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明るみに引き出されるものは、みな光によってあきらかとなる

リラビア


ここはかつてロメオビーチと呼ばれ、大日本皇国とクルジド軍が戦端を開いた由緒ある土地である


当時の戦争の跡はすっかり無くなり、今では皇国軍上陸の際、作られた艀などを再利用した港湾施設が民間に開放されている


そしてこの港湾から大日本皇国への唯一の航路が民間向けに運行されている


港には皇国向けに輸出する食料品を積んだ荷馬車やトラックの行列が出来ており、人々の歓声に溢れ、リラビア国の戦地復興政策の成功を感じられた


「ふむ、このコーヒーは中々の物だな」

クロウリー大尉は港を見下ろせる喫茶店の2階で優雅にコーヒーを飲みながら新聞片手にくつろいでいた


「リラビア産だそうだ。ルドグシャ近郊の亜熱帯に近い気候の箇所で作られたコーヒー豆、なんでも皇国兵の1人が立ち上げた農園だが、今ではリラビア中で大人気だ」

クロウリー大尉の正面に座るのはリラビア正規兵のルーマン軍曹だ。彼は卵サンドを頬張りながらクロウリー大尉を見る


「いよいよ、皇国人がリラビアに馴染んでいくように、リラビア人が大日本皇国に上陸かぁ」


「あぁ、制限付き、観光のみだかな」

リラビアで発行された新聞を眺めるクロウリー大尉。リラビアと大日本皇国の民間航路の開通が一面に飾られていた

両国の友好の証の計画として両国民の観光目的の渡航制限が解除されたのだ


「で、頼んでいた孤児院は?」

大尉がコーヒーをすするとルーマン軍曹が写真を出した


「怪しい孤児院を探れってオーダーだよな、言われた通り、ここ数ヶ月でハンターギルドから荷物を受け取った孤児院を片端から調べ上げた、だが……」

ルーマン軍曹がそこでバツが悪そうに眉を顰める。映されていた写真には孤児院経営者の写真や建物が映っていた


「経営、資金、裏事情、その他諸々漁ってみたが、どれもこれもめぼしいものは無かったですぜ」


「……ギルドの方の記録は?」


「それもさっぱり。依頼主の情報や荷物の中身の記録はギルドの受付嬢ごと消されてました」


「そうか、敵の手が早いな。お前でも見つけられないとなると、本当に無いんだろうな、こうなったら直接行くしか無いか……」


「その必要はないぞ、クロウリー大尉」

その直後、床を軋ませながら男が一人、机に座った


「ジャンヌ大佐!いらしてたんですか!?」

男は極度の肥満体、子供一人が丸々入りそうなほどの大きな腹を揺らし、椅子に座った


「あぁ、目星をつけていた孤児院を調べ上げた、やはり黒だ」


「なんと。ひょっとして最初から大佐はわかっていたのですか?」


「もちろん、では状況を整理しよう、まずクルジドの目標とはなんだね?」


「それは、この戦争の勝利、国民感情やあの聖帝の野心から考えると、こちら側を絶滅させるまで辞めないでしょう」

ルーマン軍曹が無意識のうちに顔を伏せる。狼系獣人特有の耳が落ち込んでいるように倒れていた


「その通り、ならば奴らは悪知恵を働かせて少ない労力でこちらを倒そうとするだろう、ならばどうするのが正解か」


「……後方地帯」


「そうだな、そこで、奴らはリラビア人を使う事にしたんだろう」


「……ゲスどもが」


「実にコストパフォーマンスに優れている策だ。だが欠点があるとしたら準備に手間取ると言うところだろうか」

いつの間に頼んだのか、ジャンヌ大佐は大盛りのミートスパゲッティを頬張りながらそう言った


「リラビア人の食いっぱぐれ共に荷物を運ばせ、何も知らないリラビア人を暗殺者として仕立て上げる、差し詰め人形使い(ドールマスター)とでも呼ぶべきか、クルジドのスパイは中々優秀だ」


「発端がリラビア人だとすれば我々の同盟関係にヒビを入れる事になります」

クロウリー大尉が深刻そうにそういう。コーヒーのマグカップを握り潰さんばかりに握りしめる


「そう、そこで君たちとは別ルートで私がその孤児院を調べた、敵の諜報員が君たちにかかりっきりでうまく調べられたよ」


「我々は囮だったんですか……聞いてないですよ」


「万が一、君たちの態度から敵に囮だとバレてしまっては意味がない、実際手足として動いていたハンターギルドは君たちにかかりっきりで無様な最後を遂げた、だからこそ伝えなかった」

