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第48訓練小隊、西へ

大器が創り出した軍事国家、大日本皇国


名前や国家体系、制度などは大器の生まれ故郷の日本をモデルに武装はEU経済連携国家群や中央アメリカ連邦国などの超大国をベースに構成されている


便宜上、玄武島は四国地方にある要塞島であり、ある日異世界に転移した事になっている


国民は総勢七万人、南北東に軍港があり楕円形の島の中心には円形に高速道路が走っており、その下には地下鉄、そして南西の二箇所には空軍基地がある

都市と都市の間には幹線道路(バイパス)が走っており、それ以外は鬱蒼とした木々が生い茂っている


島中に官民共用のドローン制御用のアンテナ設備が張り巡らされ、島内を歩く魔獣がいれば直ちに軍事ドローンが迎撃、空軍が訓練と称して実弾で仕留める日々が繰り返されている


総統官邸がある古木市、そこには国営の士官学校がある

陸海空の三軍において、初期に軍人として学ぶ心構えや基本的な事は多少の差異はあるが変わりはない。故に一から軍人を志す少年少女達はここで苦楽を共にし、勉学に励むのだ


そして基礎を履修した彼ら彼女らは揚陸艦に乗り込むとマスドットリオのクラーケン基地へ配属となり、いよいよ()()()()となる

ちなみに研修の行き先は陸海空軍のそれぞれで違い、陸海軍はクラーケン基地、空軍はロズワルト基地に所属となる


「さて、いよいよ戦場って思ってたけど、平和なもんだな」

マスドットリオから東に約70km、三台のハンヴィーと二台のトラックが疾走していた


クラーケン基地へ配属になった訓練兵は二百人、彼らは五十人ずつの小隊に分かれ、それぞれ五名が分隊として活動していた。そして彼らには近隣の村々といった軍事転用可能な用地の偵察や難民の支援に向かっていた


マスドットリオは奇襲攻撃によって手に入れた、いわゆる飛び地。元はクルジド国の海運能力の全てが集まる要所であり、クルジド国は隙さえあれば奪還を狙っているのは必定。その為人工衛星や偵察機では発見できない細かな変化を現場の兵士や憲兵が発見していくのだ


事実、クルジド国の浸透部隊の活動拠点等がいくつか強襲され、未然に侵略を防ぐ事態になった


「こっちは、めちゃくちゃ暇だけどねぇ」

助手席にもたれかかり、外の景色を眺めていた西条(さいじょう)二等訓練兵は呟いた


「最前線だってのに、暇でしょうがないや」

運転席の宇佐美(うさみ)二等訓練兵も同調する


「こら男子ども、下手にドンパチ無いのはいい事でしょ」

後部座席からそう声をあげるのはベルトマン訓練兵長、この分隊の暫定副官であり、ダークグリーンの目をしかめ、二人にそう言った


「そりゃそうだけどさ委員長、毎日毎日、おんなじ道をドライブじゃ、退屈だぜ。音楽でも掛けようや」


「ダメです!任務中は集中を乱す音楽は無し!規則は守る為にあるのよ!」

ベルトマン訓練兵長は至って真面目にそう言った


「委員長は相変わらずだなぁ」


「その委員長ってのも辞めなさい!」


「オメーらうるせぇな、機銃席からも聞こえるぞ」

後部座席から抗議の声を上げるベルトマン、そんなベルトマンの声に反応して上の機銃席から顔を覗かせたのはリョホフスキー曹長である


「曹長、車内BGMがわりのおふざけであります!」


「西条、いくらベルトマンがクソ真面目の頑固者でも、本人が嫌がってんだ、他のあだ名を考えてやれ」

内心リョホフスキーも延々と田舎道を走る中、音楽も無しだと無駄に疲れてしまう為、こうして見張りに当たり、風を浴び、イヤホンから音楽を聴いている、かの委員長は例え上官でも規則違反は見逃さないのである


「アイアンヘッドとか」


「鉄の壁なんてどうだ?」


「……曹長、訓練兵長の権限において、彼ら二名の昼食抜きを進言します」


「許可する」

その瞬間、凍りついたように固まり、運転してない西条がベルトマン訓練兵長を縋るように見る


「……村に着いたら覚えてなさいよ、失礼な男子共に女子のダイエットがどんなものか教えてやるわ」


「「すみませんでしたぁ!」」













マスドットリオには巨大な兵器廠が作られており、戦時は武器を、平時には様々な鉄製品がそこで作られていた

だがフォーリングストーン作戦でそのほとんどは焼失、その後の残党狩りやマスドットリオを取り戻そうとクルジド国の軍団が投入された結果、冶金に欠かせない燃料の薪を提供していた兵器廠背後の森は見事焼け野原になり、停戦後そこには道路が引かれ、最前線の国境までの道路が引かれた


