薬樽に突き刺さり、巨大な爆発が巻き起こった


一撃で船の上部構造物が全て吹き飛び、細かい木片とバラバラの肉片が辺り一面に巻き上げられた


そして外れた四発のハイドラは海面に着弾、後続の船は残骸と流れ弾を回避しようと取り舵を取り、警戒用の鐘を狂った様に打ち鳴らした


そこへ襲い掛かる四機のハヴォック、ハイドラを残る2隻の中型帆船に叩き込む


あっという間に爆沈、そして中央の帆船が大砲を出す為に左舷側の大砲を迫り出させた


だが、そこへ真っ直ぐ突っ込んでいくバーガー大尉ではない。バーガー大尉は右側、船団の後方に回り込んだ


「浴びせろ」


「了解」

ベーラ少尉が引き金を引くと30mmチェーンガンが火を吹き、中央船団の甲板のクルジド兵の胴体が真っ二つに切り裂かれ、甲板に大穴を穿つ


「神に仇なす神敵め!聖帝陛下の事業を邪魔する慮外者!リラビアの犬!貴様らにいずれ天誅が下るであろう!」

船室から現れたアラヒュト神の神父がそう怒鳴る中、後続のハヴォックが放ったハイドラが船底付近で炸裂した

船の背骨とも例えられる竜骨を砕かれ、艦首と艦尾の重さに耐えられなくなった船体はまさに閉じられる本の様に鯖折りになり、大勢の船員と共に瞬く間に轟沈していった


「コルト曹長、俺は常々思うんだが、これはコスパの良い作戦だと思わんかね?」


「と言いますと?」

キーゼル大尉は蹂躙されていく大型帆船をみながら呟いていく


「我々が装備するチェーンガンやハイドラ合わせて一億円行くか行かないか、対する沈められていく船舶に積まれた物資や人員を考えるとまあ、クルジド国は大赤字だよな?」


「そうですね、投資した分が全部海の底、オマケにそれに付き合った人員も帰ってこない訳ですから」


「しかし、これだけの物資を毎週毎週吐き出し続けるクルジド国、恐ろしい国よな、どれほどの民を国で飢えさせているのだ……」


クルジド国はムルテウ大陸制圧の為に、占領国を丸々四つ使い潰してこの作戦に打ち込んでおり、無理な徴兵や物資の摘発により戦場よりも後方での餓死や過労死の割合が多い事を知るのはまだ先のことである

ちなみに大日本皇国も先の大戦で備蓄物資や戦費のほとんどを使い果たしており、非常用の大器のポイントもそれなりの数を出してなんとか休戦まで漕ぎ着けたのだ

それゆえ、海空軍の兵器は2000年代後半の最新鋭兵器であったり、旧式艦艇に近代化改修を施したのもなのに対し陸軍の戦車や装甲車は第二次大戦レベルのものを未だに運用している、用は更新されていないのだ


これは大器の趣味というわけではなく、陸戦で損耗が激しい陸軍の使う兵器はある程度古くてポイントが安く、なおかつ初期の頃からある生産ラインのままで運用できる、なおかつそれなりに戦える兵器であることが望まれ、逆に損耗が少なく、戦いの趨勢を握る海空軍は最新鋭兵器が優先して融通される傾向がある

海空軍の最新鋭兵器の火力と精密さで敵に打撃を与え、安く大量に揃えられる兵器で固めた陸軍で制圧する、これが皇国軍の戦術である


これを貧乏性と捉えるか、否かは意見が分かれるところだが、とにかく皇国やリラビアも懐事情が厳しいのであり、休戦中とはいえ、あの手この手で敵国の力を削いでおく必要があるのだ


「我々も片付けるぞ」


「ラジャー」

すると、キーゼル大尉は真っ逆さまに急降下、それこそ獲物を狙い澄ました海鳥の如く、中型帆船にミニガンの銃撃を浴びせる


甲板でマスケット銃や魔法の準備をしていたクルジド兵達はたちまち身体中を穴だらけにされ、焼夷弾頭の銃弾は積まれていた火薬樽を貫き、火薬を爆発させた


「大尉、左方向!」

コルト曹長が悲鳴の様な声を上げる。前装砲の大砲がリトルバードに狙いを定めているからだ


「させるかッ!」

テイルローターの出力を落とし、機敏な旋回、そしてロクな狙いもつけずに両脇のミニガンを発射した

戦列砲艦の弱点は一定方向にしか砲撃出来ない点だ。現代艦船のように上下左右が狙えない、そもそも運用段階で想定していない。つまり自分の目の前の砲塔さえ無力化出来れば問題ない


