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時代の終わり

光皇直属鎮定軍 本陣


光皇派の本陣、首都たるモロビ国への最後の護り手たる彼らの本陣は現在、侃侃諤諤の議論が交わされていた


「降伏はあり得ぬッ!光皇様が座す光都を、むざむざ敵に渡すのは末代までの恥ッ!我ら武人なれば、戦ってその忠義を示すべきだッ!」


「ふざけるのも大概にしろッ!敵勢は数五万!オマケにあまたの国を落としてきた鉄砲と大筒があるのだ!我らに叶うはずがない!、ここは光皇様を安全な場所に逃すのが先決だ!」

主に二つの意見に分かれていた。光皇と共に安全な場所へ下がるか、この場で戦い、決着をつけるかの二択だ


この場合は前者の方が理性的でもあった。刈り入れが終わり、足元が安定した田園地帯とはいえ、遮蔽物も罠を仕掛ける時間もなく、だだっ広い平野では数に押しつぶされるのみである


しかし光都を捨ててもこの先のアテが無いのもまた事実。無策に逃げまわっていては勝てる戦も勝てない


光皇直属鎮定軍の総大将であるタモノは頭を悩ませた。撤退か、徹底抗戦か


ふと、タモノが視線を上げると陣幕の隅に二人の美女がいた


ムルテウ人が着る着物とは趣きの違う軍服。一人は手にした鉄の水筒から酒をチビチビと飲み、もう一人はマブニ国の第三皇女、ハッシェルの娘というリディアビーズ殿の二人だ

昨日、空飛ぶ奇怪なカラクリに乗り、マブニ国を治めるジャロワーム殿の親書を携えて光都に現れた彼らは光皇様の元へ押し掛け登城し、次の日には彼らの手勢を空から連れ、我らと共に戦うようにという光皇様の(みことのり)を持ってきたのだ


(彼らの配置、まるで我々を後ろから見張るような布陣だ。幅広く一列に並び、逃げ出した我らを討ち倒すような……まさかな)

海の向こうからやってきたとはいえ、クルジド国とは敵対する違う国だと聞いている。ジャロワーム殿の親書や会談の内容は分からないがこちらの助太刀だという事は聞いていた


彼らは腰から吊るした懐中時計をチラチラと確認し、時折耳打ちをしていた


(なにかを待っている、秘策があるのか?)

猛威を振るう鉄砲をもたらした外つ国(クルジド)。同じ外つ国(リラビア)である彼らはどのような隠し球があるのか


「リディアビーズ殿、貴殿の意見を聞きたく思う」

タモノはリディアビーズと自然と目が合っていた。魔力が無い悪魔族たる彼からしたら魅了の力を振りまく彼女の威圧感は尋常では無い

それはこの陣幕にいるほぼ全ての将に通じており、ムルテウでは比較的地位の低い女性二人でありながら百戦錬磨の武将達を震え上がらせる彼女達が軍議に参加できる理由がこれだった


「発言の機会をいただきありがとうございます。実は我々の軍勢は既に攻撃の準備が整っており、後は皆さまが巻き込まれないよう、我らの攻撃が終わり次第、敵にトドメを刺してもらいたく、存じ上げます」


