報酬
「兵員は56名、全員の武装はアサルトライフル一丁、予備弾倉は一人四本、手榴弾は一人二発、それが基本装備です。そしてハンヴィーに車載の軽機が二丁と12.7mm重機関銃一丁、弾薬は機銃が五千発程、ちなみにトラックは言うまでもなく非武装です」
几帳面に部隊の概要を述べたベルトマン訓練兵長はタブレットを小脇に抱え、眉を顰めるリョホフスキー曹長を見た
「襲撃を一回凌げたら御の字、と言ったところか」
リョホフスキー曹長は腕を組み、指揮所の天井を見上げた
「増援の到着は明日、我が部隊は今夜をなんとか凌がないとならない。とりあえず、全員にカフェイン錠剤を配れ、それと弾薬と武器の再チェックだ、防衛線の進捗は?」
「村中央の集会場を中心に個人待避壕を構築、村の入り口と丘と森の境に有刺鉄線とセンサーマインの敷設が完了しました。航空戦力や戦車もないのに塹壕が必要なのですか?」
「魔法を侮るな。リバティ基地の戦友は皆、敵の炎魔法にやられていった、接近戦になったら銃火器のアドバンテージは無くなると思え」
「各員に再度通達します」
ベルトマン訓練兵長が生真面目にメモを取りながらうなづく
リョホフスキー曹長は村の航空地図を眺めながら頭を掻く
「敵がこちらの世界の住人に武器を流通させた味方だと仮定すると、やはり視察団が裏切り者か、あるいは……」
「訓練兵長、真犯人の陰謀を考えるのは後にしろ、なんであれ増援部隊は明日の朝、視察団は明後日到着だ、そしたら証拠品を引き渡して、俺らはまた辺境ドライブに戻る。生き残るのが、我々の仕事だ、いいな?」
「了解であります……」
「不満なら憲兵を志願するんだな、住民の避難は?」
「戦時緊急事態法に基づき、住民の皆さんはトラックに分譲してもらい、既に退避済みです」
「ならば、思いっきりやれるな、村の入り口に地雷と即席爆弾を仕掛けろ、家財道具でバリケードを作るんだ」
「了解です!」
「どうだ?村の様子は?」
「村にやってきた兵隊が武器を見つけたみたいだ、同志の無念を無駄にしないためには、我々が取り戻すぞ」
開拓村を双眼鏡で覗く人々、手にはリラビア国軍払い下げのボルトアクションライフルや弓矢や刀剣を持ち、格好はハンターや下級の労働者のように薄汚れている
「クルジドへ渡る前に、我々ハンターギルドが武器を奪還する」
「しかしギルドマスター、どうやってあの防衛網を突破するんで?」
「アイアンゴーレムを前にして奴らをすり潰す。ついでに奴らの装備も奪うぞ」
「村人はどうします?」
「全員殺せ、目撃されている可能性もあるからな」
ギルドマスターと呼ばれた男が杖を振ると土が独りでに持ち上がり人の形になり始めた
「操るのは一体が限界だ、頼むぞ」
「よぉし野郎ども!仕事の時間だ!やるぞ!」
彼らはハンターギルドの一員や戦争で儲け損なった傭兵崩れの集まり
大日本皇国によりもたらされた先進的な銃火器や火砲、鉄道網などといった技術により彼らはの多くは仕事を失ったのだ
魔獣はいとも容易く砲火に倒れ、生活の資材は大日本皇国が迅速に用意して運搬し、今までそう言った物事を担ってきたハンター達はあっという間に仕事を失い、リラビア魔法国からの保障だけでは日々を暮らしていくのは土台無理な話だった
真っ当な思考のハンター達は親類を頼り、他の仕事や兵士として再就職した、だがそのような当てもなく、過去の栄光を忘れられない一部の者は武器を手に取り、クルジドと裏で繋がる者も出てきた
彼らはその一例だ。戦争で仕事を失い、皇国軍の活躍により生活を失いつつあった
故に彼らは取り戻すのだ、昔の栄光を取り戻すために、かつての生活を取り戻すために、剣を持ち、銃を取ったのだ
そして彼らが手にしようとした最新兵器、それらは目の前にあった
アイアンゴーレムとは、野生の魔獣の中ではとても驚異的であり、希少性の高い魔獣であった
