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三つの国、四つの勢力

外交団はマブニ国の中心的役割を果たす都市、ジャロワームにやってきた


領主自らの名を冠するこの都市はやや歪な正方形をした都市であり、中央には石人族が得意とする粘土を焼き上げた瓦葺きの屋根を用いた城郭、水堀を挟み、そこから城下町が碁盤の目のように細分化されて建てられていた


一行はリディアビーズ皇女と護衛にマリー曹長とミゼット中尉の二人が入り、他はお城の中、堀を渡った先で待機となった


リディアビーズ皇女と二人の護衛はジャロワームの元へ向かう最中、ここまで案内してくれたジャロワームの娘から最低限の礼儀作法を聞き、会合へと臨んだ


部屋、というよりは広間に入り、リディアビーズ皇女は広間の真ん中を歩く

広間の端には大勢の文官や武官がおり、三人を品定めするような視線で睨み付けていた


「あれが、外つ国の……」


「三十年前に飛び出していったあの奇天烈姫の娘……」


「まるで生写しではないか……」


「あの身から溢れる魅了の呪い、先代姫より強い。おぉ、くわばらくわばら……」

口元を扇や扇子で隠し、隣の者とヒソヒソと話す


いい気分はしないが、もはや慣れた陰口であり、リディアビーズ皇女は気にも留めない。ミゼットとマリーの二人はリディアビーズが中央に着いたと同時に両脇に控え、そのまま膝をつく


そしてリディアビーズは頭を下げる


「面をあげよ」

そう声がかかり、リディアビーズは顔を上げた


目の前にいるのは灰色がかった髪をツーブロック目に刈り上げた美丈夫の男性だ

年齢は中年層だろうか、シワの刻まれた顔に整えられた口髭、威厳と年相応の凛々しさを備えた男性である


彼こそこのマブニ国を治める領主のジャロワーム、リディアビーズ皇女の母、ハッシェル女王の父親でもあった


「うむ、我が娘のハッシェルによう似ておる。初めまして、というのに違和感を覚える」

ジャロワームは初めて見た孫娘の姿に目を細める。対するリディアビーズ皇女も若干緊張を解される


「ですが、挨拶はさせてください。初めまして、私はリラビア魔法国の王、アークハルト王の第一后たる、ハッシェル王妃の第一子、リディアビーズと申します」


「そうかそうか、私はジャロワーム。このムルテウを治める光皇陛下よりマブニの地を任される領主である」

そう挨拶するとジャロワームはリディアビーズと護衛二人に座るように勧めた


だが生憎三人は正座という文化に疎く、足を横に崩す、女の子座りのような体制になったがジャロワームはさほど気にしてはいなかった


「まずは長旅お疲れのところ、我が国の民草を助けてくださり、感謝いたす」


「いえ、人として当然のことです。それにクルジド国の蛮行には、我が国も散々苦渋を飲まされ来ましたので」


「海向こうの貴国でもかのクルジドは蛮行に行っていたのか」


「はい。ハッシェル王妃の元、国民が団結し、同盟国たる大日本皇国の助けもあり、なんとか休戦するに至りました」

その言葉を聞き、背後からざわめきが漏れた


その言葉を聞き、ジャロワームは目を閉じて唸った


「なるほど、その甲斐あり、我が国へ友好大使として参ったと。それはなんとも重畳」

ジャロワームは膝を叩き、リディアビーズを見た


「して、我が国へは友好以外に何を求めてきた?腹を割って言うなれば、我が国には一刻の猶予もない。余りまわりくどく来られても困るのだ」


「はい、では分かりやすくいきましょう。クルジド国をこの大陸に釘付けにしたく、参りました」

リディアビーズの発言に広間はさらなるざわめきに満たされた


だがここまでは計算の内である。問題はここから先、ジャロワームがリディアビーズの戦術に理解を示してくれるか否かである


「ふむ、どういうことかね?事と次第によっては孫娘とはいえど、容赦せぬぞ?」


「はい、まずはこちらをご覧ください」

リディアビーズはポケットから小さな器具を取り出した。見た目は化粧コンパクトのような小さな円形の機器。しかし床に置き、スイッチを入れると空中に映像が投影された

これは大日本皇国で開発されたポケットサイズの持ち運べる映像投影機である。空中に三次元の立体映像を投影することができる機器であり、WWCのゲーム内では惑星を破壊できる兵器の設計図がこれに入れられ、プレイヤー同士で奪い合うミッションがあるほどには日常的なアイテムである


