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獅子身中の虫

数分前


イージス駆逐艦ホッパー 艦橋


「副長、報告せよ」

仮眠から叩き起こされた足鹿野(あしかの)少佐はあくびを我慢し、副長のサザンドラ大尉に促した


「ハッ!後部甲板で運動していた兵が護衛中の民間船から発砲音がすると通報が入り、無線や発光信号での応答が無く、ドローンで空中偵察を行ったところ、例の人工魔獣の痕跡と甲板で避難誘導と戦闘中の兵士を発見しました!」

そういうとサザンドラ大尉はスクリーンにドローンの空撮映像を映した


「……状況は把握した、ヘリは?」


「現在二号機は分解整備中の為、一号機に武装を搭載し、発進待機中です。ご命令があれば、いつでも出れます」


「そんなの待たずともよい、ただし完全武装した兵士を降下させろ、まずは状況の把握が最優先だ。二号機の組み立てを急がせろ!」

足鹿野少佐が素早く指示を出す、すると集められていた要員は直ちに持ち場に戻った


「面舵一杯!反転後に停止!内火艇を降ろし、溺者救助にあたれ!」

足鹿野少佐が腕時計を見る。皇国の防衛圏に到達し、目的地の港まで後十五分を切っていた











皇国上陸まで十分


完全武装の兵士がヘリから降りてくると防衛戦闘に加わった


「駆逐艦ホッパーから来ました!カン中尉です!」


「ベルトマン訓練兵長です!あの化け物についてご存知ですか!?」

戦闘に新たに加わったのは八名、全員がG36Kを持ち、練度は高い

同じ銃を持ってるのにベルトマン達とは桁違いの正確な射撃で魔獣の皮膜を撃ち抜いていく、揺れる船上での戦いに慣れ切ってる


「前に立つとヤバいってくらいだ!避難民はどれくらいだ!?」


「殆どの乗員は救命艇に乗せています!避難状況は私より、船員の方が詳しいです!」


「お前、聞いてこい!」


「はい!」


「船内には誰かいるか!?」


「はっきり言ってわかりません!捜索をする余裕なんてありませんから!」

その時、バリケードを飛び越えて二人の青年が転がり込んできた


「委員長!」


「戻りましたぁ!」

魔獣の体液に塗れ、壮絶な体臭を漂わせる二人組は折れた銃剣がついたG36Kを放り投げる


「首尾は!?」

へたり込んだ二人に拳銃を投げ渡すベルトマン訓練兵長


「要救助者確保!親切な憲兵さんの協力のおかげです!」

宇佐美訓練二等兵が背負った子供を降ろしながらそう叫んだ


「憲兵だと!?」

カン中尉が視線を戻すと体液まみれになった憲兵の腕章をつけた二人の皇国兵が魔獣の蔦と格闘していた


クロウリー大尉とルーマン軍曹の二人である。背中合わせになった二人は迫り来る蔦を手にした銃剣やナイフで掴んでは切り裂き、手にしたショットガンで歩み寄る蔦型魔獣の幼生体を撃ち抜き、船の外に蹴り落とす


「カン中尉!船内に生存者は無し!今残っている人で全員だそうです!」


「よし!ならばブラックホークを寄せろ!避難民を乗せるだけ乗せる!ホッパーに連絡!全避難民収容後、船を撃沈せよ!以上だ!」


「方針は決まった!急げ!敵の侵攻を食い止めるのだ!スタンプ曹長!二人連れて反対側の通路を守れ!」


「了解!」


「敵の弱点は胸の皮膜だ!そこだけを撃ち抜け!いいか!ここを突破されたら避難民は全滅だ!なんとしても守り抜くぞ!」

カン中尉が改めてライフルを構え、射撃を開始する、他にも二人の兵員が応戦を開始し、一人は背負った広帯域無線機を使って駆逐艦と連絡、もう一人は上空を旋回するブラックホークに無線で機銃掃射を要請した