「ほぅ、まるであの程度の軍勢は簡単に蹴散らせてそのトドメを我らに譲ってやる、と聞こえますが」

タモノが額に青筋を浮かべながらそういった。彼にも武将としてのプライドがある。彼以外の武将も同じようだ

まるで節操のない子供をあやして何から何までお膳立てするようだ。タモノや武将達はそう感じた


「貴様ら、我らを愚弄するか!」


「外つ国の使者だからとつけあがりおって!」

恐怖が転じて怒りになったようだ、中には腰に下げた刀の鯉口を切るものもある


「誤解されないでください、皆さま。我らの実力でできるのはあくまで敵の軍勢に打撃を与えるのみ。敵にトドメを刺すのはあなた方にしかできないのです」

護衛と思しき酒臭い女が太腿に吊るした小さな鉄砲を構えるがリディアビーズが下ろさせ、そう言った


「では、どう敵前衛を打ち払うのだ、申してみよッ!」


「口で説明するのは難しいのですが、実際に我らに前衛の露払いをやらせてもらいたく、その後はあなた方にお願い致したく、我らはこうして参ったのです」

そう頭を下げるリディアビーズ。皇女とは思えないほど腰が低く、自ら大将首たる敵本隊の撃破の手柄を譲ってきた


「その言葉、女子とはいえど、二言はないな」

訝しみながらタモノはリディアビーズを睨む


「はい」

そういうとタモノは頷いた


「では、リディアビーズ殿、あなた方の軍勢を用いて敵前衛三万を撃滅して参れ。失礼ながら余所者たる貴殿らの話に耳を傾けるには百の言葉より一つの行動が必要なのだ」


「必ず、討ち取って見せましょう」

そう言い、頭を下げるリディアビーズは早速護衛から受け取った小さな箱に話しかけ始めた


「全航空部隊へ通達。攻撃開始、攻撃開始」























《アヴェンジャー1より、小隊各機。ブリーフィング通りだ、やれ》

リットリオ中尉が指示すると同時にF/A18に搭載されたクラスター爆弾が切り離され、革新護国党の隊列に降り注いだ


分離したクラスター爆弾は整然と整列し、行進に備えていた戦列歩兵に満遍なく降り注ぎ、炸裂した

爆発によって撒き散らされた鉄片やワイヤーは鎧を軽々と貫き、有り余る運動エネルギーが甲冑武者の体内を切り裂き、大勢に致命傷を与えていった


《アヴェンジャーよりゲームマスターへ、爆撃の効果大なり、なれど残敵多数、第二次攻撃を要請する》


《了解、パピヨン隊、第二次攻撃開始》


《了解、パピヨン1より小隊、突撃!》

短い無線のやり取りが終わり、次の航空攻撃が始まった


次々と叩き込まれるクラスター爆弾が戦列歩兵をバラバラの肉片に変え、空へと打ち上げる


《ゲームマスター、こちらパピヨン4、後方の敵砲兵列が砲撃を開始した、こちらを狙っている模様》


《了解した、ハニービー小隊、敵砲兵列を攻撃せよ》

大人しくしてれば、長生きできたものを……そんなことを一瞬だけ考え、リットリオ中尉は再び制空権確保の任務に意識を裂く

リットリオ中尉は正直この任務が気に入らなかった。敵はクルジド国と同じ生まれて間もない戦列歩兵、対空兵器の概念もなく、ドラゴンを乗り回している者もいないこの軍勢相手に制空権確保の意味があるのだろうか


《中尉、空戦が恋しいですか?》


《エル伍長、恋しいに決まってるだろ。じゃなきゃ給料泥棒と謗られるぞ》


《中尉が空戦ジャンキーなのは構いませんが、せめて次は命令違反じゃない程度にしてくださいね》


《へいへい》




















地上を舐めるように、低空を飛翔したハヴォックは30mmチェーンガンを砲兵段列に叩き込んでいった


人の頭が入りそうなほど大きな青銅製の大砲に弾を詰め込んでいた砲兵が機銃掃射により粉微塵に弾け飛ぶ。空からの攻撃なんて想定すらしてなかった革新護国党の兵士たちは無駄にその命を散らしていった

大砲自体も機銃掃射を喰らうと砲身自体が飴細工のようにグニャリとへしまがり、大穴を開けられ、再起不能の鉄屑に成り果てていった


《魔法も飛んでこなければ矢も飛んでこない。ドラゴンもいなければ大砲は仰角が足りず、マスケットではまず射程と技術が足りていない》


《ワンサイドゲーム、ですね。クルジド国と違うのは、地平線まで敵軍が続いてるとかじゃないってとこですかね》

バーガー中尉は操縦席から眼下を眺めながら魔法もバリスタも飛んでこない戦場を悠々と飛び、最適な射撃位置に着く


《アレが最後の砲ですね》

砲兵はとっくに逃げ出し、大砲のみがポツンと残されている

ガンナー席のベーラ少尉は30mmチェーンガンの照準を合わせ、トリガーを引く

チェーンガンの射撃は辺りの地面を掘り返す勢いで炸裂し、大砲を粉砕した


《こちらハニービー1、敵砲兵段列を撃破。次の指示をこう》


《ハニービー、弾薬がある限り敵前衛を攻撃せよ、無くなり次第帰投せよ》


《了解、少尉やるぞ》


《ラジャー》

ベーラ少尉は照準を敵方陣に定め、ハイドラを発射する

2m四方の方陣は着弾した6発のハイドラだけで壊滅した。今まで圧倒的な勝利を治め続け負け知らずの革新護国党の軍隊。しかし未知の物体による想定してない空からの圧倒的な攻撃、士気はとっくに壊滅していた