雨霰と銃弾が浴びせられた砲塔箇所は要員諸共粉微塵になった


キーゼル大尉はそのまま左へヨー。戦列艦の横っ腹に機銃弾をこれでもかと撃ちまくる


「大尉!冷却が間に合いません!機体温度上昇中!」


「今いい感じなんだ!ヒィーハァー!」


「あんたの自殺にマジで巻き込むなッ!ヒィ!?」

目の前で横薙ぎにされて黙っているほどクルジド兵も愚かではない、一矢報いようと大砲を撃つも、コルト曹長のすぐ真横を砲弾が掠るだけでキーゼル大尉は止まらなかった


そのまま船の後方、船長室がある艦尾にも同じ様に弾を叩き込み、舵輪の辺りに集まって待ち構えていたクルジド兵に銃撃を浴びせる

魔法使いの詠唱よりも早く、杖に魔力を込めるよりも早く飛来した銃弾は瞬く間にクルジド兵の胴体を貫き、物言わぬ肉塊に変えていった


やがて船内の火薬に引火、最後は爆発した


「うーん、よく燃える」


「……そうですね、俺の胃も燃えてますよ」

本来体感する必要のない、目の前を砲弾が掠めるという超常体験を味わった彼の胃はとうの昔に限界である、最近は血便も出る始末だ


「さて、フィナーレと行こうか」

中央の大型帆船もハヴォックが軒並み沈め、残るは中型帆船2隻となった


「おっと、敵さん、海に飛び込んでやがる」


「やめたほうがいいとのに、ご愁傷様」

二人が祈りを上げた直後、海面から巨大な触手が飛び出た


《各機、高度を取れ!》

バーガー大尉の命令と共にヘリが最大高度に上がる


戦闘の音と海に撒き散らされた血によって魔獣が集まってきたのだ


クラーケンやシーサペント、他にも二つ首のサメの様な生き物や一人の人に何百匹もの小魚が集り骨にしてしまう。やがて無事だった帆船も巨大な半透明のクラゲの触手が船に絡み付き、バランスが崩れていき、ひっくり返った


「生きながら食われるなんて、ゾッとするぜ」


「同感です」

キーゼル大尉とコルト曹長は顔をしかめ、最後の船を見る

クラーケンが絡み付いているが、船上の魔法使いや兵士達が健気にも抵抗している


だが終わりは突然に訪れた。海中より現れた巨大な鯨によって


海中より現れたそれは船に絡みつくクラーケンに頭突きを食らわせたのだ


《回避ッ!回避ィ!》


《でけぇなありゃ!?》


「やばいやばい!」

その突進力、帆船を粉々に打ち砕き、空母すら凌駕するほどの大きさのクラーケンを空に打ち上げた


「大尉!破片が降ってきます!」


「任せな!」

プロペラ越しだが、キーゼル大尉の操縦テクはピカイチだ。帆船の破片を右へ左へと揺れながら回避する


「白鯨、今日のは凄かったな」


「えぇ、ほんと、うぇ……」

口の中の血の味に顔をしかめながらコルト曹長は眼下の海を眺める

魔獣達の饗宴はとうとう最高潮のようであり、海の支配者とも呼ばれる白鯨の口からこぼれたクラーケンの残骸とクルジド兵達の食べ放題は大盛況だ

貪欲な魔獣の群れを前に、海に投げ出されたクルジド兵の生還率は絶望的、惨劇の目撃者も停戦協定違反の証拠も綺麗さっぱり無くなることを意味する


《全機、帰投するぞ》


「ここに残っていても昼飯が食えなくなるだけだ、帰るぞ」

キーゼル大尉は眼下の地獄を見ても顔色一つ変える事なくそう呟いた














クルジド国


「どうなっている?流石に話が違う。ムルテウは一向に落とせていないようだな」

クルジドを統べる、地上の神、ベラディータが物憂げな顔で戦争大臣のウォルガンを見る


「はい、ムルテウに上陸拠点を作り上げれたのは良かったものの、増援と補給の艦隊は悉く全滅している模様です。このままではムルテウ大陸の部隊は伝書鳩に食わせる豆にすら困る有様です」


「手立てはあるのか?無いとなると余は貴様を裁き、新しい戦争大臣を立てねばならなくなる」


「リラビアとかのダイニッポンコウコクという国が船団を襲っている、間違いありません、よって計画を早めます」


「例の計画か?」


「はい、工作員はすでに潜入し、計画実行要地を決めている段階です」


「早めろ。七日以内にダイニッポンコウコクを落とさねば、植民地経済と国庫が持たない、我が国の財政も決して余裕がある訳ではないのだ」

ベラディータが腕を組む。くだんのリラビアの同盟国が参戦しているのは火を見るよりも明らか、しかしその証拠も無しに批判しては事態の解決にはならないし、抗議を入れても例の大使館のローズ中佐にのらりくらりとかわされて終わるだけだろう


「……本当は念入りにやらせたかったですが、わかりました、計画を早めます」


「頼むぞ」


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