第1中継点 迎撃準備
地下通路 第1中継地点
大器が作成した地下通路は長さにして10キロ以上あり、ポイントに余裕があればトロッコなども引こうかと考えたが、ポイント残量的に通路の拡充と強度、それに休憩地点を設けるのが先決だと判断しそちらにポイントを割り振ったのだ
休憩地点はただ広めに空間を取ってあるに過ぎず、何もないがそれでも歩けるものはそこから歩き、傷ついたものはそこで休むことも出来る
何せ急ぎの撤退だったのだ、一息入れないとこの先長く続かない。そう考えた大器は地下通路入り口から500m程距離がある第1中継地点にて改めて臨時の救護所を設置したのだった
(このトンネルは海岸まで繋げた、後は船を召喚して海から遠くのどこかへ逃げるだけだ)
WWCの地図には現状海に敵の反応はない。いくら魔法があろうとも近代兵器を持った海の上の集団を殲滅できるような攻撃手段はそうやすやすと存在しないと大器は考えていた。もし存在するとしたら大器達はこうして生きてはいないだろう
そんな事を考えながら大器は再び地下通路の投影マップを見つめる。視線の先は最前列の偵察隊と最後尾の部隊に注がれていた
(敵に撤退を悟られてはいないはず……魔法で察知されたらアウトだけど、地上は二つの勢力がぶつかり合って混乱してる、なら今が逃げるチャンスだな)
最後尾にはミリア少佐率いる殿部隊、最前線には精鋭一個分隊、何かあればそれぞれに持たせた通信機から通報が入るよう打ち合わせてる
「大丈夫、だよな……」
小さく大器は呟いた。野戦病院と化している第1中央の喧騒にかき消されるような小さな呟きだった
同時刻、先頭
「この暗いトンネルを抜けたら、ビキニのギャルと海水浴が待ってるかな?」
「クロスマン、少しは黙れ」
「撃ち殺すしか黙らせる方法は無いかな」
「マリー、そりゃないぜ」
「柴田、どこまで来た?」
「第1中継点からおよそ三百メートル、そろそろ第2中継点が見えてくるはずです」
明かりのないトンネルを懐中電灯の光のみで歩く四人の兵士達
四人とも灰色の野戦服にMP18、ルガーと柄付き手榴弾を持っていた
唯一違うのは柴田と呼ばれた男が背中に背負う無線機と測定機器である。彼ら四名は先行偵察隊である
オートバイ部隊は第1中継点までしか見ておらず、確実な安全の為この四人が派遣されたのだ
「待て」
そこで隊長のグレン少尉が止まった
「どうしました?」
部隊唯一の女性のマリー伍長が聞いた
「何かが動いた……」
「隊長のナニの話ですか?」
「クロスマン、照明弾」
「アイサー」
クロスマンのジョークにも眉一つ動かさず、指示を出すグレン少尉、MP18に初弾を込めた
ピストル型の信号銃に弾を込め発射。すると暗闇が動いた
「なんだぁ、ありゃ!」
「一瞬だったけど……蜘蛛かなんかか?」
「少尉、後方へ連絡しますか?」
「ああ、連絡しつつ後退。嫌な予感がする」
グレン少尉がそう指示を出し、四人は一目散に逆方向へ走り出した
四人が走り出した、それと同時に相手も動いた。何世紀にも渡り地下で暮らしていたそれらにはグレン少尉達は何にも変えがたい最高のご馳走に見えたのだ、地底にはない閃光に驚くよりも食欲が勝ったのだ
八本の脚に鈍く光る紅い複眼、耳障りな関節を動かす音と地面を何かを引きずるような音を立てながらグレン少尉達を追いかけ始めた
第1中継点
「グレン少尉聞こえるか、君達の後方100メートル地点に敵反応だ、それもおびただしい数で迫ってる、直ちに離脱せよ」
