それは何処かテンプレのような
《ハミングバードよりブラックバードへ、降下予定地点に到着。敵影どころか、魔獣の姿も無し》
《ブラックバード了解、ハニービー、そちらはどうだ?》
《目視では敵影確認できず、熱源センサーにも影は無し》
《よし、ブラックバード2から降下開始。降下地点を確保しろ》
《コピー》
M2ブラッドレーを吊るしたオスプレイがゆっくりと高度を下げ、ブラッドレーが地上に足をつけると吊るしていたワイヤーを切断し、ブラッドレーを地上に下ろした
それに倣い、他のオスプレイやブラックホークも兵員や車両を次々と下ろしていく
降下地点は目標の廃村から10kmほど離れた草原。辺りは開けており、目立った敵影も見えない
《地上部隊へ、ブラックバード1が降下する》
その無線と共にオスプレイが一機、降り立ち、ミゼット中尉の部隊に守られたリディアビーズ皇女が出てくる
「ジョーカーが車に乗った」
ミゼット中尉が無線にそういうと車列が進み始めた
人が踏み締めて作った田舎道を6台のハンヴィーと4台のブラッドレーが疾走する。その上空にはハヴォックが二機、隊を後ろから見下ろすように飛んでいる
「曹長、この先は廃村なんですよね?どんな所なんですか?」
ディジー伍長がハンヴィーのハンドルを握りながら助手席に座るマリー曹長に聞いた
「私もチラッと衛星画像を見ただけだけど、真ん中に細い川が流れていて、その両脇に木造の家が並んでいたわ」
「へぇー」
「家の数からして百人程が住んでいたはずと言われているが、実際はどうだか」
「衛星でわからないんですか?」
「万能じゃないのよ。昨日はあそこにあった物が隣に動いてるとかわかりやすければ良いんだけど、宇宙から見てもわかるほど目立った痕跡が無いと人がいるってならないでしょ」
「どっちにしろ行ってみんとわからんって事ですね」
「皇女様、悪魔族の人とはどのような人なのですか?」
ふと気になったのか、ミゼット中尉がリディアビーズに尋ねた
「私も今までで一人、吟遊詩人をやってる悪魔族の人しか会ったことありませんから詳しくないですが、話通り、温厚な人々だと聞いてます」
「皇女様でも会ったこと無いのですね?」
「はい、クルジド国が宣戦布告してからは玄関口になっていたマスドットリオや他の国々は滅ぼされ、ホロメス中の悪魔族の人々はこぞってムルテウに戻ってしまいましたから」
「何故危険を冒してまで戻るんです?」
「郷土愛は強いのだと聞いたことあります。同じ大陸の同じ種族の悪魔族でも方言や言葉のニュアンスが異なるらしく、よほど自分たちの故郷に愛着があるんでしょう。故郷のピンチに馳せ参じる為に急いで帰られたそうです」
「温厚だけど、やるときはやるんだな」
ミゼット中尉が懐からスキットルを取り出し、中身を三口程飲む。隣にいてもわかるほどミゼット中尉は酒臭かった
「はい。温和な雰囲気でも一度争いとなれば徹底的に戦い抜く。ハッシェル女王からはそう聞いています」
リディアビーズ皇女はそう答え、窓の外を見る
《全隊へ、もう間も無く廃村だ、警戒しろ》
一旦リディアビーズ皇女が乗るハンヴィーと護衛を残し、先遣隊としてハヴォック二機と劉中尉とレイヴン中尉が率いる二隊が廃村に足を踏み入れた
「ふむ、確かに人気はないな」
レイヴン中尉が辺りを見渡し呟く
川沿いに形成された宿場町とでも言うべきそこは、道沿いに土壁木造の平家が立ち並び、戸は木と障子戸。空の桶や樽が散乱し、大八車には枯れ草で編んだ筵に包まれた白骨自体が放置されている
「娯楽室で見た時代劇の街を思い出すな」
「アレですよね、確か引退した大将が身分を隠して桜の入れ墨を見せながら白馬に乗って法で裁けぬ悪を裁くやつ」
「そう、そんな感じのやつ」
レイヴンは部下の話を適当に流しながら一番大きな建物に近寄る。扉の前には何名かの兵士がたむろしていた
「劉中尉、何かあったか?」
「おお、レイヴン。これを見てくれ」
劉中尉が見ている障子戸を見てレイヴンは頭を捻る
「至って普通に見えるが?」
「そうだな、普通の障子戸だ。でも一年放置された廃村の障子戸にしちゃここだけ手入れされているように見える。穴も塞がれてるし、所々紙の焼け具合が違う。つまり誰かが交換したんだ」