ふと、バーガー中尉は敵軍勢の奥地に四方を布で囲われた敵の陣地を発見した


《ベーラ少尉、十時の方向、敵の陣地だ、おそらく司令部だ》


《やりますか?》


《取っといたTOWを叩き込んでやれ》


《ラジャー》

その指示を受け取ったベーラ少尉は照準装置を覗き込み、最後の1発になったTOWミサイルを撃つ

有線操作のTOWミサイルは真っ直ぐに、ベーラ少尉の繊細な操作で若干軌道を修正しながら最後には陣幕のど真ん中に命中した


《命中確認》


《こちらでも確認しました。中尉、ぼちぼち弾切れです》


《予定通りだな、ハニービー各機、離脱行動に入れ、補給の後、再出撃に備えよ》





















「なんだ、これは……」

セタント将軍は呆然と辺りを見渡した


先鋒の三万の歩兵達は敵の抵抗を受けることなく射撃位置に着いた

光皇派の放つ矢や魔法はお互いに魔法で無力化しつつ、銃兵の射程距離まで詰め、銃と砲兵の斉射で敵の陣形が崩れたところをセタント将軍率いる槍騎兵が蹂躙する

今までは銃兵の斉射で敵が総崩れになり、逃げ惑う敵を追いかけて始末する、そんな戦場ばかりで久々に敵と斬り結べるかと期待していたセタント将軍だったが現実はどうか

敵方から空飛ぶ何かが空から何かを落とした。それらが分裂し、地面に落ちると同時に爆発。煙の向こうからは大勢が呻く声と濃密な血の臭いしかしなかった


前衛の銃兵や斬り込む突撃銃兵、大楯兵などは軒並み全滅。密集体型をとっても敵は空から来るので敵の手間を省くような形になってしまった


それだけじゃない。後方に控えた砲兵段列、更にはつい数時間前にジグルドと軍議をした本陣の方からも黒煙が上がっていた


「伝令ぇーッ!セタント将軍は何処ですかぁー!?」


「ここだぁーッ!」

馬に跨った伝令兵がこちらへ走り寄り、余程急ぎなのか馬上から伝えてきた


「将軍!後衛軍のオルロフ殿の軍より参りました!敵の空飛ぶ珍妙な竜の攻撃により、ジグルド将軍が死亡!」


「なんだとッ!?」


「オルロフ殿が指示を求めています、攻勢か、撤退か、どちらですか!?」

反乱を起こす前は一国を守る将軍であり、猛将と謳われたセタント将軍の決断は早かった


「前進だ!あの空飛ぶ竜が戻ってくる前に敵の地上軍を食い破り、光都に肉薄する!オルロフに伝えろッ!死にたくなければ光都に入り、光皇に剣を突きつけるしか方法は無いとッ!」


「しかと聞きました!ではそれがしはこれにてッ!ハァッ!」

再び馬で駆け出した伝令兵の背中からすぐに視線を外し、深呼吸する

近くでうずくまっている兵士の頭を掴む


「おい、お前ッ!」


「は、はいっ!」


「旗手をやれッ!コイツを振り回せ!」


「わ、わかりました!」

そういうとその兵士は大きく、勇ましく軍旗を振り回し始めた


「動ける者は旗の元に集い、立ち上がれ!我はセタント!これより敵陣に突撃する!武器を持て!気を奮い立たせよッ!全軍突撃ぃ!」

かろうじで生き残った兵士たちが立ち上がり、前進を開始した直後






















《全車、砲撃開始》

マドリーヌ中佐の指示と共に、三十六両のⅥ号戦車(ティーガー)が一斉に砲撃し始めた


発射された砲弾は怯え竦む光都軍の頭上を飛びこし、突撃を開始した敵軍勢に着弾した


《命中、各車自由射撃》

ハンケイル大尉は身体をキューポラーから出し、断続的に叩き込まれる8.8cm砲の榴弾が炸裂し、乱れる陣形を眺め、車内に戻る


「次弾左三度、仰角15度、旗を振り回してる奴に当てろ、用意出来次第撃て」


「ラジャー」

砲手がそう呟き、装填手が新しい榴弾を取り出す


「味方は、ようやくか」

ハンケイル大尉の視線の先では光皇派の軍勢が隊列を整えていた

騎兵の馬や兵士達が怯えているが、ようやくなだめおわり、いよいよ崩壊した敵陣に突撃するようだ


《全車、撃ち方止め》

マドリーヌ中佐の指示が入った直後、ハンケイル大尉の車輌の砲が火を吹き、目標の旗手を吹き飛ばした


「おい、全員出てこい。面白い物が観れるぞ」

そういうとそれぞれのハッチから乗組員が顔を覗かせる


眼下ではまさに何万人もの兵士が今まさに衝突しようとしていた


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