《こちらも敵を視認。自動車並みの巨大な蜘蛛だ、グレネードッ!我々はそちらへ引き返す、迎撃の際は誤射に注意!》
走りながら連絡を取っているのか、グレン少尉は所々息を切らせながらそう連絡してきた
「……ミリア少佐」
《こちらミリア》
「最前列でトラブルだ。巨大な蜘蛛の大群がこちらを殺しに来るらしい、少佐は現在地点で防衛拠点を組み上げろ、我々がしくじった後は頼むぞ」
《了解です。増援を送りましょうか?》
ミリア少佐の提案を聞いた大器、そういえば現状を把握していなかったと側にいた副官のサウザー軍曹をみた
「血の気を余らせてる連中が大勢います、問題ありません」
「わかった。ミリア少佐、増援は不要。現在地点の防衛に努めよ」
《了解です。閣下、あなたは我々の全てです。どうかご無事で》
「任せろ、いざという時は這ってでも逃げ切るさ」
大器はそう言い張ると無線を切り、軍曹に向き直る
「軍曹、大見得を切った以上、貴様を信用していいんだな?」
「お任せください。この通路は一本道、隠れるような隙間は無し、であれば重機関銃と擲弾、後は兵士の意志の強さが物を言うでしょう、既に無事な兵を動員して陣地の構築を急がせています」
「何が必要だ?」
「重機関銃と弾丸、発電機と投光器があれば」
「いいだろう、前線にそれらのものは用意しておく、敵を撃退してみせろ」
「ハッ!」
第1中継点からおよそ100メートル地点を走るグレン少尉率いる偵察隊は現在味方との合流を果たそうと死に物狂いで走っていた
重たい無線機や弾を撃ち尽くした銃は捨て、拳銃のみを手に走っていた
「クソが!クソ!下半身が蜘蛛のアラクネ娘の本でもう抜けなくなるじゃねぇか!ちくしょうどもが!」
「てめぇのそのブレない感じ、嫌いじゃないけど今はやめてくれ!」
「クロスマン!お前は下ネタ以外に口が聞けねぇのか!」
「ああそうさ!このクソッタレなマラソンをしなくていいのならケツだって貸すし、オナ禁も辞さないぜ!」
「もうこの手榴弾と共にあのクソ昆虫止めてこいよ!」
柴田とクロスマンがふざけ合いながら走る中、グレン少尉とマリー伍長は信号銃を走りながら構え、発射した
逃走劇の最中に気づいた事だが、この蜘蛛は強烈な光に弱い、信号弾が炸裂すると群れが怯み、動きが止まるのだ
「せめて高飛車生徒会長気質の人前では大和撫子なアラクネ先輩美少女になってから出直せや!」
「それについては同意ッ!」
群れの勢いが止まると同時にクロスマンと柴田は最後のグレネードを投げ、再び走り出す炸裂した柄付きグレネードの爆風に押されるように再び走り出す。無尽蔵に汗が吹き出し、ヘルメットも投げ捨てた
「味方の陣地だ!バリケードに注意!」
グレン少尉の言葉に前を見ると暗闇に慣れた目が土嚢を積み上げ機関銃を槍衾のようにこちらに向ける味方の姿を捉えた
「跳び越えろぉ!」
グレン少尉の号令と共に全員が一斉にジャンプ。味方の陣地に飛び込んだ
「早くどけ!」
軍服の襟を掴まれ、強引に陣地の中に引き込まれ、邪魔にならない所に放り出された
「クソ!クソ!次追いかけられるなら、ヤンデレ巨乳の美少女にしてくれ!」
「ヤ、ヤンデレは俺の守備範囲外なんだよなぁ……」
「……ヤンデレなら、俺も、歓迎だ……」
「グレン少尉、あなたという、人を…誤解してました……」
クロスマンとグレンがガッチリ握手を交わす
「……なにこれ」
マリー伍長はついさっきまで自分達を追いかけていた巨大蜘蛛を見るような眼でその光景を眺めた
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