突撃!隣の大陸
大日本皇国 玄武島 土城市
大日本皇国軍警察本庁舎地下
大器は警察庁の地下、施工図にも載っていない部屋にやって来ていた
「さて、大佐、ブラックダガー作戦、状況は?」
「えぇ、ぬかりなく」
向かい合った大器と女性士官の二人、大佐の階級章をつけた彼女は書類を取り出した
「部隊の編成と選抜、勧誘は済ませました。歩兵大隊、工兵中隊、機甲中隊、砲兵大隊、航空部隊、攻撃、偵察ヘリ小隊、補給路、全て確立してます、最高の人材ですよ」
大佐は書類をめくり、そう呟いた
「期限通りに期待以上の成果を見せてくれたな、大佐」
「部下が優秀なのです。それと約束を守るのは男の務めですから」
「……そうか、ジャンヌ大佐は男だったな」
「はい、男ですよ」
鈴を転がすような声で小さく笑いながら大佐はそう言った
「やはり、あの変装とのギャップが凄すぎるな」
「それを狙ってですよ。巨漢の男性が入った部屋に私だけがいたら巨漢の男性が消えたと皆思うでしょう?」
そこで大佐は可愛くウインク。しかし大器は顔を歪めるばかりだった
「まぁ、それは置いといて、知っての通り、作戦は一月後、リラビアが特使を例の大陸に派遣し、非公式に約束を取り付けたらいよいよ始動になる、正直リスクが大きいと思うが人事の方は大丈夫だよな?」
「勿論ですよ」
「怖いくらい優秀だ。ではムルテウ大陸極秘浸透作戦、ブラックダガー計画を実行段階に移す。部隊要員に命令を出せ」
「了解しました、閣下」
「……一つ聞いていいか?」
「なんです?」
「なんでそんなに敬礼がぎこちないんだ?」
「いやぁ、長いことスパイやっているといろんな国の敬礼をして、そっちの方が板についちゃうんですよ、だから慣れてなくて」
「あ、そう……そうだ、聞き忘れる所だったラビット中尉の件はどうなった?」
「ラビット中尉の件は現在進行中です。中々尻尾を出しませんが末端は押さえました、何時でも動かせます」
「そうか、なら深刻な事態になる前に押さえてくれよ」
「はい、わかりました」
リラビア魔法国がクルジド国と戦争を繰り広げた大陸を人々はホロメス大陸と呼んでいた
それに対して反対の大陸、ムルテウ大陸という小さな大陸がある。空の国という意味だ
ホロメス大陸とは違い、三日月のように細長く伸びた大陸で、面積もそれほどあるわけではない、位置関係はユーラシア大陸から見た日本列島のようで、元は大陸の一部だったのが剥がれ落ちたような位置関係で、間を隔てる海はおよそ90km、天気が良ければ対岸が見えるほどだ
帆船で行くとなると道中、魔獣の巣窟があるので大きく迂回するようなルートで行く必要がある為、二週間程の行程が必要である
ムルテウ大陸に住む人々は悪魔族という種族が大多数を占めていた
赤い肌に額には一本か二本のツノ、腰の辺りから細くムチのような尻尾が生えている
悪魔族というが実際は見た目が想像上の悪魔に似てるだけであり、悪魔族自体は誠実で義に熱い種族である
その悪魔族の他にも浅黒い肌に死霊魔術に長け、闇に紛れて生きるダークエルフ族、鉱石の加工や冶金術に優れ、額に種族の誇りである宝石が生える石人族、ハッシェル王妃と同じルーツを持つ不死族、そして多種多様な獣人族や人間といった様々な種族が暮らすのがムルテウ大陸である
このムルテウ大陸とホロメス大陸が最も接する位置にあるマブニという国、ハッシェル王妃の故郷であり、戦前はリラビア魔法国とは非常に友好的な関係にあったのだ
そのマブニの国へ親善大使としてリディアビーズ皇女が赴く。そんな話が持ち上がったのだ
クルジド国との戦争で唯一の海路は封鎖されているが、大日本皇国の参戦で未知の海路と空路が開けた、故に戦況を確認する為に向かうのだ
ただの外交官ではなく、皇女が行く。これは政治パフォーマンスだ
地理的要因から見るとクルジド国の背にマブニ国があることになる。そこへ敵対国の皇女が趣くのだ、休戦協定に違反ではないとはいえ、クルジド国への圧力とパフォーマンスは抜群だろう
オマケにクルジド国が海の向こうの国と戦っているという事はこのマブニ国は間違いなく最前線、そこへ行くのは同じ戦争に苦しむ他国への救いの手であり、同時に同志を得る事になる
大器は反対したが、大日本皇国の一部からも味方は多い方が良いとの判断で決行となった
他国の王族へ嫁いだとはいえ、故郷が気になるのだろう。衛星からの情報では激しい戦火で常に火の手が上がり、映像が見えなくなるからだ
そしてリディアビーズ皇女は大日本皇国で隷属の首輪を外し、一週間の静養の後、大日本皇国海軍の艦に乗り込み、マブニ国へと出発した
その為、マブニ国への航海には近代改修を受けた強襲揚陸艦の神州丸と護衛の重巡二隻、駆逐艦四隻、輸送艦二隻と油槽船二隻、オスカー型原子力潜水艦一隻というそこそこの規模の艦隊が動く事になった
神州丸を始めとした全ての洋上艦は元々は第二次大戦時代の艦艇だが、近代改修の結果現代艦艇に勝るとも劣らない仕上がりになっている