その道路から走る事二時間、最前線の開拓村にたどり着いた


高低差50m程の小高い丘や山々に挟まれ、鬱蒼と生い茂る森と山の間の平野に作られたこの村はいずれマスドットリオから鉄道や高速道路が引かれる際の中継点として作られた村である


マスドットリオに無理矢理連れてこられた人々や近くに住んでいて戦災で住む場所を失った人々がリラビア国の援助の元、分散して暮らす一つの村である

クルジド側からしたら危険な魔獣が潜む森や山を避けて街道へ出る道の一つであり、中継点としても優良な位置にあった


リョホフスキー曹長とベルトマン訓練兵長が村長の元へ挨拶に向かい、隊員達はそれぞれトラックから救援物資を下ろし、配給の準備を始める


森での狩猟と畑を少しづつ開墾し、慎ましやかに生活している彼ら、当然植えてすぐに作物が育つはずもなく、生活が安定するまでこうして定期的に支援を受けながら生活しているのである


そんな中、昼飯抜きの二人はノコギリとハンマー片手に山に近い廃屋に来ていた

数日前、身寄りのない商人の老人が魔獣に襲われて死んでしまい、彼が滞在していた家を解体してほしいとのことだった


使えそうな家財道具は既に村人で分け合い、後は土壁を崩し、柱や屋根の藁を燃料として使いたい


「そんなの、自分たちでやれっての!」


「そうは言っても、村の若者見たろ?あの手じゃ斧は持てないだろ?」

この村の若者は男女一人づつ、うち一人の男性は左手が親指と人差し指しかなかった。マスドットリオで徴兵され、クルジド兵に暴行されたらしく、彼のような境遇の人は大勢いる