ゴーレムとは特殊な魔石を核とし、土塊が人の形を取った魔獣であり、アイアンゴーレムはその土塊に鉄鉱石が混じり、周辺環境や魔法により製鉄されたゴーレムの事である
強靭な防御力、そして3mを超える巨体から放たれる一撃は戦車も一撃で破壊する
そんな強敵が、この村へやってきたのだ
「クソクソクソッ!チクショウ!」
見屋井訓練二等兵がM249を乱射する。銃口が熱で真っ赤になり、ハンドガードからも煙を上げているがそれでも撃つのをやめなかった
「あのゴーレム、あの装甲ってひょっとして!」
「あぁ!くそったれ!ウチの戦車の装甲だろうよ!」
そう、敵が投入したアイアンゴーレムは、戦場で放棄された皇国軍の戦車の装甲を併用していた
土塊の身体を覆うように戦車装甲が貼り付けてあり、銃弾を全て弾いていた
「兵長!これまずいですよ!」
「分かってます!煙幕で足止め!ゴーレムの視界は術者の視界とリンクしてる!奴の目を潰せば時間が稼げる!」
ベルトマン訓練兵長は引き抜いたスモークグレネードを投げる
数条の煙の線が放物線を描き、乳白色の煙幕を展開した
それと同時にアイアンゴーレムの足が止まった。自らの足元を隠され、待ち伏せを警戒しての事だろう
「兵長!奴ら突っ込んできます!」
「近寄らせるな!各個射撃!」
剣や槍、MP40などで武装した敵が雄叫びと共に突っ込んできた
「近寄らせるな!西条!」
「あいよぉ!」
アイアンゴーレムに向けていたAG36グレネードランチャーを発射する
着弾した榴弾が爆発し、攻め寄せていた敵が吹き飛ぶ
だが敵も身体強化魔法を多用し、想定以上の速度で距離を詰めてくる
「爆破!」
ベルトマン訓練兵長の叫びと共にラッセルが起爆スイッチを押し込む
地面に仕掛けられたIEDや地雷が爆発し、接近していたハンターが大勢吹き飛んだ
「三班から後退!一班二班、支援射撃!」
「おさきッ!」
「おうよっ!」
見屋井訓練二等兵が軽機関銃を抱え、待避壕から飛び出す
それと同時にベルトマンや西条が正面へ制圧射撃を加えていく
「ゴーレムが動き始めました!」
宇佐美訓練二等兵が叫ぶ。その巨体の腕が煙幕を振り払い前進を開始していた
《こちら三班、予備地点に到達!》
「一班二班後退!三班援護射撃!」
その直後、ゴーレムの胴体に三班からのRPGが直撃、フラついて倒れた直後、一班二班がバリケードから飛び出した
後退した陣地は村の中央、村人の集会場があり、即席のバリケードや塹壕からなる防御陣地が敷かれている
(時間の都合上、ここまでしか防衛ラインを作れなかった、後は本部がある村長宅のみ、ここであのゴーレムを潰さないと!)
ベルトマン訓練兵長は塹壕に立て掛けられた携帯型対戦車榴弾を取り出す
「狙うべきは……頭ッ!」
立ち上がったゴーレムが足を振り上げ、機銃陣地の部隊が慌てて逃げ出す、揺れ動く頭に狙いを定めるも簡単に照準は合わせられない
「西条!宇佐美!命令です!」
「委員長!まさかここから飛び出てあのデカブツの気を引けとか言わないよね!?」
「俺たち同期でしょ!?まさかあだ名の事まだ怒ってる!?」
「うるさい!馬鹿2人はさっさとあのゴーレムの足を止めろ!私が奴にトドメを刺すから!」
「チクショウ!委員長の鬼、悪魔、隊長の鏡!」
「決めてくれよ、委員長!」
「委員長ってのやめろッ!なんでもいいから行け!やれ!あのデカブツの注意を引いて、動きを止めろ!全員援護射撃!」
西条と宇佐美の2人が飛び出すと同時に塹壕に伏せた全員が一斉に銃撃を敵に浴びせる
その支援射撃に支えられるように2人は駆け出し、壊滅した機銃陣地に滑り込んだ
「相棒どうする!?気を引くって言ってもよぉ!?」
「奴の目を潰す!その機銃で近づく奴を撃て!」
「おうとも!」
宇佐美が誰かが置いて行ったM249を拾い上げ、敵兵に機銃掃射を仕掛ける