そう言うとジャンヌ大佐は口元をナプキンでぬぐい、コーヒーを啜りだした


「大佐、何が分かったのか、教えてくださるのですか?」


「あぁ、だが時間が無い。諸君らはあそこに見える船に乗り、敵の工作員を探しだし、捕縛せよ」


「急ですな」

ルーマン軍曹が窓から船を見る。穀物や物資が満載されたドラム缶や木箱を船員が運び込んでいる


客船兼貨物船のこの船は客室フロア一階、貨物フロア二階の中型船、定員は二百名程だろう


「あぁ、初動は遅れたが、我々の仕事なんてそんなもんさ、さぁ、行ってくれ、大体の情報はこれに載せてある、行きながら読め、読んだら燃やせ」


「了解です」

二人は立ち上がると書類をかき集め、走り出した


そして三人分の食器が残された机でジャンヌ大佐は頭を抱えた


「さて、何気にこの任務、大日本皇国存亡の危機な訳だ、念の為予備プランを用意しとくか」

ジャンヌ大佐も同じく立ち上がった、その時気付いた


「あいつら、会計してねえじゃん……」













船のタラップを登る頃には報告書は読み終わり、二人は船内を早足で歩いていた


「クルジド国は改めてゲスの集まりだってことがわかった」


「ああ、同感だね」

クロウリー大尉の発言にルーマン軍曹は同意する


二人が読んだジャンヌ大佐の報告書、そこには()()()()()()()()()()()()()()可能性がある。という内容の報告があった


クルジドが手に入れた兵器はおそらく小箱に入る程度、その兵器をハンターギルドが孤児院に運んだ。荷物を受け取った管理人はなんらかの手段を使い孤児院の子供に兵器を渡し、彼は大日本皇国へ遠足という体で孤児院の関係者達を送り出し、マスドットリオの辺境に商人として向かい、道中で武器を入手、そして国境の村で命を落とし、その武器を訓練小隊が発見、ハンターギルドも約束の場所に現れない相手を探し当て、たまたま戦闘になったということだろう


「しかし、小箱に入る程度の武器って、どんな武器なんでしょう?」


「魔法なのは間違いない。炎の竜巻とか巨大な爆発が起こる魔法陣とか描かれたものが本土のあちこちで発動されたら大変なことになる」


大日本皇国は国内での魔法制限の為に渡航者全員に隷属の首輪の劣化コピー版を付けている


大日本皇国の軍大学の研究者がリディアビーズ皇女の隷属の首輪を無力化し、そのメカニズムが多角的に検証された結果、隷属の首輪と似て異なる物が開発され、これらを渡航者につけることにより、大日本皇国内での魔法の使用を全面的に禁止することに成功したのだ