そうである以上、こう言った力のいる雑用は皇国兵やリラビア兵に回ってくるのが常である

ハンターギルドに労働として頼む例もあるが、皇国軍は基本金銭を要求しない為、現地では仕事を取られたハンター達とたまに揉め事になる


そして正規戦力にならない、しかし若く力のある兵士見習いが大陸中に実地研修として派遣され、大勢いるのだ、活用しない手はない


「くそったれ、こんなことなら、工兵を、志願するんだった!」


「なんでだよ?」


「解体用の工具が、経費で落ちる、からッ!」

バールを持った宇佐美が壁を崩していき、西条が廃材を担いで集積地へと持っていく

集積地に廃材を下ろすとそばにいた同年代の兵士に声をかけた


「なぁ、ラッセル、工兵用の解体道具は無いのか?このまま作業してたら、疲労骨折で後方送りになっちまうよ」

手頃な岩に腰掛け、無心でパソコンでタイピングしているラッセル二等訓練兵に話しかける西条


「全部貸し与えただろ?電動工具やショベルカーなんて、最前線にでも行かなきゃ無いよ」

彼も訓練兵で、戦闘工兵を志願していた


「全く、最先端兵器で異世界無双できると思って軍に入ったのに、この世の果みたいな僻地で土木作業とは、転職しようかなぁ」

隣に腰掛け、ラッセルのパソコンを興味本位で覗いてみる


「これ何?」


「さっきドローンで空撮した村の全体図、この村は山と密林に挟まれた長方形の形をしている、曹長の命令でこの村を守る際の防衛線の構築を命令されたのさ」


「何、ここにしばらく滞在するの?」


「そう、道路の建設作業員達が下見と防衛部隊の駐留地を決めるまで、この村に駐留することになる。一週間ぐらいだな」


「マジか、Wi-Fiも携帯の電波も無いこの僻地に一週間かぁ、辺獄ってこういうことなのかな」


「それに加えて君らには労働刑も課せられそうだけどね、多分このままだと塹壕掘りもやらされるよ」


「このままじゃ地獄の餓鬼より痩せちまうよ、くそったれ」


「本人の前で委員長をからかうからだよ」

そういうとラッセルは動画サイトのページを開いた


「アレ、ネット繋がるの?」


「末端の訓練兵とはいえ、工兵なら本国とのVPNが使える、陣地構築の設計図の見本は本国のサーバーにしか無いし、最低限、隊長クラスは通信は確保しないとね」


「……やっぱ工兵に転科しようかな」


「退役後も使えそうな資格が多いし、工兵はいいぞ」

誘惑に負けそうになる西条だったが、それをなんとか振り切り、立ち上がった


「ネットが使いたくなったら、借りていい?」


「……チョコレート一枚でいいぞ」


「ありがとうよ」

そういうと再び解体作業へと戻った


「遅かったな、道に迷ったのかと思ったぜ」

西条が戻ると廃材の山に腰掛け、タバコを吸ってる宇佐美がそう言った


「すまんな」

そういうと西条は再びバールを持ち、反対の壁に向かった

その直後、右足が床を踏み抜き、西条は見事舌を噛んだ


「……プッ、アッハハハハハ!!!なんだそりゃ!コントかよ!アッハハハハハ!!」


「うるせぇ!」

穴から這い上がり、右足を労る西条


「全く、地雷とかじゃなくてよかったなぁ。クックックッ」


「くっそぉ、こんなボロ屋、爆撃の的にすりゃ一発なのに……」


「そうだな、その穴目掛けて落として貰えば、一撃だろうよ」


「ああ、そうだな…ん?」

忌々しそうに穴を見ていた西条は穴の中に何かあるのを見つけた


「どうした?不発弾でもあったか?ならそれを使って仕事を効率化しよう。こんなボロ屋、月まで吹っ飛ばして、余った時間は鹿でも狩って昼飯メシにしようや」


「いや、それよりもっと安全だけど、めんどくさそうだ」

踏み抜いた床板をバールで外し、床底から木箱を取り出した


「なんだそりゃ?」


「さてな、でもすごく見慣れたマークがある辺り、きな臭い臭いがプンプンするぞ」

木箱をバールでこじ開けると、中にはおが屑と共に訓練学校でよく見たG36cや MG3、M4カービンといった様々な銃火器が詰まっていた


「なんで皇国軍の刻印がされた木箱に俺たちの銃火器が大量に詰まっているんだ?」















「武器の横領、曹長、早急に報告するべきです!」

村の一角、指揮者のテントで西条と宇佐美の報告を受けたリョホフスキー曹長とベルトマン訓練兵長が話し合っていた


「勿論だ、ベルトマン、するにしてもまずは村人に事情聴取してからだ、もしかしたらこの村は敵国の密輸拠点の恐れもある、聴取は最低でも二人組で、完全武装の上で向かわせろ、武器の報告は俺がしとく」

仮設指揮所が出来上がってないので、牽引式の通信指揮車の中で、リョホフスキー曹長は言った


「見つけた武器は、どうしますか?」


「写真と映像は撮ったんだよな、なら目印をつけて、保管しておけ、歩哨は発見者の二人に一任、この件には箝口令をしく。目撃者は他者への他言を禁ずる」


「「ハイッ!了解です!」」

西条と宇佐美は元気よく敬礼した。その目には重労働から解放された喜びに満ちていた


「ラッセル、防衛線構築図を急げ、もしかしたらその武器を埋めた奴らが取り返しにやってくるかもしれん」


「はい、大まかには出来ましたので、後は曹長殿の許可と人員さえ頂ければ、すぐにでも」


「頼む、明日から始めてくれ。必要人員の見積もりも出してくれ」


「了解です」


「見つけた武器は集積所に持っていけ、他と区別出来る様に目印をつけるんだぞ」


「わかりました!」

各々の仕事に取り掛かる兵士見習い達と対照的にリョホフスキー曹長はパイプ椅子に腰掛けた


(こんな僻地に武器を隠すのはカモフラージュとしの理由からわかる。だが元の持ち主である老人は何故死んだんだ?不慮の事故か、それとも口封じか。どちらにせよ、この証拠を回収しにくる厄介な奴らがいるはずだ)

首から吊るした十字架を無意識のうちに撫でる


(回収に来るのはおそらく武器の供給元、つまり味方の可能性が高い、となると)

左腕に取り付けた端末を操作し、スケジュール表を確認する。三日後に予定されている道路建設の視察部隊の欄だった


皆さま、新年あけましておめでとうございます(激遅)


どうも年末から仕事とモチベーションの低下のせいで投稿遅くなりました


今後も仕事が忙しくなるのでしばらく投稿は不可能だと思いますが、今年もどうぞよろしくお願いいたします

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