そんな事を言いながら劉中尉はG36cに初弾を込めた
「現地民だといいな」
「ファーストコンタクトだ。全員、ツーマンセルを崩すなよ」
両側に立ち、障子戸を開き、完璧にシンクロした動作で部屋へ入っていく
土間から室内に入り、レイヴン中尉は部屋の真ん中の囲炉裏に近寄る
「見たところ、火は起こしてないようだな、だいぶ使われてないようだ。草が生えてる」
「そうだな」
劉中尉は部屋の戸棚や立てかけられたつっかえ棒を眺めながらそういう
「こっちは何もありません!」
「もぬけの殻です!」
ボロボロになった襖を蹴破り、押し入れや居間に押し入った他の部下からも似たような報告が上がる
そんな中、劉中尉は床に置かれた湯飲みを手に取った
「レイヴン、やっぱり誰かいるぞ」
「なんで?表の障子はたまたまだろ」
「いや、囲炉裏に草は生えてるが土間に植物が生えてなかった、誰かが毎日踏み締めている証拠だ、それに放置されている家に、飲みかけの水があるはずがない」
縁が濡れた湯飲みを持ち上げ、劉中尉がそう言った
「じゃあ一体どこにいるんだ?」
「そうさなぁ……」
劉中尉は居間を歩き、顎に手を添える
「見る限り、これは普通の一軒家、しかしここに隠れる誰かはこの家に隠れた、それはおそらく隠れるに適した特殊な仕掛けがあるからだろう」
例えば、と言いながら劉中尉はつっかえ棒を手に取る
「屋根裏部屋とか」
つっかえ棒を天井に勢いよく突き立てる。天井の一部が外れると同時に人が一人、飛び降り、劉中尉に抱き付き、首にナイフを当てた
「動くなッ!動くとコイツを殺すッ!」
天井から降ってきたその女は錆びたナイフを劉中尉の首に押し当てた
全方位から銃を突きつけられても全く怯まない、常に動きながら照準をズラしてくる
「お嬢さん、すまない。どういうわけだが隠れているところに押し掛けてしまって、我々はただの通りすがりだから、何もしないから取り敢えず、そのナイフをしまってくれ」
「劉中尉、破傷風の注射はいつ受けました?」
劉中尉の部下のパシャ少尉が照準をつける
「いやぁ、かなり前だな。最近忙しくて行ってないんだ。だから金属が身体に入るのは不味いかなって」
「うるさい黙れッ!」
余計に激昂した女がナイフをより強く押し当てた
その直後、女の後ろの兵士がM203を発射。中に詰められたゴム弾が女の肩に直撃した
ゴム弾が直後したのはちょうど肩、当たり方のお陰もあり、脱臼し、ナイフを取り落とす
「確保ぉ!」
レイヴン中尉の号令で複数人の兵士が一斉に飛びかかった
「くっ!殺せッ!ダークエルフの死に様、見せてくれるッ!このけだもの共ッ!」
捕まったダークエルフの女はグルグル巻きにされ、自害防止の為に猿轡もされているが、器用にそれを解いていく
「あなたは、ダークエルフの方ですか」
そこへやってきたのはリディアビーズ皇女である
「貴女様は…不死族の方か、何故クルジドなどという野蛮人共と共にいるのですッ!?」
「落ち着いてください、この方達はクルジド国ではありません、ヘルゴンドの名において、保証します」
「ヘルゴンド、まさか、貴女様はッ!?」
みるみる顔色が青くなるダークエルフの女はどうやったのかわからないが瞬く間に縄から抜け出し、五体投地、言うなれば土下座の体勢をとった
「失礼いたしましたッ!そのお顔をお忘れ致すとは、このテトス、一生の不覚にございまするッ!お許しいただきたく存じますッ!」
地面にめり込まんばかりに頭を擦り付けるダークエルフの女、対するリディアビーズとミゼット達は怪訝そうな顔をしていた
「あの、失礼ですが、何処かでお会いしましたか?」
「ハッ!私、マブニ国今代国主のジャロワーム様にお使えする下忍にございまする、テトスにございます!ハッシェル様が海向こうの国へ嫁がれるまで、おそばにてお仕えさせてもらいました」
「母をご存知なのですか!?」
「母?失礼、貴女様は、ハッシェル様ではないのですか?」
頭だけを上げ、不思議そうな顔をするテトス
「ハッシェルは私の母です。私はリディアビーズ。リラビア魔法国の女王、ハッシェルの娘です」
「な、なんと!それは失礼いたした!ハッシェル様は吸血鬼の不死族、不老不死の存在である故にお見かけが私の中のままで、貴女様ととても似ておられた故、勘違い致した。誠に、申し訳ござりませぬっ!」