解除も容易であり、後遺症などは今のところ確認されていない


だがそれらはあくまで本人の体内魔力を行使した魔法のみであり、素養のある者なら魔法陣などでの魔法は発現可能である

言うなれば隷属の首輪とは、魔法使いという水道管から魔力という溢れる水を抑える為の止水弁のようなものだろう

水道管が使えないのなら周りにある水、つまり空気中の魔素を使い、魔法を発現する事の対策はいまだにない


「おそらく敵の工作員は子供に紛れている、子供なら検査も緩いだろうし、大人よりも警戒され難い、うまい手を考えたものだ」

ルーマン軍曹が毛を逆立てる、獣人特有の怒りをあらわにする態度だ


「船を止めるのか?」


「いや、それよりも孤児院の子供を探し出して改めて身体検査をする。本土到着まで後四時間、孤児院の子供の数は?」

クロウリー大尉が辺りを見渡しながらルーマン軍曹に聞く


「えっと、三十二人」


「多いな、まずはあそこの子たちからだ」

クロウリー大尉は甲板の隅で海を眺めている五人組に歩み寄った

船には休暇を使い本土に帰る兵士も大勢いるため、クロウリー大尉達も自然と周りに溶け込んでいた


「君たち、海に落ちると危ないぞ」


「ごめんなさーい!」

以外と素直に言うことを聞いた子供達に視線を合わせるようにクロウリー大尉はしゃがんだ


「君たちいくつだい?」


「六歳!「よんッ!」」「七歳!」「ごっ!六歳です!」

子供受けするのかクロウリー大尉の質問に素直に答えてくれる子供達


「そうかそうか、皇国は楽しみ?」


「楽しみ!あのね!皇国でパフェっての食べるんだ!」


「食いしん坊だなお前!さっきオヤツのクッキー食べたばっかじゃん!」


「だってぇ!」


「ハッハッハッ!それはいい!ところで君たちはお金を持っているのかい?」


「うん!お手伝いして先生から貰ったの!」

子供達の手に握られているのは数枚の銅貨、皇国で換金しても百円にも満たない額だ


「そうか、じゃあ良い子の君達にはこれをあげよう、これからもお手伝いを欠かさないようにね」

そう言うとクロウリー大尉は一番年上の女の子にお札を一枚手渡した


「なにこれぇ?」


「紙?」


「キレーな絵!」


「これは皇国通貨、これだけあればみんなでパフェが食べられるよ」


「ほんとぉ!?」


「ほんとさ、これをみんなに配っているんだが、みんなは今どこに居るかな?」


「みんなはねぇ!今船探検してるの!」


「あたしたちはここでオヤツ食べておしゃべりしてたの!」


「なるほどね」

マットの上に広げられた干した果物やナッツが入ったクッキーを見て、クロウリー大尉はルーマン軍曹に目配せをする


「君たち、この人に見覚えあるかな?」


「これ孤児院の管理人さん!」


「フィゼおじいちゃん!」


「このクッキーもおじいちゃんが焼いてくれたの!」

子供達の無邪気な笑みを見ているとこの老人は本当に子供達に好かれていたのだろう。なぜその穏やかな生活を捨ててまでクルジド国に肩入れしたのか……


「この人から何か貰ってないかな?小さな木箱とか、何か」


「んーん?」


「クッキー以外貰ってないよ?」


「そうか、他の子は?」


「わかんない」


「そうか、みんなはどこを探検してるんだい?」


「多分お部屋の周り」


「でも、ザルディーがいるから、きっと下の階に行くよ」


「ザルディーって?」


「孤児院で一番年上の男の子なの」


「すっごく意地悪してくるんだよ!あたしのことからかったりするの!」


「太っちょで魔法も一番得意なの!ケンカも一番強いの!」


「そうか、わかったありがとう。お茶会を邪魔してごめんね、そろそろ僕は仕事に戻るよ」


「またねー!」


「ありがとう、兵隊さん!」

クロウリー大尉はその場を立ち去ると無線機に話しかける


「ルーマン、お前は船長に話をつけて客室フロアを捜索、俺は貨物フロアを探す」


《了解、既に話は通しました。探索を開始します》


「頼んだぜ」

人目が無いのを確認した後、腰に挿したベレッタに弾が入っているのを確認する













「これで、二十九人か、手こずるな」


「残る孤児は三人、後30分で本土だ」


「一人十分、隠された兵器らしきものはなにもありませんでしたし、どうしますか?」

ルーマン軍曹は疲れた顔をしている。その後ろにいる船員もだいぶ疲れている


「とにかく、捜索を続けろ。情報によると最後の三人ザルディーとジョゼ、サラザールの三人は悪戯坊主だそうだ、最下層の貨物フロアでかくれんぼしているらしい、何としても見つけ出すぞ!」

そういうと全員が駆け出した


貨物フロアには種類ごとに荷物の木箱やドラム缶が積み上げられている、とても広く、死角が多い


「どこだ?隠れていないで、出ておいで」

まるで自分が映画の悪役になったような気分で貨物フロアを歩く、無意識のうちに緊張する


(もし、もし仮にだ、敵の目的が本土ではなく()()()()兵器を発動するだとしたら、もうじきこの船は地獄になるってわけだ、何としてもそれだけは阻止しないと)

照明が故障した箇所にたどり着き、ベレッタのアンダーマウントに取り付けたフラッシュライトをつける


【穀物】や【塩】とかかれたドラム缶や木箱が映るばかりで孤児院の子供は一向に見つからない


「ちくしょう、何なんだマジで、早く帰りてぇ」

いけどもいけども闇しかない貨物フロアを歩き、探索する


「ッ!いた!」

探索していると木箱の隙間に蹲っている子供を見つけた


「君!ザルディー君だね、怪我はないかい!?一名発見!」

クロウリー大尉はザルディーに駆け寄る。お腹を押さえて苦しそうにしているザルディーへ


「どうしたんだい!?ザルディーくん、しっかり!こちらクロウリー、一名発見!」


「うぅ、は、腹が……痛い」


「腹?」

クロウリー大尉は思わずザルディーの腹を見る。肥満児童のようにお腹が膨れていた


「……待て、なんか、デカくないか?」

ジャンヌ大佐に渡された書類に入っていた孤児の名簿の顔写真を思い出す、ここまで大きくはなかった


「腹が痛いって、何か食ったのか?」


「く、クッキー……」


「クッキー?孤児院のオヤツのクッキーか?」

クロウリー大尉が差し出した水筒を断り、振り絞るようにそう言ったザルディー


「食中毒か、とにかく衛生兵を」

そう言った直後、ザルディーが()()()


恐怖に震えたとかではない。物理的に顔の皮膚が震えたのだ


「なんだと!?」


「うぅ、うっあ、あぁぁあああぁあああ!!!!?!!!?」

悲鳴をあげるザルディー、次の瞬間には口から何かが飛び出た


「くそぉ!?」

反射的に拳銃を乱射する。相手が子供とか言ってられなかった


飛び出てきたのは細い何かだった、鞭のようにしなり、液体が滴っている


「おい、これってクソッタレ!何で俺の行くところにコレがあるんだよ!」

フラッシュライトに照らされたその何かは、クロウリー大尉が以前、コロモクの森で戦った人造魔獣だった


そろそろ陰謀の答え合わせになります

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