特に神州丸に至っては戦闘機を二機同時に発艦出来、ヘリや航空機は合わせて二十機、LAVやLCAC等も収容し戦場に送り出せるほどに魔改造を受けており、艦長のハーレム少将もニッコリしていた
艦隊はクルジド国の帆船が手出しできない遠方の海域を通り、道中現る魔獣を蹴散らし、一週間かけて予定海域にたどり着いた
「諸君、ブリーフィングを行うぞ」
会議室に集められたのはリディアビーズ皇女の護衛として投入される歩兵四個小隊の小隊長達とヘリ部隊のパイロットと後方支援小隊の役職者達だ
「オスプレイは四機、護衛のハヴォックは二機、リトルバードが偵察として先行して一機、上空にはUAVによる観測とAWACSの誘導付きだ。地上に降りたらハンヴィーとブラッドレーに乗り換えてマブニ国の国王が住む屋敷へと向かう、大まかな流れはこんな感じだ」
ソアラ大尉が指示棒を振り拡大した衛星写真に突き刺した
話を聞いているのは7名、護衛第一小隊の長たるミゼット中尉、第二小隊長のフェブランド中尉、第三小隊長の劉中尉、第四小隊長のレイヴン中尉、攻撃ヘリの小隊長のバーガー大尉とリトルバードに乗る偵察隊のキーゼル中尉、そして神州丸の副長である御厨少佐である
「任務の期限は特使様が諸々交渉を終えるまで、一ヶ月程を想定してる、補給は逐次空路で行われる何か質問は?」
「我々ヘリ小隊は何処までついていけば良いのですか?」
手をあげたのはバーガー大尉だ。相変わらず黒いアイパッチに歪な表情をした少女だが、戦闘ヘリでのキルスコアは空軍トップであるといわれる最強の存在だ
「現地で我々が着陸地点が確保できそうならそこに止まってもらう、無理なら特使様の安全が確保され次第、母艦へ帰投する流れです」
「つまり我々は水先案内人ですか、良いですね、そういうのは」
そう茶化すのはキーゼル中尉だ。どこから遠くを見るような、虚空を睨みつける猫のような怪しさがある
「なにせ母艦から離れている以上、どうしても支援攻撃に時間がかかる。砲兵隊の揚陸はまだ計画段階なので頼りになるのはあなた方攻撃ヘリと、駆逐艦のミサイルのみだ」
「ぞっとしないね、未知の敵地に踏み込むにしちゃ」
ミゼット中尉が呟いた
「降下地点は敵地なのか?」
「いいや、マブニ国の首都から20kmほど離れた廃村だ。生体反応は無し、隠れるなら絶好のポイントだよ」
劉中尉の質問にソアラ大尉はプロジェクターを操作する。廃村の衛星写真が映り、次に映った熱源写真には何もなかった
「交戦規定はどうなってますか?」
「撃たれるまで撃つな。クルジド国とは現在停戦協定が結ばれている。お前らの一発が戦争の引き金になりかねない、撃つなら慎重にな、チェストカメラとヘッドカメラのバッテリーには常に気を配れ、いざとなったらその映像が証拠になる」
「世界平和は遠いな」
劉中尉がそう呟き、レイヴン中尉も肩を竦めた
「我々の存在は明日、クルジド国に伝えられる手筈になっている、そうすれば向こうがけしかけてきたら相手の連絡不足だし、こちらの報告義務も果たしたことになる」
両国とも大使館や電話なんて無い以上、たとえ大事な報告とは言え、手紙や口頭と言った時間のかかるものになる
特使が出発し、マブニ国に着く頃に連絡もクルジド国に着く。早めに伝えてしまってはクルジド国からの妨害が入る恐れがあったからだ
それもこれもクルジド国が海の向こうと戦争してる事をこちらが知らないというクルジド国の思い込みから成り立っている
「現地人は友好的なんですか?ついて早々にドンパチってなったら嫌ですよ?」
「私も詳しくは聞かされてないが、このムルテウ大陸のほとんどを占める悪魔族、意外と温厚で義理堅い性格の者が多いらしい、最悪ヘリで脱出するまでだ」
「クルジド国側の抵抗勢力は?」
ミゼット中尉の言葉にソアラ大尉は反応し、プロジェクターを操作する
「それを忘れる所だった。我々が降りる地点にクルジド軍は当然展開していない。クルジド軍の主戦場は現在海岸線や沿岸部に集中している。敵の海上輸送能力は帆船やガレー船が主だ。漕いでそのまま上陸するか、小舟に乗り換えて上陸するかのどちらかだ。開戦から少なく見ても一年は経つが、クルジド側も未だに決定打を打てないでいるらしい、その間に我々が接触するのだ」
「つまり、航空戦力も無いという事ですか?」
「そうだ、バーガー大尉。ドラゴンは未だに飛んでいるところを確認されていない。だがこの大陸にはアースドラゴンが多く生息しており、クルジド軍も少なくないアースドラゴンを捕獲しているようだ、歩兵諸君はそこを注意しろよ」
「うぃーっす」
ミゼット中尉がやる気のなさそうに答える。ソアラ大尉はガン無視し、参加者を見渡す
「残りの質問は?無ければ以上だ。準備に取り掛かれッ!」
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