再び、土下座の体勢に入るテトスをリディアビーズは止めた。流石に話が進まない
「あの、テトスさん頭をあげてください」
「なりませぬ、テトスとお呼びください、ハッシェル様の娘御様であるなら、我が主人も同然です!」
最初の頃とは打って変わり、眼をキラキラと輝かせてる。餌をもらった犬のようだ
「えっと、ではテトス。なんでこの廃村に隠れていたのですか?」
「はい、ちょうど一年と半年ほど前、海の向こうからクルジド国と名乗る蛮族共が押し寄せ、我が国を蹂躙せしめたのです。マブニ国の当主であるジャロワーム様は直ちに反撃。その甲斐あり、現在はオブロの海岸線に対抗陣地を張ることに成功いたしましたが、いかんせん海岸線すべてを覆えず、少数の敵の上陸を許してしまいました……」
テトスの会話をうなづきながら聞く。ミゼットの他にもレイヴンや劉、フェブランドもいつのまにかやってきていた
「ジャロワーム様が配下の下忍へと下知された命令は上陸した敵の発見、可能ならば殲滅せよとの仰せでした」
「それで貴女はここに潜んでいたのですか?」
「はい、ここの元村人がクルジドの兵士一団がこの近辺で避難民を襲い、夜盗の如き畜生の行いをしてると聞き、実態を把握する為、ここに潜んでおりました」
「だから入り口に人が出入りした形跡があったのか」
劉中尉がボソッと呟いた
「つまり連中がここへ大挙して押し寄せてくるって事か?」
「数はどれくらいですか?」
「おそらく、百から二百」
「みなさん、撃退は可能ですか?」
リディアビーズがレイヴンやミゼットに尋ねた
「これだけの人数と火力、おまけに奇襲と来た。余裕かと」
「あの、そちらの方々は、よく見ると面妖な格好と杖をお持ちですが、海向こうの呪い師か何かで?」
テトスが不思議そうに首を傾げる
「彼らは私の護衛です。同盟国である大日本皇国の精鋭部隊です」
「ダイニッポンコウコク……うぅむ、わからぬ」
「まっ世界は広いってこった」
レイヴンがライフルを肩に担ぐと、フェブランドが吸ったタバコの煙を吐いた
「うちの小隊のドローンオペレーターがこちらへ接近する歩兵と騎兵を確認したってよ」
「到着予定は?」
「二、三時間ぐらいだって。捕虜の民間人もいるとか」
「なんですと!?」
テトスが悲痛そうな表情を浮かべた
「奴らは畜生です!男は殺し、女は辱めてから殺す。戦士としての名乗りや礼儀も弁えぬ外道です!多くの民草が奴らの船へと連れて行かれ、誰も帰ってこない。ここで一泊過ごして奴らは人々を船へと連れていくつもりだ!」
「助けましょう。どの道避けては通れません」
「いいんですか?リディアビーズ様。相手は休戦中の敵国。下手したら外交問題ですよ?」
「生存者がいればの、話ですよね?」
死人に口無し。この皇女は暗にそう言ったのだ
その顔を見たフェブランドは笑みを浮かべるとタバコを軍靴で揉み消した
「じゃあさっさと隠れて、パパッと奇襲しようぜ」
「賛成だ。民間人をほっとくのも目覚めが悪い」
「クルジドの兵士から現地の情報も得られるかも知れん、やる価値はありそうですな」
「決まりだな」
いうがいなや、ミゼットが土間に村の略図を書く
「各隊の工兵に道沿いに爆薬を仕掛けさせろ、うちの小隊の兵士は全員屋根の上、他は任せる。ブラッドレーは村の両端の納屋に隠せ、爆発と同時に一斉にやるぞ、許可は私が取るから安心しろ」
銃剣で奇襲ポイントを指し、改めてメンバーを見渡す
「そういやフェブランド、ヘリの着陸場所はあったのか?」
「ハヴォックの分は無かったです、リトルバードはここから二十分程の位置で待機中です」
「武装と機体を確認させて呼び戻せ、あのイカれキーゼルなら喜んで来るはずだ、小隊ごとに集まり、屋根の上と建物から撃ちまくれ。外へ逃げた奴はキーゼルに任せて、私たちは本命の排除と捕虜の救出だ、いいな?」
ミゼットが意地の悪そうな笑みを浮かべる。それぞれの小隊長達は直ちに無線を取り、部隊を集結させる
「あの、リディアビーズ殿、彼らは、何をするつもりで?」
「民草の奪還と、言うなれば誅罰って奴ですよ」
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