部屋に人々のどよめきが溢れ、リディアビーズは淡々と解説を始めた


「これはマブニ国の海岸線を遥か上空から撮影した映像です」


「なんと……」


「クルジド国の船団はご覧のように数が多く、上陸の手段さえ整って仕舞えば大勢の軍勢に押し潰されるのは火を見るより明らかです」

リディアビーズの言葉に誰もが唸る他ない。投影機にも驚いたが何よりも初めて知った敵軍の全貌を目の当たりにした驚きの方が多かった


「船団の数から推察するに、敵軍はおおよそ六十万、クルジド本国ではまだまだ軍船の増産が進んでおります」


「六十万ですとッ!?」


「バカな!?」

ざわめきは大きくなる一方だ。対するリディアビーズは淡々とプレゼンを進める


「この数を上回ることはあれど、これより減ることはありません。そして私がここへ来たのもこれが理由です」


「……つまり、この六十万を我がムルテウに引き付けさせ、その先にリラビアの力を蓄えると、そういうことか?」


「御慧眼です、ジャロワーム様。我が国とクルジドは表面上は停戦中です。クルジド国はこちらへ全戦力を投じると思われます。我らはその隙に力を蓄え、なおかつこのムルテウが落とされないように支援をして行きたく思います」


「ふぅむ、なるほど、言いたいことはわかった」

そういうとジャロワームは目を閉じ、考え込む


「どうか、ジャロワーム様にはその助力をお願い致したく思います。具体的には同盟を組み、我らを受け入れて欲しいのです」


「…………」

眉間にシワを寄せるジャロワーム。リディアビーズも真剣な表情でジャロワームを見る


「……リディアビーズ殿、貴殿はムルテウの現状をご存知か?」


「お恥ずかしながら、大雑把にしか。なんでも光皇派と反光皇派の争いになっているとか」


ムルテウには元々光皇という役職があった


複数の国に分かれる前のムルテウを統一した王朝の末裔であり、権力を失いこそしたがその影響力は大きく、ムルテウ団結のキーパーソンこそ光皇という存在である

対する反光皇派はその光皇の影響力を廃止して、新たな統一政権を興そうとする派閥である

反光皇派が反旗を掲げる前は複数の領主が光皇の統制のもと、平穏な統治をしていたが、クルジド国の侵攻とともに反光皇派は一挙に反旗を翻し、今までの平和を嘲笑うように各地で争いが起こり、群雄割拠の時代へと突入したのである


「我がマブニ国は代々外つ国との窓口、光皇様からは大変よくしてもらっている。その恩義に報いる我らは光皇派と言えよう。しかし我が国は現在クルジド国との戦にあり、光皇様へのご助力ができぬのだ」