「狙撃銃、どこかに狙撃銃ないか!?」
機銃陣地に放棄された様々な物品を漁る。空になったら故障した武器があるばかりだ
「くっそ!これしかないか!」
自分のG36に新しく見つけた弾倉を取り付ける
「俺は当たらない方に賭けるぜ」
「なんで当たる方に賭けないんだよ」
「射撃の成績、下から数えた方が早いだろ」
「そうだけどさぁ」
「死ねぇ!悪魔どもめぇ!」
その直後、塹壕に突撃をかけてきた敵兵を反射的に蜂の巣に変える
「クソっ!マジかよ!ジャムだ!このポンコツめ!」
ライフルを投げ捨て、のしかかってきた死体をどかす
「すまん、リロード中に抜けられた!」
「いいから手を動かせよ!」
死体をどかすと同時にそいつが銃剣をつけたライフルを持っている事に気づいた
「よっしゃ!鴨がネギ担いで来やがった!」
ボルトを操作し、弾丸を装填する
「その綺麗な顔を、吹っ飛ばしてやるぜぇ!」
「むっ?」
ギルドマスターは急に左の視界が消えた事に驚いた
古来よりゴーレムに対する対策は目潰し、間接破壊と限られてきた、故に対策も万全だが高火力を投射する皇国軍を前にアイアンゴーレムの装甲もガタが来ていた
それによりゴーレムの左目を撃ち抜かれたのだろう
「小癪な」
残された右目で左方向を見ると、掘り下げた塹壕に2人の青年がうずくまり、こちらへ中指立ててる姿が見えた
「死ね、侵略者どもめ」
「くらいなぁ!」
ベルトマンが放ったLAWがアイアンゴーレムの頭に命中。頭を粉々に吹き飛ばした
その運動エネルギーに導かれるまま、アイアンゴーレムは後ろへ倒れ、敵の兵士を大勢踏み潰した
「「やったぜぇぇぇえ!!!」」
2人が叫ぶと同時にベルトマンの突撃が合図された
「……うぐぅ、ここは……」
あの戦いに負けた後、増援の憲兵隊に捕まったギルドマスターは薬品を嗅がされ、気がついたらここにいた
「さて、コロモクのハンターギルドのギルドマスターさんは貴方かな?」
部屋のドアを開け、ひとりの憲兵大尉が入ってきた
「それであってる」
切り札のアイアンゴーレムを倒され、捕虜となったギルドマスターはあっけなく捕まった
そして応援として駆けつけた憲兵隊によって捕縛された
ギルドマスターの目の前に座ったのはクロウリー特務大尉。クロウリー大尉は机に写真を出した
「貴様らは武器を手に入れてどうする気だった?」
「ふん、高火力の武器があればなんとでもなる、だから何としても手に入れなければならないのだ」
ギルドマスターは写真を見る。本来なら自分たちが報酬として手に入れるはずだった武器の数々
「誰の手引きで武器を手に入れる手筈を?」
「はん、知るかよ、これはハンターとして正式な依頼をこなした報酬なんだよ、それを横取りしやがって、クソどもが」
「報酬?お前らが人殺し以外に仕事したのか?」
「ああ、そうさ。ちゃんと荷物を指定の場所に運んだ報酬さ」
「その内容は?」
「……まっ、この状況ならいいか、どうせ俺も長く無い」
頭を掻きむしり、あくびをするとギルドマスターはポツポツと話し始めた
「荷物の中身は知らん。小脇に抱えられるほどの小さな荷物だった。コロモクからガローツクンの孤児院へ運ぶ仕事だよ」
「子供の駄賃にしては報酬がデカイな」
「そうだな、きっとろくでもない陰謀の幕開けだろうさ」
ギルドマスターは腕を組むとニヤリと笑う
「そうか、情報提供感謝」
クロウリー大尉が引き抜いたワルサーPPKが一発、ギルドマスターの右目を撃ち抜いた
「孤児院、か……」
クロウリー大尉は部屋ー出て行く、外にいたゴールド中尉に目配せする
「撤収だ」
一言言うとクロウリー大尉がいた部屋の連結が外れる
仮設プレハブ小屋があっという間に分解されていく
深い森の奥、1人の老人の死体のみが残った
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