高度を落としたブラックホークの側面ドアから搭載された重機関銃が飛び出て、やがて蔦の群体に向けて銃撃が開始された


「憲兵の二人!急いでこっちへ来い!」

カン中尉が援護射撃を開始し、隙ができた包囲網から憲兵二人がバリケードを飛び越えてきた


「助かった!クロウリー特務大尉だ!」


「ルーマン軍曹です!」

二人とも息絶え絶えになりながらもルーマン軍曹はショットガンに新しく弾を装填していく


「中尉!避難民は!?」


「収容中だ!それまで我々はここを死守する!」

カン中尉がクロウリー大尉に新しい弾倉を投げ渡し、そう答える


「了解した、我々は任務達成の為に先に下船させてもらう、後を頼むぞ」


「お任せあれ!」


「ルーマン軍曹、行くぞ」

すると二人の憲兵は立ち上がり、他の避難民と共に海に飛び込んだ


「中尉!蔦の数が増えてきました!」


「ヘリより報告!我の火力では敵の排除は不可能と判断、甲板上の要員を収容して離脱する、です!」

蔦型魔獣の幼生体はあらかた倒された、だが成長しきった魔獣は次なる人間を襲おうと蔦をさらに伸ばしてきていた


「後退しろ!言い出してなんだが、これ以上は時間の無駄だ!」

カン中尉が指示を出すと武器を持って弾幕を張っていた兵士全員が船の舳先に集まる


民間人は軒並み海に飛び込むか、救命艇で船から離れていた


そこへブラックホークが舳先スレスレにホバリングを始めた


「乗り込め!訓練生からだ!」


「了解!」

そういうと助け出した子供を背負い、ベルトマン訓練兵長が乗り込む


「ありったけ撃て!近寄らせるな!」

持ってきた弾丸全てを使い切るつもりで銃撃を繰り出す。マガジンが空になるたびに一歩一歩と下がる


「カン中尉!あなたが最後です!」


「おうよぉ!」

スタンプ曹長の腕を取り、ヘリに飛び乗る


「助かったな……」


「えぇ、なんとか……」

眼下にはすでに蔦の塊になった船があり、蔦の塊が皇国本土に刻一刻と向かっていた


「本土到着まであとどれくらいだ!?」


「あの速度なら五分ぐらいだろう、だが本土から五分となると、すでに絶対防衛圏に入っている、今頃本土の空軍が出撃しているはずだ」

カン中尉の推測は正しく、ヘリのローター音に紛れて、ジェット戦闘機のエンジン音が聞こえていた










《こちらガードナー1、目標を視認、投下!》

オスカー海軍基地より発進したF16より投下されたJDAMがGPS誘導により正確に誘導され、蔦型魔獣の巣窟と化した船に直撃した


船が海に押し付けられるほどの圧倒的爆発と共に船が傾いた


左舷中央部に着弾したJDAMは船体を大きく抉り、蔦型魔獣という過積載もいいところの重量物のせいもあり、船は左に傾き、シーソーのように船はひっくり返ったのだ


皇国到達まで四分、船は船底を見せる形で止まった


《こちらガードナー1、予定通り、対象は座礁した。引き続き、対象を観察する》


「あの不快な蔦を焼き払う準備は出来ているんだよな?」

最南市の統合作戦本部で上空からの映像を眺めながら大器は言った


「もちろんです。あのままあそこに魔獣に踏みとどまられては、我が海軍戦力の50%は行動が取れません、故に必ず撃破します」

ミリア大将が手元のタブレットの画像を大型スクリーンに転送する


「第一陣、陸軍飛行隊による燃料気化爆弾による爆撃。第二陣は陸軍列車砲連隊による76cm砲12門一斉射撃、次に空軍のAC130ガンシップによる空爆、それでもダメな場合は」