「それは…心中察します」


「そして反光皇派だが、各地の光皇派の領主や武将を倒し、とうとう光皇様の座す光都に兵を進めているとの情報が入っておる」


「それは、初耳です」

リディアビーズの後ろからもざわめきが聞こえる。おそらく情報統制していたのだろう


「反光皇派の者たちはクルジドと繋がり、奴らの武器を持ってして光皇様に牙を剥く腹積りだ。蛮国に尻尾を張る裏切り者どもに、ワシは断じて屈しない!」

ジャロワームはそういうとリディアビーズに向き合う


「リディアビーズ殿、ワシは貴殿の策に乗ることにする!ワシに出来る範囲でなら其方らの要望も聞こう!ただし、一つ条件がある!」


「条件、とは?」


「反光皇派は現在軍を一纏めにし、難攻不落の光都を一挙に攻め落とそうとしておる。最悪の事態になる前に、せめて光皇陛下だけでもお救いしてもらいたい」

一国を預かる領主らしく、あくまでも対等だと言わんばかりの態度、しかしリディアビーズ皇女はこれに応えた


「それで良ければ、わかりました。色良い返事が貰えるように掛け合ってみましょう」
























ムルテウ大陸派遣艦隊

旗艦神州丸 第二会議室


「さて、諸君」

作戦参謀のアメリア少佐が口からタバコの紫煙を吐きながら口を開いた


「諸君らも出撃が今か今かと待ちわびていただろう。喜べ、出撃だ」

その言葉に会議室がざわめいた。嬉しいような悲しいような、リアクションは半々だ


「展開場所はここ。ムルテウ大陸の真ん中モロビ国の首都、通称光都から約15km地点の平野部、ここに機甲部隊を展開する」

アメリア少佐が示したのは日本列島でいう所の東海地方、岐阜や静岡の県境とでもいうべき位置だった


そこは広大な田園地帯となっており、遮る物は何も無い

今の季節は冬に近い、稲は殆ど刈り尽くされており、茶色い地面の土が見えている


「この平野部の切れ目、南へ20kmほどの地点に小さな農村があるが、そこに今回の敵が密集してる、諸君らはこの敵に攻撃してもらうことになった」

そういうとアメリア少佐はスクリーンに平野部の地図を出し、展開図を説明していく


「作戦は空と陸からの同時攻撃だ。戦車隊の空輸が完了し、展開が完了次第、ハヴォックからの攻撃支援で敵を釘付けにする、そこへ戦車隊が遠くから撃ちまくって現地の軍隊が最後に蹂躙。簡単だろ?」

おおよそ作戦とも呼べないほどの雑な説明。しかし敵の武装は火縄銃や刀剣類。魔法があるとはいえ、こちらは第二次大戦では最強と言われたティーガー戦車やM3ブラッドレーなどを中心とした機甲部隊と空から破壊を振りまく戦闘ヘリ、砂遊びにショベルカーを使うような過剰戦力とも言えた


「敵の装備の規模はどれくらいですか?」

ハンケイル大尉が手を上げた。投影された地図には歩兵十万としか書かれてない


「正確な分析がまだされてなくてな、だが敵の騎兵は多くて二万、マスケット銃を持った者が一万弱、後は槍兵だけだ。主に悪魔族や人間で構成された軍隊で、魔法は、まぁ余り考えなくても良いだろう、現地の情報によるとそれほどの使い手はいないとのことだ」


「マジかよ、艦載のトマホークがあれば俺たち出る必要なくね?」


「トマホークには別の使い道がある。後もう一つ注意事項がある、大事なやつだ」

アメリア少佐がタバコを灰皿に押しつけ、会議室を見渡す


「姿を大っぴらに見られるな。敵が3km圏内に来たら直ちに後退し、撤収だ」


「理由は?」

手を上げたのは航空隊のラルストン大尉。F16を乗りこなし、防空対地攻撃、何でもこなすオールラウンダーでもある


「我々はクルジド国と停戦中なのだ。そのクルジド国の息がかかった手下を表立って殺すわけにはいかないだろ」


「ごもっともでした」


「最も最初の爆撃と戦闘ヘリの攻撃で敵の戦意を挫ければ勝ったも同然。後は戦車隊の支援の元、現地の軍隊が敵を押し潰すわけだ、我々は今回表に出ない戦いをするわけだ、主旨はわかったな?」


「では、我々攻撃ヘリはどこにいれば良いですか?」

そこで手を上げたのはバーガー大尉だ


「攻撃ヘリは敵の伏兵を排除しつつ、敵本隊を攻撃してもらいたい。UAVや衛星で捜査するが、戦車隊の空中直庵についてもらい、見つけ次第粉微塵にしてやれ」


「了解しました」


「では作戦開始といこう。連中を地獄の底に叩き落としてやれ」

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