「何が来るのかな?総合火力演習みたいでワクワクするね」


「戦艦アイオワ、ミズーリによる艦砲射撃、海軍飛行隊による爆撃、これを食らって生き残る術はありません」


「大丈夫か?映画だとそれは死亡フラグとして名高いけど」


「以前の戦闘の結果を加味して計算しますと海上ということを差し引いても過剰かと」

ミリア大将はタブレットを胸元に抱え込み、そういう。もしダメならこの島を捨てる覚悟で()()()()()投入せねばならなくなる

念には念を入れて、海沿いの最南市には避難警報を出している。古木市の陸軍にも非常動員をかけ、避難は着々と進んでいる

ミリアが視線を戻すと列車砲とAC130四機による一斉射撃が開始されており、部屋の中の幕僚や軍の高官が爆発と共に唸り声をあげている


「やはり120mm砲のアウトレンジ攻撃は、ロマンですなぁ!」


「然り!だが我が陸軍の列車砲連隊も負けておりませんぞ!」


「おお、見ろ!直撃したぞ!」

子供のようにはしゃぎながら話し合う陸軍や海軍の高官たちを白けた目で見るミリア大将


「……男って奴は」

同じような目をしたソフィア空軍大将は机の水を飲み、ミリア大将にアイコンタクト


「……早めにケリをつけましょうか」










大日本皇国海軍 戦艦アイオワ 艦橋


皇国近海は穏やかな海だが度重なる爆撃により荒れに荒れていた


「全艦右砲戦準備!」


「右砲戦よぉーい!」

アイオワ艦長の鶉野(うずらの)中将はCICでそう号令した


「測的要員より通達!彼我の距離、およそ二万!」


「先行する駆逐艦ホッパーより通信!避難民収容完了、周辺海域に溺者無し!」


「着弾観測ドローン展開、映像ラグ無し!」


「二水戦の皐月より通信、敵炎上するもこちらをなおも攻撃中!被害は睦月、如月小破のみ!」


「よし、砲戦距離を二万に策定!散布界は三千以内に納めろ!、砲術長、頼むぞ!味方に当てるなよ!」


「おまかせを、中将!」


「ミズーリは二万一千で撃つそうです!」


「あいつも心配性だな、砲術長、どちらが先に当たるか、賭けでもするか?秘蔵のウイスキーを出してもいいぞ?」


「中将はミズーリが先に当たるとお思いで?」


「いいや、初弾を当てるのは、このアイオワに決まってる!」


「でしたら、賭けになりませんよ」

ニヤリと笑いながら砲術長は照準器を慎重に調整していく


「そうだな、二人とも同じ所に賭けては、意味がないな」


「主砲、一番から四番、装填完了!」


「砲塔仰角30!各砲、2度ずつ角度をつけろ!」


「ここは皇国の海、皇国の庭!我らの領域を荒らす害虫を、駆除しろ!」


「ッてぇーッ!」

号令と共に四門ある三連砲塔から一発ずつ試射が放たれる


戦艦の砲というのは基本的に()()()()()


故に命中率を上げる為に対象物の前後に砲弾を着弾させる夾叉(きょうさ)させるまでは斉射は行わない


スクリーンに投影されるのは着弾観測ドローンから転送されている魔獣の映像。四方へ蔦を伸ばし、まるで威嚇する動物のように激しく蠢いている蔦型魔獣がいた


「着弾まで三、ニ、一、ッ!」

直後、映像が水飛沫でいっぱいになった、どの砲が撃ったか解るように砲弾には染料が入っている、故に解る


「全弾至近弾!」


「斉射よぉーい!、砲撃データを全艦に連携!急げ!」

鶉野中将は自然と拳を握りしめた。砲撃の試射の衝撃、戦艦で最も頑丈に作られたCIC区画にいても響き渡っていた


「やはり、戦艦とはこうでなくては、な」

鶉野中将がニヤリと笑う、完全に無意識のうちだが鶉野中将は実感していた、次の砲撃は当たる、そして敵を必ず撃滅する、と


「斉射、てぇーッ!」











数日後


大日本皇国 最南市


「よて、いどお、り、ね」


「そうね」

クルジド国の極秘隠密部隊の”ティーチャー“と”キャラバン”の二人は皇国の本土に侵入していた


二人はあの船に乗っていたのだ。そして船から避難する避難民として皇国に潜入したのだ

海に飛び込んだ人は全員助かった訳ではない。故に乗客名簿に名前がなくとも疑われない。彼らの考え出した作戦は完璧だった


どれほど優秀な海軍でもしこたま砲撃を叩き込んだ海域で行方不明になった人を探すというのは不可能、故に二人は誰にも警戒されることなく街を散策していた


街には他にも大勢のリラビア人がおり、二人も浮いた存在ではなかった


「この、美しい国を壊すのは、気がひける」


「う、そ。ティーチャー、たのし、そう」


「バレた?」

三日月のように釣り上がった口を押さえ、彼女は手をかざす


彼女の薬指に嵌められた指輪、宝石は血のように赤い


「やっぱり、活性化してる。ダンジョンコア」

それはかつて、バステト近郊で発見されたダンジョンコア、その破片だ


「やっぱ、り、ダンジョン、コア、魔素以外、と反応、する、の」


「多分ね、この国の乗り物とかから出る煙に特に反応してる、多分身体に悪い煙が活性化のトリガーなんだよ」

そういうとティーチャーはクレープの出店でクレープを二つ買い、路地に入る


「ありがとうね、憲兵のお兄さん」

クレープを口に運び、お釣りをポケットにしまう


「んっこれは」


「おい、しい……」

二人はクレープの味に舌鼓を打つ


「滅ぼすのがもったいなくなるなぁ」

心にも無いことを呟きながらティーチャーは立ち上がる


「じゃ、お仕事といきますか」


「そ、うね」

そういうとキャラバンも立ち上がった


二人は雑踏に消えていった。目指すのはーーー

前回の内容思い出すのに苦労したのでおくれました、ご意見ご感想お待ちしてます

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